はぁ…白雪姫…か マスターが買ってきてくれた本の中に、そんな話があった。 7人の小人、それからお姫様…まるで僕たちのようで柄にもなく少し運命を感じたりする。 それに、真紅達も、この話は知っているらしい…なんでもジュン君のお姉さんの頼みで劇の練習をしたとか… はぁ…また、溜息。本日何度目だろうか。眠っているお姫様を王子様のキスで…目覚める…か。 多分、僕はお姫様になんか選ばれない。そもそも、僕にスポットがあたることなんか想像がつかない。 よくて脇役、白雪姫で言えば魔女か…小人が良いところだ。 それでも…もしも、僕が…ううん、ありえない、そんなことを考えるのはよそう。 僕には、アリスという道が残ってるんだ。僕が唯一ヒロインになれる場所。 あ、そろそろマスターが帰ってくる時間だ、晩ご飯…作らないと。 「蒼星石?どうした、今日は調子が悪そうだけど…」 「う、ううん、なんでもない」 「そっか…無茶はよくないぞ?」 晩ご飯。いつものように食事をしていたつもりだけど、マスターの一言でふと、気がついた。 どうやら鈍感なマスターも気づくほど僕は考え込んでいたらしい。くだらないことで…。 「そ、その、マスター…」 「ん?」 「ぼ、僕…そ、その、女の子っぽいかな…?」 「へ…?」 「そ、その、へ、変なこときいてごめんね……」 ふと、気になって訊いてしまった自分が恥ずかしい。 自分でもはっきりと答えきれないのにきいた僕が馬鹿だった。マスターも返答に困っている… 「そうだなぁ…蒼星石は誰よりも女の子だなぁ、他のドールズよりも、それから、他の人よりも」 「え?」 今度は僕が驚く番だった。 「それに…ほらそうやって悩んでるところも…」 …こんな時だけ、妙に勘の鋭いマスターが話していく。 「いやなぁ、悪いとは思ったけど、その、本を買ってからというものの、蒼星石がいつも本にかじりついてるから何読んでるんだろう、って気になってな」 「…あ」 そういえば、いつも白雪姫のところで開きっぱなしだったような… 「いっつも、自分がボーイッシュだとかそういうところで悩んでるんだろうなぁ、って。実に女の子らしい悩みじゃないか。それに悩んでる蒼星石だって可愛いしさ」 「そ、そんな、へ、変なこと言わないでよっ…そんな余計な気遣いは…」 「どうした?慌てて。俺は何も気遣っちゃいない、真実だぞ、それとも、俺の言うことはやっぱり…嘘か?」 マスターの目は嘘をついてない。それは僕でもはっきりと分かる。 「ううん、そんなことはないけど…でも僕はそんなに自分に自信が持てない…」 「そんなの俺だって一緒だ。自分に自信なんてこれっぽっちももてないけど、 蒼星石の事に関しては、そうだな…翠星石よりもはっきりと言い切る自信がある」 まるで…、真紅とジュン君とは全く逆の関係。ジュン君が真紅に勇気を貰っているように、僕はマスターに勇気を貰っている。 「蒼星石はもっと、自分に自信を持って良い。翠星石の影に立つんじゃなくて、もっとはっきりと自分を」 マスターの言葉で僕は、目が覚めた。 「僕は、僕でありたい」 …レンピカがこの人を選んだのが…正しいことだと今なら言える。 ―――白雪姫は、王子様のキスで目が覚める。 僕もマスターのキスが…欲しい。ある種、僕が僕たりえるための儀式、そしてそれから…僕の、女としての願望。 「…そ、その僕も…目覚めのキスが…欲しいですマスター…」 突拍子もない言葉。マスターは受け入れてくれるだろうか…、ううん、自分に自信を持って。 マスターは決して裏切らない。裏切るのはいつも自分自身から。…なら、僕は僕を信じる。僕を絶対に受け入れてくれるはずだ。 マスターの手が肩にかけられる。僕は目を瞑り、少しだけ唇を前に出す。マスターの吐息が肌に感じるほど近い。 「あ…」 (省略されました・・全てを読むには脳内を働かせて妄想してください)