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お酒を飲もう」(2006/05/26 (金) 23:36:35) の最新版変更点

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       俺が仕事場に行ってる間、蒼星石は家事を一通り済ますと俺の帰宅時間まで 桜田家か時計屋の爺さん婆さんとこで過ごしている。    今日は桜田家の方に行くと言ってたが、今頃何やってんだろな。    俺は書類の束に目を通しながら、ふとそう思った。    一方ここは桜田家のリビングルーム。    双子のドール、蒼星石と翠星石がソファの上で談笑していた。だが、 翠:「で、いったいあのアホ人間のどこがいいですか?」    唐突に翠星石はそう切り出した。 蒼:「僕のマスターのことをアホ人間なんて呼ぶのはやめてよ、翠星石。」 翠:「ふん、アホ人間はアホだからアホ人間ですぅ~。    そんなことより、質問に答えるですよ、蒼星石。    いったいあのアホ人間のどこがいいですか?」 蒼:「もう、いきなりどうしてそんなこと訊くのさ。」 翠:「さっきから蒼星石はアホ人間のことばかり喋ってるですよ。    しかも楽しそうに。いったいあんなアホのどこがいいですか!?」    しかし蒼星石は質問に答えず、逆に指摘した。 蒼:「最近、翠星石は僕のマスターのこと、何か目の敵にしてるような気がするんだけど。」 翠:「うっ・・!」    それは大好きな蒼星石がそのアホ人間に取られてしまっている形だからである。    というのも蒼星石はいつも夕方に近くになるとソワソワしだすのだ。    早くマスターの元へ帰りたいというオーラを出しまくっている。    訊けばアホ人間は夜遅く帰ってくることもあるという。    それでも蒼星石は早く帰りたがるのだ。    翠星石としてはこれは非常に面白くない事態である。    この実の姉を差し置いて、アホ人間が蒼星石の好きな人物ナンバーワンに    輝いている(かもしれない)というのは我慢ならない!というわけなのだ。 翠:「キィイ!質問してるのはこっちです!さっさと答えるですよ、蒼星石!」    いよいよ詰め寄られ、答えるしか無くなる蒼星石。 蒼:「え。ぼ、僕のマスターはあの、その・・・。」    だんだん頬に紅が刺し、俯いてもじもじしだす蒼星石。    翠:「!」    蒼星石のこの反応は翠星石にある決意をさせた。 蒼:「僕のマスターは、とて・・・」 翠:「・・・もういいですよ。」    と翠星石は爽やかな笑顔でそう遮った。 蒼:「え・・?」    そして翠星石はスクッと立ち上がるやスタスタと廊下の方へ消えていった。 蒼:「翠星石・・・?」    やがて夕方になり蒼星石はあの忌々しいアホ人間のところへ帰っていった。    さて、愛しい我が妹の目を覚まさせてやるには・・・    ごそごそと棚の中を探してると・・・あった!    翠星石が手にしたのは海外赴任中のジュンの両親が残していったものと    思われる洋酒であった。    翠星石が無作為に選んだ酒だったがアルコール度数、実に43%のウィスキー。    以前、テレビで酒を飲んでデロンデロンに酔っ払った人間がとんでもない    醜態をさらしている場面を翠星石は観た。    一緒に観ていた真紅も「お酒は、人の隠された本性を暴き出す飲み物なのだわ。」とか言っていた。    蒼星石の目の前であのアホ人間の本性を暴きだし、醜態を晒させれば    さすがに蒼星石の目も醒めるに違いない、そう翠星石は確信した。 翠:「このお酒を使って、あのアホ人間を・・・・・・ヒッヒッヒッヒ!」    昔、演じた『白雪姫の継母』の本領発揮といったところか。翠星石、恐ろしい子である。    さて、翌日の土曜日    朝、朝食を終えて今日は特に予定ないな、とか考えてると桜田家の翠星石から電話がきた。 マ:「これからこっちに来るって? 翠星石一人でか?」 翠:「そうですぅ。楽しみに待っとけですぅ!」    そう言うやガチャリと電話が切れた。 マ:「珍しいな。」 蒼:「どうかしたのマスター?」    俺が不思議そうな顔をしてたので蒼星石が訊いてきた。 マ:「翠星石が一人でウチまで来るんだとよ。」 蒼:「へぇ。みんなと一緒にじゃないんだ?」    蒼星石も意外そうな声を上げた。 マ:「ああ、しかし何しに来るんかね。」    翠星石にはつい先日にも向こう脛を思いっきり蹴られたばかりだ。    なんだか嫌な予感がする。 マ:「俺は外出してましょうかね。」    蒼:「もしかしてマスターに用があるんじゃないかな。」 マ:「俺にか?」    ますます嫌な予感は色濃くなっていく。    数分後、蒼星石が翠星石のカバン飛行による突入に備えてベランダの窓を開けた。    そしてさらに数分、窓の外を眺めていると、きたきた。迫ってくる。    ん、あの突入角だと俺の顔面に直撃ではないか?    『空飛ぶカバンには気をつけた方がいい』とかなんとかジュン君が言ってたような。    俺は肩の力を抜き身構える。そして顔面にカバンが当たる間際、見事キャッチすることに成功した。    だが、その後がよろしくなかった。俺は後方に吹っ飛んだのである。 マ:「オゲ!」    後頭部をしこたま床にぶつけてしまった。 マ:「う~ん。」    意識が朦朧とする。 蒼:「マスター!」    床に倒れている俺の頭のすぐ右でカバンの開く音がした。 翠:「おはようですぅ!・・って、ま~だ寝てやがるですかアホ人間。さっさと起きやがれです!    休日だからっていつまでも寝てるんじゃねぇです!」    床に倒れたままの俺を容赦なく足で小突く翠星石。 蒼:「やめてよ、翠星石!」    蒼星石に庇われて俺はようやく起き上がった。まだフラフラする。    数分後、居間にて気付けのためのコーヒーを嚥下する俺の隣で翠星石がニヤニヤしている。 マ:「で、なにしにきたんでしょうか?」    まさか俺をジェノサイドしにきたわけでは・・・    いや、あながちそうでないとも言い切れないのが怖え。 翠:「今日はですねぇ、日ごろ蒼星石が世話になってる礼として、アホ人間を労ってやろうと思ったですよ。」 マ:「?」 蒼:(マスター、気をつけて。翠星石のあの目は何か企んでる目だ・・・!)    翠星石はカバンから何かを取り出した。ん、酒瓶? 翠:「じゃ~ん、翠星石が晩酌してやるですよ!家から持ってきたですぅ!」    翠星石は酒瓶を高らかと持ち上げた。    酒瓶の蓋をひねり出す翠星石。 マ:「え、もしかして今から?」 翠:「そうですよ?」    んん~? 晩酌の意味わかってんのかな? 今、朝なんだけど。    俺はまた小突かれては堪らないので黙っていた。    しかし休日とはいえ朝っぱらから酒はちょっとな~。俺は蒼星石が止めてくれないか期待した。    しかし蒼星石は微笑みながら俺と翠星石のやりとりを見ているだけだった。むむむ。    トクトクトク・・・    ん? つ、注がれてるー!俺が手に持っているコーヒーがまだ半分入ったマグカップに!    酒瓶もよく見るとウィスキーでねぇのあれ? ああ、やはりウィスキーだ・・・    かくして、俺の右手に持ったマグカップの中に、ウィスキーのコーヒー割りが爆誕した。    いや、ウィスキーが後から入ったからコーヒーのウィスキー割りか? 翠:「ささ、遠慮無くグビビって飲むですぅ!」    なんか翠星石がやけに楽しそうだ。    俺は恐る恐る口にマグカップを近づけてみる。 マ:「い、いただきます・・・う!?」    なにか、得も知れぬ匂いが立ち昇っている。これは、未経験の匂いだ。    俺が躊躇してると、 翠:「あれ~、もしかして蒼星石の姉である翠星石のお酌が受け入れられねぇですかぁ?    いただきますと言ったからには飲んでもらわねぇとこっちも居た堪れないですぅ。」    翠星石が挑戦的な眼差しを俺に向ける。    なんかこれと似たようなシチュエーションが、昔読んだ漫画にもあったなぁ。    蒼星石はジーっと俺の方を見ている。ここは覚悟を決めるしかないか。    グビ、グビビ・・・一気に飲み干した。    お、意外に味は悪くない。コーヒーはともかくウィスキーは高級品ぽかったしな。 翠:「お~、いける口ですぅ! ささ、もう一杯。健やかに~伸びやかにぃ~。」    トクトクトクトク・・・ マ:「・・・・。」    今度はストレートかよ。全然健やかでも伸びやかでもないぞ。    グビ、グビビ・・・これも一気に飲み干した。ん~、やはりこのウィスキー、美味いぞ。    トクトクトクトク・・・    グビ、グビビ・・・    トクトクトクトク・・・    グビ、グビビ・・・    せわしなく翠星石が注いでくれる。そんな翠星石と俺を蒼星石は微笑ましく見ていた。    瓶の酒量が中程まで減った頃、翠星石は俺の顔をジィ~と見つめていた。 マ:「?」 翠:「ちょ、ちょっと失礼するです!」    翠星石はキッチンの方へ引っ込んでいった。水割りかお湯割りでも作ってくれるのか?    翠星石がいなくなると蒼星石が口を開いた。 蒼:「マスターは本当にお酒強いなぁ。」 マ:「まぁな。代々酒に強い家系だしな。学生時代は数々の武勇伝を作ったものよ。」 蒼:「だけど、嬉しいな。」 マ:「何が?」 蒼:「うん、マスターと翠星石が仲良くするのが。やっぱり僕の大好きな二人が仲良くするのは嬉しいよ。」    まぁ、いつも翠星石は何かと俺に突っかかってくる傾向があったからなぁ。    一方キッチンにて 翠:「おかしいですねぇ~。あのアホ人間、何杯飲んでもケロッとしてやがるですぅ。」    もしかして自分が持ってきたのは全然酔わないお酒なのだろうか?    そう疑問に思い、手に少し垂らし、ペロンと舐めてみた。 翠:「ひっ!」    再び居間にて    キッチンの方へ目を移すと翠星石が戻ってきた。    ん、何か様子がおかしい。千鳥足だ。 マ:「んんんん?」 翠:「こらぁ~、アホ人間!そこになおれですぅ~!」 マ:「なおってるけど?」    なんか・・・翠星石の顔が赤いぞ、目もトロンとしてて尚且つ据わってる・・・    あー、こりゃ完全に酔ってるな。 蒼:「翠星石、もしかしてさっきのウィスキー飲んだの?」 翠:「蒼星石は黙ってるですぅ! 今、このアホ人間の化けの皮を引っぺがしてやるですぅ!」    そう叫ぶや否や猛然と俺に襲い掛かってきた。    翠星石は俺の膝に乗り、腹にパンチをポコポコ打ち込んできた。 マ:「ああ、お腹はやめて!」    そう言うとアゴを殴られた。 マ:「おげ!」 蒼:「ちょ、ちょっと翠星石、どうしたのさ!?」    蒼星石が慌てて止めに入ろうとしたその時、 翠:「蒼星石は、蒼星石は誰にも渡さねぇです!」 蒼:「え?」    動きを止める蒼星石。翠星石は動きは止めず、相変わらず俺をたこ殴り。 翠:「お前なんかに!お前なんかに!」 マ:「・・・・。」    俺はただ黙って殴られていた。    うすうす感づいてはいた。翠星石が俺を蒼星石に関してライバル視していることを。    蒼星石が我に返り、翠星石を止めようと動きを再開したが、俺はそれを手で遮って止めた。 蒼:「マスター?」 マ:「大丈夫。」    俺を殴打する力が段々弱くなっていることがわかる。翠星石の目は今にも閉じそうだ。    やがて、翠星石は疲れたのか俺の胸に寄りかかりながら眠ってしまった。 翠:「すぅー、すぅー。」 マ:「さて、どうしたものかね。」    俺は翠星石を抱きかかえ直した。俺は座りながら翠星石を後ろから抱いている形になっている。 蒼:「マスターの膝で寝てる・・・。」 マ:「ん?」 蒼:「僕だってそんなことしたことないのに・・・僕だってしたこと・・・」 マ:「ん、あれ、蒼星石サン?」 蒼:「マスターは翠星石のこと・・・・。」 マ:「んん?ああ、しょうがないだろ。翠星石、酔っ払ってたんだからさ。」 蒼:「・・・・。」 マ:「俺、翠星石を桜田家まで送るわ。酒飲んで車使えないから時間ちとかかるけど、    昼食の準備よろしくな。」 蒼:「はい・・・。」    俺は寝ている翠星石をカバンにそうっと入れ、カバンを両手で持ち上げた。 マ:「んじゃ行ってくる。」 蒼:「行ってらっしゃい・・・。」    ああ、蒼星石、なんて元気の無い顔をするのだ。これはいかん、帰ってきたら機嫌とらねば。    桜田家まであと数分というところで、カバンからガサゴソと音がした。    なるべく振動を与えないように両手で慎重に抱えてたが、起きちゃったか? 翠:「今、歩いてるです?」 マ:「ああ。あと少しで桜田邸に着くぞ。」 翠:「そうですか・・・。うう~、なぜか頭がガンガンするですぅ。」    俺はなるべくカバンを揺らさないようにさらに気をつけた。 マ:「酔っ払ってた時のこと覚えてるか?」 翠:「え? 何のことですか? アホ人間やっぱり酔ってたです?」    覚えてないか。 マ:「翠星石は蒼星石のこと大好きだよなぁ。」 翠:「あ、当たり前です! 翠星石は蒼星石のことを世界一愛してるです!」 マ:「おー、世界一か。んじゃ俺は何番目かな?」 翠:「そ、そんなこと翠星石の知ったことじゃねぇです!」 マ:「んじゃ、俺は宇宙一を名乗ろっと。」 翠:「な、なんですってぇー! キィ! あ、あたた頭が・・・」 マ:「俺もなぁ、蒼星石の幸せを願う一人なんだよ。宇宙一を名乗るほど愛してるからな。    俺だけじゃない、桜田家の連中や時計屋の爺さん婆さんももちろんそう願ってるだろう。」 翠:「・・・・。」 マ:「でな、その『蒼星石の幸せ願い隊』の先陣切ってるのが翠星石、君な。    あんなに積極的に蒼星石のために行動してるからな。」 翠:「・・・・。 じゃあアホ人間は?」 マ:「俺か、俺は先陣切ってる翠星石の後ろの方で、蒼星石をガッチリとガードしてるナイトな。    俺自身としてはこの陣形が一番理想的なんだよな。」 翠:「翠星石は面白くないです。その陣形。」 マ:「じゃ、交代するか?」 翠:「え?」 マ:「その代わり、俺が『蒼星石の幸せ願い隊』の先陣を切るからな。」 翠:「・・・・。」 マ:「なぁ、一緒に協力して蒼星石を幸せにしようぜ?」    しばしの沈黙。そして、 翠:「わかったですぅ・・・。・・あと、当分、今の陣形でいいですよ。」 マ:「ありがとう。」 翠:「ふんっ!」 マ:「俺もなぁ、今だから言うが翠星石に嫉妬してたんだぜ?」 翠:「え?」 マ:「蒼星石がなぁ、俺の前で翠星石の話題ばかりするんだよ。    メシ食ってる時とかドライブしてるときとかな。よく話題が尽きないもんだよ。    やっぱり俺には全然及ばない長い付き合いがあるんだなぁって思うよ。    俺の知らない蒼星石をいっぱい知ってる翠星石が羨ましい。」    二度目のしばしの沈黙。やがてポツリと 翠:「アホ人間も、これからいっぱい知ればいいですぅ・・・」    かすかな声だが、確かに聞こえた。 マ:「本当にありがとう。」    俺もかすかな声で言った。    間もなく桜田邸に着いた。       翠星石を無事に桜田邸まで送り届け、俺は帰宅した。 マ:「ただいま~。」 蒼:「マスタ~~、おかえり~~~!!」 マ:「うおっ!」    いきなり飛びついてきた。なんて跳躍力だ。    俺は反射的に胸にしがみ付いてきた蒼星石を抱きかかえた。 蒼:「マスタ~~~!淋しかったよぉ~~!」    蒼星石の様子がおかしい。なんだ、一体どうした?    落ち着いて蒼星石の顔を見ると・・・げげ、酔ってる!?    ブルータス(蒼星石)、お前もか! シーザーの言葉を思い出した。    もしかして翠星石に対抗するために飲んだのか? 蒼:「ねぇ、チュウしよう!チュウ!」    そう言うや否や俺に抱っこされてる蒼星石が俺の頭を両手で固定し、    無理やりキスしてきた。 マ:「ん!? んん~~!」    俺は蒼星石を抱きかかえてるので抵抗できない。 蒼:「ぷはぁ! もういっか~い!」    ブチュウ~~~!    た、助けて。腰が砕けそう・・・・    翠星石姐さん、すみません。ナイトはお姫様にタジタジです・・・                                         終わり
       俺が仕事場に行ってる間、蒼星石は家事を一通り済ますと俺の帰宅時間まで    桜田家か時計屋の爺さん婆さんとこで過ごしている。    今日は桜田家の方に行くと言ってたが、今頃何やってんだろな。    俺は書類の束に目を通しながら、ふとそう思った。    一方ここは桜田家のリビングルーム。    双子のドール、蒼星石と翠星石がソファの上で談笑していた。だが、 翠:「で、いったいあのアホ人間のどこがいいですか?」    唐突に翠星石はそう切り出した。 蒼:「僕のマスターのことをアホ人間なんて呼ぶのはやめてよ、翠星石。」 翠:「ふん、アホ人間はアホだからアホ人間ですぅ~。    そんなことより、質問に答えるですよ、蒼星石。    いったいあのアホ人間のどこがいいですか?」 蒼:「もう、いきなりどうしてそんなこと訊くのさ。」 翠:「さっきから蒼星石はアホ人間のことばかり喋ってるですよ。    しかも楽しそうに。いったいあんなアホのどこがいいですか!?」    しかし蒼星石は質問に答えず、逆に指摘した。 蒼:「最近、翠星石は僕のマスターのこと、何か目の敵にしてるような気がするんだけど。」 翠:「うっ・・!」    それは大好きな蒼星石がそのアホ人間に取られてしまっている形だからである。    というのも蒼星石はいつも夕方に近くになるとソワソワしだすのだ。    早くマスターの元へ帰りたいというオーラを出しまくっている。    訊けばアホ人間は夜遅く帰ってくることもあるという。    それでも蒼星石は早く帰りたがるのだ。    翠星石としてはこれは非常に面白くない事態である。    この実の姉を差し置いて、アホ人間が蒼星石の好きな人物ナンバーワンに    輝いている(かもしれない)というのは我慢ならない!というわけなのだ。 翠:「キィイ!質問してるのはこっちです!さっさと答えるですよ、蒼星石!」    いよいよ詰め寄られ、答えるしか無くなる蒼星石。 蒼:「え。ぼ、僕のマスターはあの、その・・・。」    だんだん頬に紅が刺し、俯いてもじもじしだす蒼星石。    翠:「!」    蒼星石のこの反応は翠星石にある決意をさせた。 蒼:「僕のマスターは、とて・・・」 翠:「・・・もういいですよ。」    と翠星石は爽やかな笑顔でそう遮った。 蒼:「え・・?」    そして翠星石はスクッと立ち上がるやスタスタと廊下の方へ消えていった。 蒼:「翠星石・・・?」    やがて夕方になり蒼星石はあの忌々しいアホ人間のところへ帰っていった。    さて、愛しい我が妹の目を覚まさせてやるには・・・    ごそごそと棚の中を探してると・・・あった!    翠星石が手にしたのは海外赴任中のジュンの両親が残していったものと    思われる洋酒であった。    翠星石が無作為に選んだ酒だったがアルコール度数、実に43%のウィスキー。    以前、テレビで酒を飲んでデロンデロンに酔っ払った人間がとんでもない    醜態をさらしている場面を翠星石は観た。    一緒に観ていた真紅も「お酒は、人の隠された本性を暴き出す飲み物なのだわ。」とか言っていた。    蒼星石の目の前であのアホ人間の本性を暴きだし、醜態を晒させれば    さすがに蒼星石の目も醒めるに違いない、そう翠星石は確信した。 翠:「このお酒を使って、あのアホ人間を・・・・・・ヒッヒッヒッヒ!」    昔、演じた『白雪姫の継母』の本領発揮といったところか。翠星石、恐ろしい子である。    さて、翌日の土曜日    朝、朝食を終えて今日は特に予定ないな、とか考えてると桜田家の翠星石から電話がきた。 マ:「これからこっちに来るって? 翠星石一人でか?」 翠:「そうですぅ。楽しみに待っとけですぅ!」    そう言うやガチャリと電話が切れた。 マ:「珍しいな。」 蒼:「どうかしたのマスター?」    俺が不思議そうな顔をしてたので蒼星石が訊いてきた。 マ:「翠星石が一人でウチまで来るんだとよ。」 蒼:「へぇ。みんなと一緒にじゃないんだ?」    蒼星石も意外そうな声を上げた。 マ:「ああ、しかし何しに来るんかね。」    翠星石にはつい先日にも向こう脛を思いっきり蹴られたばかりだ。    なんだか嫌な予感がする。 マ:「俺は外出してましょうかね。」    蒼:「もしかしてマスターに用があるんじゃないかな。」 マ:「俺にか?」    ますます嫌な予感は色濃くなっていく。    数分後、蒼星石が翠星石のカバン飛行による突入に備えてベランダの窓を開けた。    そしてさらに数分、窓の外を眺めていると、きたきた。迫ってくる。    ん、あの突入角だと俺の顔面に直撃ではないか?    『空飛ぶカバンには気をつけた方がいい』とかなんとかジュン君が言ってたような。    俺は肩の力を抜き身構える。そして顔面にカバンが当たる間際、見事キャッチすることに成功した。    だが、その後がよろしくなかった。俺は後方に吹っ飛んだのである。 マ:「オゲ!」    後頭部をしこたま床にぶつけてしまった。 マ:「う~ん。」    意識が朦朧とする。 蒼:「マスター!」    床に倒れている俺の頭のすぐ右でカバンの開く音がした。 翠:「おはようですぅ!・・って、ま~だ寝てやがるですかアホ人間。さっさと起きやがれです!    休日だからっていつまでも寝てるんじゃねぇです!」    床に倒れたままの俺を容赦なく足で小突く翠星石。 蒼:「やめてよ、翠星石!」    蒼星石に庇われて俺はようやく起き上がった。まだフラフラする。    数分後、居間にて気付けのためのコーヒーを嚥下する俺の隣で翠星石がニヤニヤしている。 マ:「で、なにしにきたんでしょうか?」    まさか俺をジェノサイドしにきたわけでは・・・    いや、あながちそうでないとも言い切れないのが怖え。 翠:「今日はですねぇ、日ごろ蒼星石が世話になってる礼として、アホ人間を労ってやろうと思ったですよ。」 マ:「?」 蒼:(マスター、気をつけて。翠星石のあの目は何か企んでる目だ・・・!)    翠星石はカバンから何かを取り出した。ん、酒瓶? 翠:「じゃ~ん、翠星石が晩酌してやるですよ!家から持ってきたですぅ!」    翠星石は酒瓶を高らかと持ち上げた。    酒瓶の蓋をひねり出す翠星石。 マ:「え、もしかして今から?」 翠:「そうですよ?」    んん~? 晩酌の意味わかってんのかな? 今、朝なんだけど。    俺はまた小突かれては堪らないので黙っていた。    しかし休日とはいえ朝っぱらから酒はちょっとな~。俺は蒼星石が止めてくれないか期待した。    しかし蒼星石は微笑みながら俺と翠星石のやりとりを見ているだけだった。むむむ。    トクトクトク・・・    ん? つ、注がれてるー!俺が手に持っているコーヒーがまだ半分入ったマグカップに!    酒瓶もよく見るとウィスキーでねぇのあれ? ああ、やはりウィスキーだ・・・    かくして、俺の右手に持ったマグカップの中に、ウィスキーのコーヒー割りが爆誕した。    いや、ウィスキーが後から入ったからコーヒーのウィスキー割りか? 翠:「ささ、遠慮無くグビビって飲むですぅ!」    なんか翠星石がやけに楽しそうだ。    俺は恐る恐る口にマグカップを近づけてみる。 マ:「い、いただきます・・・う!?」    なにか、得も知れぬ匂いが立ち昇っている。これは、未経験の匂いだ。    俺が躊躇してると、 翠:「あれ~、もしかして蒼星石の姉である翠星石のお酌が受け入れられねぇですかぁ?    いただきますと言ったからには飲んでもらわねぇとこっちも居た堪れないですぅ。」    翠星石が挑戦的な眼差しを俺に向ける。    なんかこれと似たようなシチュエーションが、昔読んだ漫画にもあったなぁ。    蒼星石はジーっと俺の方を見ている。ここは覚悟を決めるしかないか。    グビ、グビビ・・・一気に飲み干した。    お、意外に味は悪くない。コーヒーはともかくウィスキーは高級品ぽかったしな。 翠:「お~、いける口ですぅ! ささ、もう一杯。健やかに~伸びやかにぃ~。」    トクトクトクトク・・・ マ:「・・・・。」    今度はストレートかよ。全然健やかでも伸びやかでもないぞ。    グビ、グビビ・・・これも一気に飲み干した。ん~、やはりこのウィスキー、美味いぞ。    トクトクトクトク・・・    グビ、グビビ・・・    トクトクトクトク・・・    グビ、グビビ・・・    せわしなく翠星石が注いでくれる。そんな翠星石と俺を蒼星石は微笑ましく見ていた。    瓶の酒量が中程まで減った頃、翠星石は俺の顔をジィ~と見つめていた。 マ:「?」 翠:「ちょ、ちょっと失礼するです!」    翠星石はキッチンの方へ引っ込んでいった。水割りかお湯割りでも作ってくれるのか?    翠星石がいなくなると蒼星石が口を開いた。 蒼:「マスターは本当にお酒強いなぁ。」 マ:「まぁな。代々酒に強い家系だしな。学生時代は数々の武勇伝を作ったものよ。」 蒼:「だけど、嬉しいな。」 マ:「何が?」 蒼:「うん、マスターと翠星石が仲良くするのが。やっぱり僕の大好きな二人が仲良くするのは嬉しいよ。」    まぁ、いつも翠星石は何かと俺に突っかかってくる傾向があったからなぁ。    一方キッチンにて 翠:「おかしいですねぇ~。あのアホ人間、何杯飲んでもケロッとしてやがるですぅ。」    もしかして自分が持ってきたのは全然酔わないお酒なのだろうか?    そう疑問に思い、手に少し垂らし、ペロンと舐めてみた。 翠:「ひっ!」    再び居間にて    キッチンの方へ目を移すと翠星石が戻ってきた。    ん、何か様子がおかしい。千鳥足だ。 マ:「んんんん?」 翠:「こらぁ~、アホ人間!そこになおれですぅ~!」 マ:「なおってるけど?」    なんか・・・翠星石の顔が赤いぞ、目もトロンとしてて尚且つ据わってる・・・    あー、こりゃ完全に酔ってるな。 蒼:「翠星石、もしかしてさっきのウィスキー飲んだの?」 翠:「蒼星石は黙ってるですぅ! 今、このアホ人間の化けの皮を引っぺがしてやるですぅ!」    そう叫ぶや否や猛然と俺に襲い掛かってきた。    翠星石は俺の膝に乗り、腹にパンチをポコポコ打ち込んできた。 マ:「ああ、お腹はやめて!」    そう言うとアゴを殴られた。 マ:「おげ!」 蒼:「ちょ、ちょっと翠星石、どうしたのさ!?」    蒼星石が慌てて止めに入ろうとしたその時、 翠:「蒼星石は、蒼星石は誰にも渡さねぇです!」 蒼:「え?」    動きを止める蒼星石。翠星石は動きは止めず、相変わらず俺をたこ殴り。 翠:「お前なんかに!お前なんかに!」 マ:「・・・・。」    俺はただ黙って殴られていた。    うすうす感づいてはいた。翠星石が俺を蒼星石に関してライバル視していることを。    蒼星石が我に返り、翠星石を止めようと動きを再開したが、俺はそれを手で遮って止めた。 蒼:「マスター?」 マ:「大丈夫。」    俺を殴打する力が段々弱くなっていることがわかる。翠星石の目は今にも閉じそうだ。    やがて、翠星石は疲れたのか俺の胸に寄りかかりながら眠ってしまった。 翠:「すぅー、すぅー。」 マ:「さて、どうしたものかね。」    俺は翠星石を抱きかかえ直した。俺は座りながら翠星石を後ろから抱いている形になっている。 蒼:「マスターの膝で寝てる・・・。」 マ:「ん?」 蒼:「僕だってそんなことしたことないのに・・・僕だってしたこと・・・」 マ:「ん、あれ、蒼星石サン?」 蒼:「マスターは翠星石のこと・・・・。」 マ:「んん?ああ、しょうがないだろ。翠星石、酔っ払ってたんだからさ。」 蒼:「・・・・。」 マ:「俺、翠星石を桜田家まで送るわ。酒飲んで車使えないから時間ちとかかるけど、    昼食の準備よろしくな。」 蒼:「はい・・・。」    俺は寝ている翠星石をカバンにそうっと入れ、カバンを両手で持ち上げた。 マ:「んじゃ行ってくる。」 蒼:「行ってらっしゃい・・・。」    ああ、蒼星石、なんて元気の無い顔をするのだ。これはいかん、帰ってきたら機嫌とらねば。    桜田家まであと数分というところで、カバンからガサゴソと音がした。    なるべく振動を与えないように両手で慎重に抱えてたが、起きちゃったか? 翠:「今、歩いてるです?」 マ:「ああ。あと少しで桜田邸に着くぞ。」 翠:「そうですか・・・。うう~、なぜか頭がガンガンするですぅ。」    俺はなるべくカバンを揺らさないようにさらに気をつけた。 マ:「酔っ払ってた時のこと覚えてるか?」 翠:「え? 何のことですか? アホ人間やっぱり酔ってたです?」    覚えてないか。 マ:「翠星石は蒼星石のこと大好きだよなぁ。」 翠:「あ、当たり前です! 翠星石は蒼星石のことを世界一愛してるです!」 マ:「おー、世界一か。んじゃ俺は何番目かな?」 翠:「そ、そんなこと翠星石の知ったことじゃねぇです!」 マ:「んじゃ、俺は宇宙一を名乗ろっと。」 翠:「な、なんですってぇー! キィ! あ、あたた頭が・・・」 マ:「俺もなぁ、蒼星石の幸せを願う一人なんだよ。宇宙一を名乗るほど愛してるからな。    俺だけじゃない、桜田家の連中や時計屋の爺さん婆さんももちろんそう願ってるだろう。」 翠:「・・・・。」 マ:「でな、その『蒼星石の幸せ願い隊』の先陣切ってるのが翠星石、君な。    あんなに積極的に蒼星石のために行動してるからな。」 翠:「・・・・。 じゃあアホ人間は?」 マ:「俺か、俺は先陣切ってる翠星石の後ろの方で、蒼星石をガッチリとガードしてるナイトな。    俺自身としてはこの陣形が一番理想的なんだよな。」 翠:「翠星石は面白くないです。その陣形。」 マ:「じゃ、交代するか?」 翠:「え?」 マ:「その代わり、俺が『蒼星石の幸せ願い隊』の先陣を切るからな。」 翠:「・・・・。」 マ:「なぁ、一緒に協力して蒼星石を幸せにしようぜ?」    しばしの沈黙。そして、 翠:「わかったですぅ・・・。・・あと、当分、今の陣形でいいですよ。」 マ:「ありがとう。」 翠:「ふんっ!」 マ:「俺もなぁ、今だから言うが翠星石に嫉妬してたんだぜ?」 翠:「え?」 マ:「蒼星石がなぁ、俺の前で翠星石の話題ばかりするんだよ。    メシ食ってる時とかドライブしてるときとかな。よく話題が尽きないもんだよ。    やっぱり俺には全然及ばない長い付き合いがあるんだなぁって思うよ。    俺の知らない蒼星石をいっぱい知ってる翠星石が羨ましい。」    二度目のしばしの沈黙。やがてポツリと 翠:「アホ人間も、これからいっぱい知ればいいですぅ・・・」    かすかな声だが、確かに聞こえた。 マ:「本当にありがとう。」    俺もかすかな声で言った。    間もなく桜田邸に着いた。       翠星石を無事に桜田邸まで送り届け、俺は帰宅した。 マ:「ただいま~。」 蒼:「マスタ~~、おかえり~~~!!」 マ:「うおっ!」    いきなり飛びついてきた。なんて跳躍力だ。    俺は反射的に胸にしがみ付いてきた蒼星石を抱きかかえた。 蒼:「マスタ~~~!淋しかったよぉ~~!」    蒼星石の様子がおかしい。なんだ、一体どうした?    落ち着いて蒼星石の顔を見ると・・・げげ、酔ってる!?    ブルータス(蒼星石)、お前もか! シーザーの言葉を思い出した。    もしかして翠星石に対抗するために飲んだのか? 蒼:「ねぇ、チュウしよう!チュウ!」    そう言うや否や俺に抱っこされてる蒼星石が俺の頭を両手で固定し、    無理やりキスしてきた。 マ:「ん!? んん~~!」    俺は蒼星石を抱きかかえてるので抵抗できない。 蒼:「ぷはぁ! もういっか~い!」    ブチュウ~~~!    た、助けて。腰が砕けそう・・・・    翠星石姐さん、すみません。ナイトはお姫様にタジタジです・・・                                         終わり

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