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消えた蒼星石」(2006/07/30 (日) 10:55:22) の最新版変更点

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 暑い。布団の上で寝ている俺に、そういった印象を今の季節が感じさせる。まだ6月中旬だが、ずいぶん暑い。 去年もこれぐらい暑かったのか、と考えているうちに目が完全に覚める。それでもまだ半覚醒である脳は、我が体に本能的に時計を見るよう指示をする。 それに俺の体は、人間に必死にこびる犬のように従順に動く。見ると時計の針は10時を過ぎていた。8時には蒼星石が必ず起こしにきてくれるはずだ。 俺は時計の電池がないとか、針を見間違えたなど考えながら時計をにらんでいたがどう見ても10時だった。 ふと蒼星石が眠っている鞄があるはずの方向に目をやる。 「あれ・・・?」 俺は意識もしないのにつぶやく。なぜなら、あるはずの鞄がそこにはないからだ。 蒼星石がついに、俺のイビキと寝相の悪さに愛想を尽かし、鞄の位置を変えたのかと思いつつも居間へと赴く。 しかし居間にも台所にも、帽子をかぶった小さく愛らしい人影は見ることができなかった。どうしたものかと、俺はPCの電源ボタンに指をかけた瞬間、聞きなれたガラスの破裂音が轟く。 それはほかでもない、蒼星石の双子の姉である翠星石だった。 「呼ばれて飛び出て以下略ですぅ」 いつものように理不尽な言い訳(?)を吐きながら鞄から這い出してくる。 「なあ、翠星石。」 俺はかつてない胸騒ぎを感じ、質問することにした。 「蒼星石を・・・知らないか?」 その問いかけにワラジムシを見るような目で"遂に狂ったですこのイカレポンチ"的な波動を俺に感じさせる翠星石。 「蒼星石・・誰ですか、それは」 「誰って、お前の双子の妹だろ。第四ドールの・・・」 「第四?第四ドールは真紅ですぅ。それに翠星石には双子の妹なんていないですぅ」 馬鹿な。第四ドールは蒼星石のはず。それがなぜ存在しないことになっているんだ。  そうか、わかったぞ。みんなで蒼星石を隠して俺を驚かす、そう、ドッキリカメラでもやるつもりなのだろう。 「んなわけねーです。本当に知らないんですぅ。」 「ならなんでお前がここにいる?蒼星石が居なくちゃ、ここにいる意味もないだろう?」 「年若くしてボケが回ってるんですか!?いいです、翠星石が親切に存在意義を唱えてやるです」  そう言われ、俺は数十分ほど翠星石の話を聞かされた。 聞いた話によるところ、翠星石のマスター(仮にA)と俺は親しい友人関係にあって、以前Aが翠星石をつれて俺の家に遊びにきたとき以来、翠星石はちょこちょこ俺が自殺しないように(おそらく建前)窓ガラスをぶち破って訪問している。 「何だ、何かわけがわからない。お前のマスターとは会ったことはあるが、親しい友人でもなんでもないぞ。」 「まったく、昨日が何月であったさえ忘れているようなレベルのボケですぅ。  ・・・気分が害されたです。今日はこれで勘弁してやるです」 そういい切った後、翠星石はさっさと鞄に乗り込んで、生存していたもう片方のガラスをぶち破って帰っていった。  その日、俺はこれまでにない倦怠感に襲われ、植物人間の如くずーっと寝そべっていた。たとえるなら昨日まで元気だったパソコンがHDDごとぶっ壊れた感じだ。 しかし、そんな俺でも腹がすく。何かを作ろうと冷蔵庫の調査をすることにした。 冷蔵庫を開け、肉が保管されているチルド室を見てみる。そこには蒼星石御用達の肉屋から買ってきたレバーがあった。 何か急に懐かしくなり、そのレバーの入ったパックを手にとる。なぜかパックのビニール面にメモが張られていた。 "後ろを振り向くとお前は"とある。その先は俺の指で隠れていて見ることはできない。何も感じなかった俺は指をメモの上から外した。 そこには・・・ と、俺はその文字を垣間見る前に後ろに何者かが居る気配を感じ取った。思考に左右されず、本能が勝手に俺の体を振り向かせる。 「ど、どうしたの、マスター?鬼気せまるような表情だったけど・・・」 栗色のショートヘアをなびかせ、両腕で猫を抱えている彼女は少々困惑しつつも、俺の目をしっかりと見ている。 彼女、そう。蒼星石は今、俺の目の前に存在している。うれしさと驚きが心の中で水と油のようにせめぎあう。 「マスター、顔色悪いよ?貧血気味なの?」 と蒼星石は貧血気味だと俺の健康状態を決め付ける。そしてそれに付け込むかのように片手にぶら下がっていたスーパーの袋から、レバーのパックを披露する。 「今日はマスターの好きなレバニラ炒めだよ」 蒼星石は楽しそうに言うが、どうやら助詞の使い方を間違えている。「は」ではなく「が」だ。なぜなら昨日もおとといもレバニラ 炒めだったからだ。そんな俺をよそに蒼星石はさっさと調理をはじめる。 「あ、そうだマスター。」 「んあ?」 「心配してくれてありがとう」 そう言うと蒼星石は再び顔を背けて調理の続きをする。しばらく脳で情報処理をしていたが、結果、やはり今回のことはドッキリカメラに近い何かということが判明した。  結局その後から蒼星石のいるいつもの日常に戻った。普段はなんとも思わなかったが蒼星石という存在の大きさを思い知らされた1日であった。
 暑い。布団の上で寝ている俺に、そういった印象を今の季節が感じさせる。まだ6月中旬だが、ずいぶん暑い。 去年もこれぐらい暑かったのか、と考えているうちに目が完全に覚める。それでもまだ半覚醒である脳は、我が体に本能的に時計を見るよう指示をする。 それに俺の体は、人間に必死にこびる犬のように従順に動く。見ると時計の針は10時を過ぎていた。8時には蒼星石が必ず起こしにきてくれるはずだ。 俺は時計の電池がないとか、針を見間違えたなど考えながら時計をにらんでいたがどう見ても10時だった。 ふと蒼星石が眠っている鞄があるはずの方向に目をやる。 「あれ・・・?」 俺は意識もしないのにつぶやく。なぜなら、あるはずの鞄がそこにはないからだ。 蒼星石がついに、俺のイビキと寝相の悪さに愛想を尽かし、鞄の位置を変えたのかと思いつつも居間へと赴く。 しかし居間にも台所にも、帽子をかぶった小さく愛らしい人影は見ることができなかった。どうしたものかと、俺はPCの電源ボタンに指をかけた瞬間、聞きなれたガラスの破裂音が轟く。 それはほかでもない、蒼星石の双子の姉である翠星石だった。 「呼ばれて飛び出て以下略ですぅ」 いつものように理不尽な言い訳(?)を吐きながら鞄から這い出してくる。 「なあ、翠星石。」 俺はかつてない胸騒ぎを感じ、質問することにした。 「蒼星石を・・・知らないか?」 その問いかけにワラジムシを見るような目で"遂に狂ったですこのイカレポンチ"的な波動を俺に感じさせる翠星石。 「蒼星石・・誰ですか、それは」 「誰って、お前の双子の妹だろ。第四ドールの・・・」 「第四?第四ドールは真紅ですぅ。それに翠星石には双子の妹なんていないですぅ」 馬鹿な。第四ドールは蒼星石のはず。それがなぜ存在しないことになっているんだ。  そうか、わかったぞ。みんなで蒼星石を隠して俺を驚かす、そう、ドッキリカメラでもやるつもりなのだろう。 「んなわけねーです。本当に知らないんですぅ。」 「ならなんでお前がここにいる?蒼星石が居なくちゃ、ここにいる意味もないだろう?」 「年若くしてボケが回ってるんですか!?いいです、翠星石が親切に存在意義を唱えてやるです」  そう言われ、俺は数十分ほど翠星石の話を聞かされた。 聞いた話によるところ、翠星石のマスター(仮にA)と俺は親しい友人関係にあって、以前Aが翠星石をつれて俺の家に遊びにきたとき以来、翠星石はちょこちょこ俺が自殺しないように(おそらく建前)窓ガラスをぶち破って訪問している。 「何だ、何かわけがわからない。お前のマスターとは会ったことはあるが、親しい友人でもなんでもないぞ。」 「まったく、昨日が何月であったさえ忘れているようなレベルのボケですぅ。  ・・・気分が害されたです。今日はこれで勘弁してやるです」 そういい切った後、翠星石はさっさと鞄に乗り込んで、生存していたもう片方のガラスをぶち破って帰っていった。  その日、俺はこれまでにない倦怠感に襲われ、植物人間の如くずーっと寝そべっていた。たとえるなら昨日まで元気だったパソコンがHDDごとぶっ壊れた感じだ。 しかし、そんな俺でも腹がすく。何かを作ろうと冷蔵庫の調査をすることにした。 冷蔵庫を開け、肉が保管されているチルド室を見てみる。そこには蒼星石御用達の肉屋から買ってきたレバーがあった。 何か急に懐かしくなり、そのレバーの入ったパックを手にとる。なぜかパックのビニール面にメモが張られていた。 "後ろを振り向くとお前は"とある。その先は俺の指で隠れていて見ることはできない。何も感じなかった俺は指をメモの上から外した。 そこには・・・ と、俺はその文字を垣間見る前に後ろに何者かが居る気配を感じ取った。思考に左右されず、本能が勝手に俺の体を振り向かせる。 「ど、どうしたの、マスター?鬼気せまるような表情だったけど・・・」 栗色のショートヘアをなびかせ、両腕で猫を抱えている彼女は少々困惑しつつも、俺の目をしっかりと見ている。 彼女、そう。蒼星石は今、俺の目の前に存在している。うれしさと驚きが心の中で水と油のようにせめぎあう。 「マスター、顔色悪いよ?貧血気味なの?」 と蒼星石は貧血気味だと俺の健康状態を決め付ける。そしてそれに付け込むかのように片手にぶら下がっていたスーパーの袋から、レバーのパックを披露する。 「今日はマスターの好きなレバニラ炒めだよ」 蒼星石は楽しそうに言うが、どうやら助詞の使い方を間違えている。「は」ではなく「も」だ。なぜなら昨日もおとといもレバニラ 炒めだったからだ。そんな俺をよそに蒼星石はさっさと調理をはじめる。 「あ、そうだマスター。」 「んあ?」 「心配してくれてありがとう」 そう言うと蒼星石は再び顔を背けて調理の続きをする。しばらく脳で情報処理をしていたが、結果、やはり今回のことはドッキリカメラに近い何かということが判明した。  結局その後から蒼星石のいるいつもの日常に戻った。普段はなんとも思わなかったが蒼星石という存在の大きさを思い知らされた1日であった。

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