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スノーレジャー その7」(2008/01/21 (月) 00:11:20) の最新版変更点

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蒼:「マスターしっかりして! マスターってば!」 マ:「う~ん……」    金糸雀が恐る恐るマスターの頬をつついた。 マ:「ハラホロヒレハレ……」 金:「完全に気を失ってるかしら」 翠:「これはもう駄目かもわからんですねぇ」 蒼:「わ~ん、マスタぁ~!」    狼狽する蒼星石を、やや呆れたように見やる翠星石と金糸雀。    そこで金糸雀がハッと思いついたように口を開いた。 金:「マスターさんにトドメを差したのは間違いなく蒼星石なのかしら!」    たしかにそうだが。 翠:「! そうですっ、いきなり熱湯を浴びせるなんて、なんてえげつないことするですぅ!」    自分らのやったことを棚に上げ、一気にまくしたてる翠星石と金糸雀。    うまくいけば、先ほどまで行ったマスター虐待の事実をうやむやにできるかもしれない。 蒼:「うぅ……」    実際、返す言葉も無く蒼星石はうなだれた。    そんな蒼星石の様子を見て、翠星石はニヤリとほくそえむ。 翠:「まぁ、誰しも間違いってものを犯すものですよぅ」    急に諭すよう優しい口調になる翠星石。 金:「そ、その通りかしら! 蒼星石に悪気は無かったのかしら!」 翠:「ささ、元気を出すですよ、蒼星石。 アホ人間はこれくらいじゃ死なねぇですよ」    いつの間にか蒼星石を慰める立場になっている2人。 マ:「う~んう~んう~ん」 蒼:「マスター・・」 翠:「どちらにせよ翠星石達だけじゃどうにもできないですよ。とりあえずジュンたちを呼びにいってくるです」 蒼:「うん、お願い…」    そそくさと逃げるように翠星石と金糸雀が走り去った。    そして、残された蒼星石と気絶したマスター。    蒼星石がマスターの耳元に顔を近づける。 蒼:「ごめんなさい……マスター……」 マ:「………」 ?:「起き、て…」 マ:「……」 ?:「ねぇ…起き…て…?」    誰かが俺をしきりに呼びかけている。   「こんな、ところ…寝て、凍えてしまう……」    誰かの指先が俺の頬にそうっと触れた。    この小さな指先……    俺はうっすらと目を開けた。    視界の横に誰かが俺を覗き込んでいることに気付く。誰だ。    焦点を合わせ、凝らす。 マ:「………」   「………」    防寒着を着込んだ少女がじっと俺を見つめていた。 マ:「………」    俺に向けられる少女の瞳は、一つだけだった。    もう片方の瞳、左目には薔薇の眼帯が施されている。    右目は金色……。    この子は……    記憶を辿りながらやっと俺は起き上がった。    顔にも積もっていた雪がさらさらと落ちる。    少女は黙って俺を見ていた。 マ:「よう、前にも会ったよな?」    少女がコクリと頷いた。 マ:「ふー」    軽く息を吐き、辺りを見渡して改めて状況確認を行う。    ちらほらと辺りに雪が舞い落ちる状況は、気を失う前にいた場所と同じだが、他が違った。    あたり一面真っ暗闇だ。漆黒の闇の元、雪原が辺りに広がっている。    これは夜の闇と異なる、光源の無い閉鎖空間が作り出す種類の闇だ。    もちろん、上を向いても月明かりや星の瞬きなどは一切見えない。    かろうじて少女の持っている洋燈だけが、煌々と俺と少女だけをぼんやりと照らしてる。 マ:「ふう、まったくよ……」    俺はここにきてから二回目の溜め息をつき、気絶する直前の出来事を回想した。    まさか蒼星石からアツアツの茶をブチマケられるとは思わなんだ。    前にここに来た時のこと(SS「マスターの一番長い日」参照))といい、蒼星石は間違いなく天然系ドSっ子だな。 マ:「ん?」    袖を引っ張られ、そこへ視線を向けると、少女がまだ俺を見つめていた。 マ:「なんだ?」    少女がある方向を指差した。暗くてよくわからない。    少女とともにそこへ向かう。    そこにはいびつな雪の塊が1つ置かれていた。 マ:「なんでぇ、こりゃ?」    少女が俺の袖から手を離し、雪の塊に駆け寄る。    そして地面の雪をすくっては塊にペタペタと貼り付けはじめた。    俺は少女の傍に寄り、中腰になって尋ねる。 マ:「何してんだ?」    少女を手を止め、俺を見つめてから言った。   「雪、あそび…」 マ:「ふむ」    あまり楽しそうには見えない。    少女はずっと無表情だった。 マ:「ここから出る方法知らないか?」    少しの間を置き、少女が答えた。   「知らな…い…」 マ:「そうか」    まいったな。    俺は改めて辺りを見渡した。暗闇だけが広がっている。    やはりこの子一人だけか。 マ:「お父さんはどうした?」   「………」    少女は答えなかった。何も反応がない。    黙々と雪を固める作業を続けている。 マ:「?」    俺は少女の傍らに腰を落とし、固められていく雪を眺めながら尋ねた。 マ:「何作ってるんだ?」   「……スノー…マン」 マ:「スノーマン? ああ、雪だるまか…って雪だるまぁ?」    固められている雪は所々デコボコで、とても雪だるまに見えない。 マ:「俺の知ってる雪だるまの作り方と少し違うな」   「?」    少女は首をかしげた。 マ:「初めは小さな雪球を作ってな、それを玉転がしみたいに雪の上に転がして、どんどん大きくしていくんだよ」   「たまこ…ろ…がし?」 マ:「説明するよりやってみた方がはやいか。まずはこう雪球を作ってな」    俺は雪球を一つ握り、雪原に転がした。    少女は黙って俺の様子を見ている。さっきからずいぶんと大人しい子だなぁ。    俺は雪球をどんどん転がし、ほどなく雪球はサッカーボールほどの大きさまでなった。 マ:「こんなふうにな、知らないか?」   「知らない」    少女は首を振った。    この子はずうっと、一人で遊んでいたのだろうか。 マ:「お父さんと遊んだりしないのかい?」   「………」    少女は答えず黙りこくってしまった。    数秒間、空白が場を支配のち、   「お父様は、忙しい…から」 マ:「そうか…」    俺はしばし考え込む。    こんな暗いところ女の子一人でか……。なんだか気にくわん話だ。   「ごめん…なさい」 マ:「なんで謝る?」   「………」    再び沈黙する少女。    ん~。    俺は頭をポリポリと掻きつつ、立ち上がり、少女を傍らに招く。 マ:「いいさ。 ほら、こっちきてやってみ」    少女は小さく頷いた。    雪球を転がしてる間も、やはりというか、少女は無表情のままだった。    俺はそんな少女の様子を黙って見守っている。他にすべきことが無い。    少女の手が止まった。俺の方へ振り向く。   「うまく……でき……てる?」 マ:「ああ。できてるよ」          少女は再び雪球を転がし始めた。    はてさて、先ほどからずっと、ここから出る方法を考えてるが、いい案は浮かんでこない。    ううむ、やはり頼るしかないのか、この子の父親に。   「あの…」 マ:「ん?」   「うま…く…ころ…がせ……ない」    雪球はもうドールである少女の手に余るほど大きくなっていた。 マ:「ほいほい」    俺も少女の背後に回り、一緒に転がすのを手伝ってやる。    コロコロゴロゴロと雪球を転がし、雪だるまの胴体が完成した。   「あと、二つ……」    完成した胴体部分の雪球を見つめながら少女が呟いた。    二つ…?    確か、欧米の雪だるまは三段構成だっけか。    それはいいが……さて、そろそろ帰らないと不味いよなぁ。    蒼星石、心配してるだろうし。    少女は二段目の雪球の作成に取り掛かっていた。   「一緒に…」    こちらを向き、せがむように少女が言った。 マ:「転がせって? まだ君一人で転がせる大きさだろ」   「……あった……かい…から…」 マ:「…?」    なんのことだ? 少し考え込み………、わからない。    俺が首を捻ってると、少女の手が完全に止まった。    ただ懇願するように俺を見つめるばかりだ。    ふむ、別に断る理由もないか。 マ:「了解了解」    俺は即座に少女の背後に回り、一緒に雪球を転がす作業を手伝った。   「やっぱり…、あった……かい」    どうやら、後ろから少女を抱え込むようにいる俺のおかげで暖かいらしい。 マ:「そんなに寒いのか?」   「ちが…う。……けど………あった……かい」    俺はこの時、蒼星石を抱っこしている時のことを思い出した。    彼女も、あったかいと言う。 マ:「そうか…そりゃあ……よかったな」    この子は、人恋しかったのだろうか。    俺は今、蒼星石がとても恋しい。    早いとこ、ここから出たいなぁ。やはりこの子の親父殿に頼るしかないか。    正直、気乗りしないのだが。 マ:「お父さんは、今どこに?」    少女の手がはたと止まった。    父親のことを聞くたびに、この子は口を噤(つぐ)んでいる。    これはやはり、なにかあったに間違い無い。   「………」 マ:「まさか、家出中じゃないだろうな…?」    まったく根拠に乏しいが、思わず口に出てしまった。   「………」    否定しないな……。 マ:「マジでか?」   「………」    少女はかすかに頷いた。 マ:「うむむ」    家出少女か。こりゃまた、まいったな。 マ:「何が原因で?」    こう他人の家庭の込み入った話は訊くものではないかもしれんが、このままでは話が進まん。   「………」    それに、女の子の思い詰める姿は見るに耐えない。 マ:「お父上と喧嘩でもしたのかい?」   「違う…!」 マ:「お?」    今までたどたどしい口調だった少女の、突然のキッパリとした否定に、思わず俺は鼻白んでしまった。   「………」    そしてまた、少女は沈黙してしまった。    これは思ったより深刻かもしれない。    さて、どうするべぇか。 マ:「ん?」    よく見ると、少女の右目に大粒の涙が…… マ:「ちょちょちょっと、まて! なんで泣きそうになってんだよ!」    これにはビックリだ。   「お父様……う、ぐす…」    少女の瞳からポロポロと涙が零れ落ちた。 マ:「まさか、なんかされたのか?」   「違うっ!!」 マ:「おおう!」    なんだなんだ、聞いてた話と全然違うぞ。    めちゃくちゃ感情的な子じゃないか。   「う、ぐす…うう……お父様……」 マ:「なんかあったのか?」    少女は肩を震わせ泣くばかりだ。これには参った。 マ:「泣いてばかりじゃわからないだろう?」    犬のおまわりさんの気持ちがよくわかる。    目の前の子猫は迷子じゃなく家出なのだが。   「私は……、私はお父様に……うっう」    こりゃ、泣き止ます方が先決だな。 マ:「ほら、これで涙を拭きな」    懐から取り出したハンケチを差し出す。   「…?」    じっとそれを見入る少女。    俺は屈んで少女の頬にそっとハンケチを充てがった。 マ:「このまんまじゃ、せっかくの美人さんが台無しだからな」    涙を拭かれている間、少女はきょとんとしていた。 マ:「落ち着いたようだな」    やれやれと胸を撫で下ろし、俺は少女の頭を撫でた。 マ:「で、どうしてこんなところに一人でいるんだ?」   「…それ、は……」    その時、 ?:「これはこれは」    突然、第三者の声が背後でした。    少女と一緒に声がした方向へ首を巡らせる。そこには… 兎:「お2人方、お久しぶりでございます」    こちらに恭しく会釈をするのは、俺のいけ好かない野郎ランキングNo1のラプラスとかいう怪人だった。 マ:「出やがったな。やっぱりてめぇが一枚噛んでたか、兎頭」 兎:「これはしたり」 マ:「何がだ? どうせ俺がここに飛ばされたのもお前の仕業だろうが」 兎:「とんでもない。濡れ衣ですよ。しんしんと降る雪にまぎれ、涙にうるむ乙女の声が聞こえましてね。    それをたよりに、今ここに馳せ参じた次第です」    毛頭信じる気にはなれねぇ。 兎:「ところで、もうその子は泣き止まれたようですが、泣かせたのはあなたですか?」 マ:「うっ」    そうなるな…。痛いとこ突かれた。 兎:「いけませんねぇ…、くくく。復讐の一環ですか?」 マ:「あ?」 兎:「その子は、あなたの愛しの人を誑かし、破滅に追い込んだ張本人ですからね」    ニィッと兎頭が哂った。なんて卑しく不気味な笑みか。    俺は自分の足にすがり付く少女に気付いた。驚いたことに、怯えている。ラプラスに対して。    やはり報告と違う。 マ:「お前の所業も知ってるぞ」 兎:「ほう」 マ:「この子を誑かした。お前が元凶だ」 兎:「全て、ご存知でしたか」    少しも悪びれたふうもなく、兎頭は言った。むしろ楽しげだ。 兎:「あなたも、色々と調べているのですね。感心です」    本当に神経を逆なでする。 マ:「ソテーにすんぞ、この野郎」 兎:「あまり熱くならずに」 マ:「この…」    一歩踏み出そうとする俺を、少女が掴んで止めた。 マ:「なんだ?」   「…ダメ……」 兎:「その子には、もう戦う力はありません」 マ:「みたいだな」 兎:「あなたを元の場所に帰す力も、ありません」 マ:「………」    俺は兎頭を睨みつけた。 マ:「言っておくがな、お前の力は借りんぞ」 兎:「そうですか」    淡々と兎頭は言った。 マ:「お前は用無しだ。どっかに行ってろ」 兎:「よいのですか?」    俺は少女に視線を移した。震えている。    俺は小声で『大丈夫だ』と呼びかけた。    兎頭に向き直る。 マ:「これから色々と取り込みそうなんだよ。お前に構ってる暇は無いわけだ」 兎:「なるほど。くく、あなたは本当に、人がいい……。では、またお会いいましょう」 マ:「ああ。首を洗って待ってやがれ」    兎頭は直立不動のまま、闇の中へすうっと後退していった。    まったく、薄気味悪いやつだ。 しかし、いったい何しにきたのだろうか。    あのラプラスとかいう野郎の考えてることはさっぱりわからない。    まぁ、不老不死者ってのは総じて思考回路が破綻してるものだからな。考えても無駄か。    俺は再び、少女に向きなおった。 マ:「もう平気だ」    いや、まだ兎頭の野郎は俺ら2人を見てるだろう。だが、もう干渉はしてこまい。    放っておく。   マ:「じゃ、家出の理由、訊かせてくれるか?」    少女、薔薇水晶はコクンと頷いた。                                       「スノーレジャー その8」に続く

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