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遊園地へ行こう5 マスター編 - (2006/07/14 (金) 16:44:25) のソース

マ:「あ、あ・・・ち、違う・・・い、い、いやぁあああああ!!」   
蒼:「マ、マスター!」
   俺はその場から脱兎のごとく逃げ出した。
   俺はただ蒼星石の料理を食べたかっただけなんだ。なのに、なのに!
   俺は脇目もふらず走り続けた。
   ふと気付くと蒼星石達からだいぶ離れたエリアまで来てしまったようだ。
マ:「はぁ、何をやってるんだ、俺は。」
   深い溜息をつきながらトボトボと引き返す。
   ああ~~、どの面下げて戻ればいいんだ・・・?
   あの連中にあの誤解を解くのは至難の業だぞ・・・。
   俺は憂鬱感に満たされながら蒼星石達のいる方角へ歩いていく、そんな折
   いきなり後ろから肩を掴まれた。誰だ?
   俺が振り向くと強面の黒服の男三人が俺を取り囲んだ。
マ:「ん、どちらさんでしょ?」
黒:「つべこべ言わず来い。」
   なかなかドスの利いた声だ。
マ:「あ?」
   なんだ、こいつら。
   黒服の男の一人が俺の肩を掴んだままだ。強く握って俺を離そうとしない。
   ん~、抵抗した方がいいのか?
   しかし、ここは人が多いからなぁ。逃げ出すにしても騒ぎを起こしかねない。
   ドール達が連れにいる以上、目立つのは不味い。
マ:「ほいほい。」
   しかし、蒼星石達にもこの黒服の男達が向かっているのだろうか?
マ:「おい、言っておくが俺の連れに何かちょっかい出したら許さんぞ。」
黒:「は? お前の連れのことなど知らん。用があるのはお前だけだ。さぁ、歩け。」
   ??? 俺だけ?
   
  
   人気の無いエリアまで連れられた俺。
   俺はベンチに座らされ、それを三人の黒服の男が取り囲んでいる。
   う~~ん、ドール達が連れ去られる可能性は想定していたが、まさか俺が連れ去られるとは想定の範囲外だったな。
   しかし俺は何されるんだ? 俺にだけ用があるだと? まさか・・・この後、ウホッな展開が・・・?
   誰かたっけてー(´∀`)
   黒服の男の一人がなにやら携帯電話で誰かと会話してる。
   会話の中に『身代金』とか『消す』とかなにやら物騒な単語が出てるんですが。
   『身代金』つったって、俺のためにそんなに大金を払う知り合いはいないぞ。
   つうか人質に情報がただ漏れしてるじゃねえか。こいつら阿呆なのか?
   引き続き電話の会話内容を聞いてると驚愕の事実が判明した。
   どうやらこいつら俺を誰かと勘違いしてるらしい。マジか。この黒服トリオ。
黒:「おい、場所が変更されたそうだ。移動するぞ。」
   黒服の男が電話を終えるなり別の黒服にそう言った。
   むむむ、ここらで人違いの誤解を解く必要があるな。
マ:「おい、俺はお前らの目当ての人物じゃないぞ。」
   そして俺は本名を名乗った。
黒:「はぁ? なにデタラメこいてやがる。」
   三人の内の一人が胸ポケットから写真を出して俺と写真を見比べる。
黒:「間違いない。この金髪の男だ。」
   間違いあるよ! このウスラトンカチが!
   よほど写真の人物と俺は似てるらしい。
   金髪であることも共通点であるようだ。くそ、その写真見てみてぇな。
   しかしこのままでは埒が明かない。
   ひと気も無いし、ここらでとりあえず逃げ出した方がよさそうだな。俺は隙を伺う。
マ:「もう一度言う。人違いだ。再度写真出して三人で見比べてみるんだ。」
黒:「これ以上無駄口叩くな。お前は黙ってバカみたいに俺達の言うこと聞いてろ。」
   なんだとこの野郎。
黒:「さぁ、立て。」
マ:「ほいほい。」
   俺は立つと同時に頭を黒服の顎に思いっきり直撃させてやった。
黒:「うが!」
   どうだ、俺の頭突きは。
   ぶつけた頭が痛むが、すかさず逃走に入る俺。
   が、世の中そう都合よくいかないもんだな。俺は別の男に上着の裾を掴まれた。
   俺は上着を瞬時に脱ぐ。
黒:「くそ!」
   どうだ、俺の早脱ぎは。きたるべき蒼星石とのアレに備えて日々特訓していたのだ、というのは嘘だ。
   もう一人の黒服は今まで従順だった俺の突然の反乱に驚いて何もできないようだった。使えないやつだな。
   スタコラサッサと逃げ出すことに成功する俺。三十六計逃げるが勝ちよ。上着なんぞくれてやる。
   

   俺は蒼星石達が待っているであろう、昼食を広げていた場所へ急ごうとした。
   だが・・・さっきの黒服の仲間達であろう、同じく黒服の男達が遊園地内を右往左往してた。
   さっきのやつら、携帯で応援呼んだのか。
   しかし物騒な光景だなぁ。警備員さっさとつまみ出してくれよ。
   俺は見つからないよう建物の影に隠れたりして周りに注意しながら歩を進める。
   しかし、今の俺は一般人から見るとかなり挙動不審者だろうな。
   くそ、単なる人違いのせいで俺はえらい迷惑を蒙っている。なんだかむかっ腹が立ってきたなぁ。
   今頃、蒼星石達も俺が戻らなくて心配してるだろうしなぁ。
   そろそろ蒼星石達がいる場所が見えてくるかな、というところで
黒:「おい、いたぞ!」
   やべぇ、黒服の男に見つかってしまった。
   この怪しい男どもを蒼星石達の所へ連れて行くワケにはイカンので
   俺は蒼星石達のいる方向とは違う方向へダッシュして逃げることにした。
   なんとか振り切らねば。しばし走って後ろを振り向くと・・・ゲゲ、黒服が増えとる。
   以後バイバイゲームで増えていく黒服達。こいつら細胞分裂でもすんのか。
   こりゃたまらん。どこか逃げやすい場所はないか。
   幸いこの遊園地の地図は完全に頭に入っている。実際にここの地図を自前で書いたしな。
   俺は頭の中をグイングイン回転させた。
   ・・・よし、ここから近い遊園地内にあるウェスタン村に逃げ込もう。
   西部劇に出てくる建物が乱立してて、黒服どもをかく乱しやすいだろう。
   俺は走りながらウェスタン村に入り、狭い路地裏に逃げ込む。
   お、追っ手が見えない。どうやらこの時点で黒服どもとけっこうな距離の差が出来たようだ。
   さらに路地裏の曲がり角を右に曲がり左に曲が・・・ん?
   着ぐるみだ。道端に着ぐるみが落ちてる。誰か脱ぎ捨てていったのだろうか。
   胴体はカラで、頭のパーツが胴体のすぐそばに落ちている。
   むむむ、この着ぐるみには見覚えがあるぞ・・・。
   たしか・・・この遊園地に入場早々、雛苺と俺が迷惑掛けてしまったあの熊じゃねぇか!
   なんて、思い巡らしてる暇はねぇ。黒服どもがやってきちまう。
   ・・・! そうだ。 この着ぐるみをちょいと失敬してやり過ごそう。
   急いで熊の着ぐるみを身に付けようとする俺。
   ん、着ぐるみ・・・・?
   あああああ! くんくんの着ぐるみショーのこと忘れてたぁああああ!
   携帯の時計を見ると、くんくんショーまで全然時間がねぇ!
   すると突然携帯がバイブレーションした。ビクッっとする俺。
   発信者名、みっちゃんだ・・・。あああああ、きっとくんくんショーのことだろう・・・!
   俺は咄嗟に電話に出る。
み:『あ、もしもし?』
マ:『すまん! くんくんショーは皆で先に行っててくれ、俺もすぐ行くから! じゃ!』
み:『え、ちょっと。』
   俺は電話を切ると大急ぎで熊の着ぐるみを身に付ける。
   うっ、この着ぐるみまだちょっと温もってる・・・。脱ぎ捨てられてあまり時間が経ってないらしい。
   あまり気持ちいいことじゃないが今は些細なことだ。
   熊になった俺はそそくさとウェスタン村の大通りに出て人々に手を振るなりして愛想を振りまく。
   ん、せっかく着ぐるみを身に付けて変装したのに黒服の男が一人も見当たらないな。
   俺は熊の着ぐるみを身に付けたまま、くんくんショーの会場を目指した。


   くんくんショー会場の近くまで無事来ることができた俺。
   さて、これからどうしよう。
   まさか会場の中にまで黒服の男がいるとも思えんが、いないとも言い切れん。
   かと言ってこの熊の着ぐるみでカモフラージュしたまま会場には入れない。
   う~~ん。
?:「おい、探したぞ!」
   急に声を掛けられた。
マ:「!?」
   やばい、見つかったか・・・!
   ん、違う。黒服じゃないな。服装からして遊園地のスタッフだ。身分証明のバッジも付けてる。
マ:「・・・。」
ス:「何をボーっとしてる。はやく来るんだ。子供達が待っているぞ。」
   スタッフはそう言うと俺の手を引っ張った。
   子供達・・・? もしかして蒼星石達のことか・・・?
   もしかして遊園地側で保護されたのか・・・?
   俺は大人しくスタッフに誘導される。スタッフはなにか急いでいるようだ。大丈夫かな。
   やがて建物の一室に案内された。なにやら舞台道具やら舞台で使うと思われるセットなどが置かれている。
   そして俺の目の前にはなんと、くんくんの着ぐるみが置かれている・・・!
ス:「ほら、俺も着替えるの手伝うから早くしろ。」      
   え!? 
   俺はスタッフに熊の着ぐるみを無理やり脱がされた。
マ:「あの、本当に俺が着るんすか?」
ス:「は? 当たり前だろ。はやくしろ! もう時間無いぞ!」
   スタッフの人も相当切羽詰ってるようだ。
マ:「は、はい!」
   スタッフの怒気に押され、俺はくんくんの着ぐるみを着てしまった。
   これは・・・蒼星石のマスターがくんくんの着ぐるみを着ているから・・・
   マスターくんくんといったところか?
   遠くから声が聞こえた。
?:「本番10分前で~す!」
   本番? 10分前?
ス:「はやく舞台裏に向かえ!」
   ええ!?
   俺が戸惑ってると
ス:「今頃ビビッてきたのか。しょうがないやつだ。覚悟決めろ。」
   そう言って俺を背中からぐいぐい押して進ませる。
マ:「あ、あの?」
   俺は結局そのまま舞台裏まで進まされた。


   あああああ! なんでこんなことになってんだ!
   俺は今くんくんの着ぐるみを着て舞台の中央に立っている。
   目の前にはまだ幕が下がっているから客席は直接見えないが・・・
   わかる・・・幕の向こうには客席を埋める大勢の観客がいることが・・・!
   俺の後ろの背景は船が停泊している絵のセットだ・・・!
   何か紙を渡されたが・・・手紙か、これは。
   ちがう、台本だ! 台本をくれ!
   ぐお! ブザーが鳴り・・・幕が上がるぅ・・・!
   誰かたっけてー(´∀`)
   
   
   幕が上がりきると港のカモメや波の音のBGMが流れ、ねこ警部の着ぐるみが近づいてきた。
ね:『やあ、くんくん。調子はどうだね。』
   ん! 台詞はスピーカーから録音したものが流れ、役者はその動きに合わせるのか!
   俺はねこ警部の初動作からそのことを瞬時に読み取ることができた。
   人間切羽詰ると脳がフル回転することがあるらしい。
く:『これはねこ警部。どうしました。こんなところで。』
ね:『おや、君はあの事件を追ってここにきたのではないのかね?』
く:『いえ、私はこの手紙でここに呼び出されて・・・』
   なるほど、手紙はこのシーンで使う小道具か。
   正しい振り付け通りなのかわからんが俺は精一杯それらしい動きをするよう努める。
   そんな調子で演劇は進む。
   俺の動きは相当おかしい筈だが、共演者は着ぐるみを着ているので訝しんでるかどうかわからない。
   観客はどうだろうか? う~む、わからないというか、直視できない。
   くんくんが船から何者かに荒波の海に突き飛ばされた場面で、一旦幕が下がった。
   そして場内のスピーカーから『今から十五分ほど休憩時間です。』との旨の放送が掛かる。
   た、助かった・・・!
   

   休憩時間中、楽屋にて俺は共演者に不信感や不満をぶつけられる羽目になった。
   怒るねこ警部役の人。
ね:「どうしたんすか! 全然台本の動きと違うじゃないすか!」
   うん、そうだろうね。申し訳ない。
   だがスローロリス夫人役の人が
ス:「まぁまぁ、初めての主役なんだから緊張するのも無理無いわ。」
   とフォローしてくれる。
   あのー、せっかくのフォローなんですが、主役どころかこの劇自体が始めてなんです。申し訳ない。
   俺はおもむろに被っていたくんくんの頭を取った。
   みんなに顔を見せる。
マ:「というわけだ。くんくん役の役者さんはどこ行ってるんだ?」
ね:「は?」
ス:「は?」
   なんか今日はやたら『は?』って言われる日だな。
マ:「いや、だから俺は違うから本物の役者と交代だ、ってこと。」
ね:「本物の役者?」
   なんか話が通じないな。俺を見て驚かないのか。
   そういえば俺に、くんくんの着ぐるみ着せたスタッフも俺の顔を
   見てるはずなのに何の疑いも無く接してたよな。
   ん・・・・
   ・・・・・!
   ま、まさか!
マ:「おい、俺の写真はあるか?」
ね:「写真?」
ス:「写真ならそこに皆で写した写真があるじゃない。」
   俺はスローロリス夫人に指差された先にある写真に駆け寄った。
   演劇スタッフの集合写真だ。おれはジーッと写真を見つめる。
   あ、こ、こいつかーーー! 疑心が確信に変わった。
   確かに写真の中に俺がいる。いや、正確に言えば瓜二つのソックリさんだ。
   広い世の中には自分にそっくりの人間が3人いるとかいう話を
   聞いたことがあるが、今その一人を見つけた気分だ。
   また、写真の男は今の俺と同じく金髪だった。
   くそぅ、わざわざ金髪に染めてきたのにそれが仇になるとは・・・!
   間違いない。黒服どもが探してたのはコイツだろう。
   俺は黒服側、演劇スタッフ側双方にこの写真の男と間違われているわけだ。
   これは誤解を解かなければ・・・!
   俺が周りに説明しようとした刹那、演劇スタッフの声が先に鳴り響く。
ス:「そろそろスタンバイお願いしま~す!」


   ショーの再開時間になってしまった。
   俺はエスケープしたかったが本物の役者がいない。
   どうやら劇が終わるまで俺は本物の役者の代役を務めないといけないようだ。
   今更演劇を中止にできない。蒼星石達も見ているだろうしな。
   ブザーが鳴り幕が上がる。
   場面は荒波の中溺れるくんくんのシーンからだ。
   俺は盛大に溺れる演技をする。
真:「ああ、くんくん!」
   こ、この叫び声は・・・真紅!?
   俺は思わず声がした方に顔を向けた。
真:「ああ、くんくん! ここです! 真紅はここにいます!」
   ああああ! 真紅なにやってんだ! あれほど目立つなと言ったろうが!
   ジュン君が真紅を必死になだめているようだ。頼む・・・ジュン君!
   目を凝らしてよく見ると蒼星石達全員もちゃんといるようだ。よかった・・・。
   うう、蒼星石、はやく会いたいよぉ! 俺は着ぐるみの中で呻吟した。
   しかし、これ以上騒がれては危険だ。俺は涙を呑んで、なるべく真紅達がいる方を見ないよう心掛けた。
   やがてショーは終盤に差し掛かったようだ。いよいよ、くんくんが犯人を言い当てる場面のようである。
   いったい誰が犯人なのか? 俺は台本読んでないから知らないんだが。
   演技しながら推理する余裕も無かったし。
   犯人候補に挙がったキャラクターは複数いる。
   ワオキツネザル男爵、テングザル子爵、マウンテンゴリラ公爵、ゴールデンライオンタマリン卿
   スローロリス夫人、そして、ネズミ教授だ。
   しかし今更だが、なんで犯人候補はマイナーな霊長類ばかりなんだ?
   なにゴールデンライオンタマリン卿って? チビッコどころか大人すらわからんだろ。
   なんか犯人候補の中でネズミ教授だけ浮いてるぞ。脚本家の意図がわからん。
   

く:『今回の事件の犯人は・・・・』


   あ、台詞に合わせて犯人を指差さないといけないよな。一番大事な場面だ、しっかり決めねば。
   でも・・・犯人わかんね。やっぱ一人だけ浮いてるネズミ教授?
   俺はチラリと蒼星石の方を見た。蒼星石はネズミ教授を見つめている・・・!
   蒼星石! 君を信じる・・・!   


く:『犯人は・・・ネズミ教授、あなたです!』
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   俺は台詞に合わせ見事ネズミ教授を指差すことができた。よし、決まった。
   あとはすんなりと進み、ショーの物語は無事終わった。
   やった!俺は勝利したのだ!
   おや、なんかダンスミュージックが・・・? なにこれなにこれ?
   げげ、最後踊るのかよ!
   俺はまわりの共演者の動きを見よう見まねして必死こいて踊った。
   しかし、そううまくいかないものである。俺は派手にずっこけてしまった。
   会場は爆笑の渦に巻き込まれる。チ、チクショー!!
   うう、着ぐるみとはいえ恥ずかしいなぁ。なんで俺がこんな目に・・・・。
   曲が終了し、俺はやっとこさ楽屋に戻ることができた。
   
     
   やっとくんくんの呪縛から解放される・・・! そう思った矢先スタッフから
ス:「はい、次はチビッコとの握手会なんでこちらに~!」
   !?
   俺はまだまだ束縛されるようだ。お願い、帰して! 僕を蒼星石の元に帰して!
   誰かたっけてー(´∀`)


   会場の出口にて設けられた握手会の席に誘導されるくんくんの着ぐるみを着た俺。
   わらわらと列に集うチビッコに順番に握手をする。もちろん声は出せない。
   ああああ、暑い。暑いよぉ。 いい加減慣れない着ぐるみ姿にバテてきた。
   ん!? あ、真紅、雛苺、金糸雀が列に並んでる!
   そして、列は進み、真紅達の番になった・・・! ば、バレないだろうな?
   俺は平然を装い握手に応じる。内心は心臓バックバクだった。
   ここでバレたらえらい騒ぎになるし、なによりドール達の純真な心を打ち砕いてしまう・・・!
   それは何としても避けねばならん。
   もし、くんくんに中の人がいてしかも俺でした、なんて知られたら雛苺は泣き出し真紅は気絶してしまうかもしれない。
   なんとか真紅、雛苺、金糸雀と握手を無事済ます俺。
   だが握手を済ませても三人は立ち去ろうとしない。
   な、なんだ。こちらをジィーと見てる・・・ ば、ばれた!?
真:「くんくん、実は不躾だけどお願いがあるの。」
雛:「おねがいがあるの~!」
金:「あるかしら~!」
   !?
真:「名探偵のくんくんにこんな頼みごとをするのは大変恐縮なのですけど・・・
   人探しをお願いしたいのですわ!」
金:「今日私達と遊園地に一緒にきた人が迷子になったのかしら!」
雛:「ぜんぜんみつからないのよー。」
   俺の・・ことか・・・。
真:「その人がいないせいで私達の姉妹の一人がとても苦しんでるの。」
金:「もう見ていられないかしら・・・。」
   ・・・・・。 なんてことだ、蒼星石が・・・。
   真紅達の嘆願は続いた。俺は胸が締め付けられる思いだった。
   握手会のスタッフが途中で割り込んできた。
ス:「お嬢ちゃんたち、すまないけど後ろがつかえるからもういいかな?」
   渋々引き下がる真紅達。
   く・・・! 俺はいったい何をやってるんだ! 
   列を見やると蒼星石と翠星石が手を繋いで並んでいた。
   翠星石が蒼星石に切実に話しかけている。元気の無い蒼星石を励ましているのだろう。
   うぐぐぐぐぐ。歯がゆい・・・!
   いよいよ蒼星石と翠星石の握手の番になった。
   蒼星石、くんくんとの握手だというのに元気がない・・・。
   俺は心を殺して二人と握手を交わす。バレてはいけないのだ。
真:「くんくん、さっき言った人はこの子の大切な人なのだわ。」
蒼:「?」
   先ほど握手を終え、列の横に控えていた真紅が駆け寄り、蒼星石を指しながらくんくんに言う。
   なにやら金糸雀が蒼星石に耳打ちしてる。先ほどの嘆願のことを言ってるのだろうか。
蒼:「え?」
真:「おねがいよ、くんくん!」
雛:「おねがいなの~、くんく~ん!」
翠:「翠星石からもお願いするですぅ!」
金:「おねがいかしら~!」
   俺は黙ってドール達を見やる。涙が出そうだ。だが今の俺はマスターではない。くんくんなのだ。
   俺は腕で自分の胸をポンっと叩き、『任せとけ!』と言わんばかりのジャスチャーをした。
   これが今の俺の精一杯の反応だった。すまない、皆。
蒼:「う、皆ありがとう・・・ぐす」
   だが蒼星石は涙ぐんでしまった。
真:「泣かないで頂戴、蒼星石。きっとあなたのマスターは見つかるわ。名探偵のくんくんがついているんですもの。」
蒼:「うん・・・。」
   蒼星石、俺はここにいるんだ!
   ああ! 俺は今にもくんくんの着ぐるみを脱ぎ捨て、蒼星石を抱き締めたい衝動に駆られる!
   だがそれは許されるのか? ドール達の純真さを打ち砕いてそれは許されるのか?
   なんて難題を俺に吹っ掛けるんだ神サンよ!
   俺は蒼星石の前まで進み、しゃがむ。
   俺の突然の動きに目に涙をためたままポカンとする蒼星石。
   蒼星石の顔を覗き込む。オッドアイがキラキラしてて、それは綺麗だった。
   俺は蒼星石の涙を拭い去り、優しく頭を撫でてやる。
蒼:「あ・・。」
翠:「あ~~、蒼星石羨ましいですぅ~~。」
   翠星石が大げさに羨ましがっっている。
   真紅は何か堪えているようだ。
   本当に優しい子達だ・・・。
ジ:「ほら、もう行くぞ。後ろがつかえてきてるって。」
   ジュン君がドール達を連れ戻しにきた。


   握手会が終了すると俺は一目散に楽屋に向かう。はやく、はやく蒼星石達に・・・!
   楽屋に入ると見知らぬ男が立っていた。顔に傷を持つ近寄りがたい雰囲気を持った男だ。
   紺のスーツをビシっと着こなし、顔に傷がありながら知的な風貌をしている。
   傷の男は俺に言う。 俺はくんくんの着ぐるみを着たままだ。
傷:「若、探しましたぜ・・・。」
   ??? 若?

                        
                                     「遊園地へ行こう6」に続く