一日がサプライズの塊だった日の夜。改まって俺は蒼星石を問い詰めることにした。 「なんでいきなり学校に来たんだ?つーか手続きはどうした?」 「何を言ってるんだいマスター?」 蒼星石はあくまでもとぼける。じゃあ今日のはどう説明すると言うんだ。まさか義姉さんの変装 じゃあないよな?このままでは埒があきそうにないので俺は蒼星石の後ろにすばやく回りこむ。 「とぼけるならこちらにも手がある。」 そう言うと俺は蒼星石の横腹を指でくすぐる。つい最近知ったことだが蒼星石は体中がすごく 敏感で、首筋・脇・脇腹のどこをくすぐっても弱いらしい。詳しくは知らないがこれを性感帯と言うのだろう。 「答えろよ。尋問はすでに・・・拷問にかわってるんだ。」 我ながらどこかで聞いたこともあるがかっこいいセリフを吐いたなと思った。このまま蒼星石の頬を舐めようと 検討したが脳内各部首脳会議の結果廃案された。 蒼星石は短く、そしてリズムよく喘ぎご・・いや、笑い声を張り上げる。だんだんと俺もハイになってきたぞ。 しかし流石にまいってしまったのか蒼星石が白旗を振る。 「ふぅ・・。じゃあ動機から話してもらおうか。」 「だって・・・マスターが学校に行っている間が退屈なんだ。だからちょっとお遊び程度で学校に 行ってみたんだけど・・・」 「じゃあ次の質問だが、どうやって学校に来た?転校手続きとかはどうしたんだ?」 俺が一番気になっていた質問をする。蒼星石は手のひらをちょいちょいと動かす。俺はそれを即座に理解する ことができた。 「まさか先生の夢の中でなにかやらかしたんじゃないだろうな・・・」 俺が確認するようにつぶやく。蒼星石はブンブンと首を縦に振る。蒼星石・・・恐ろしい子。 翌日。今日もごく普通の1日を演じるために蒼星石とは時間差をつけて家を出る。転校生と一緒に登校なんて いかにも怪しすぎるからな。そのため俺はなんと午前5時に家を出た。弁当も持っていってないので今日は 学食だな。 しかし予想外の出来事が起きた。校門が開いていなかった。俺はなぜ気が付かなかったのだろう・・・。 仕方がなかったので草むらに隠れて開門を待つことにした。 「まさちゅーせっちゅ!?」 俺はおなじみ寝言を叫びながら覚醒した。どうやら草むらで寝ちまったらしい。俺は急いで飛び起き、校舎に へばりついている時計を見る。8時29分。始業のチャイムが鳴る1分前。俺はフルスロットルで教室へ向かった。 遅刻こそしなかったもの教室に向かっていた先生と交通事故を起こし俺は朝のホームルームで晒し者となった。 叱られつつもちらと俺の机付近に視線をやるとやはり制服に身を包んだ蒼星石がこちらを見て微笑んでいた。 時が経つのは本当に早い。いつのまにか昼食の時間だった。これは俺が授業中居眠りをしていたことを指すのかも 知れないがまあいい。俺は小銭を握り締めて食堂へ向かおうとする。 しかし耳元ゴオオ、と何かが唸る音がする。次の瞬間蒼星石の放った弁当箱が後頭部に直撃。俺は前につんのめり ぶっ倒れる。周りの奴らはおぉ~と歓声を上げる。黙れ。 俺は後頭部を押さえつつ起き上がる。どうやら蒼星石は学校生活ではツンデレになってしまうのかもしれない。単なる 恥から来てる行為なのかもしれないが。仕方なく俺は弁当を手にとり机を蒼星石の物とくっつける。重松(友人A)と 山田(友人B)がそれにならって机を持ってくる。すごくうざったい。 「すごいなお前。一体どうやってたった1日で親密になってるんだよ?」 重松がおちょくる。そりゃ同居してるからな、とは口が裂けても腹が裂けても言えない。 隣で話を聞いていた山田が俺の弁当から蒼星石お手製と思われる卵焼きを勝手に盗み口に放る。 「う、うまい!卵焼きでこんなに味の差があるなんてなぁ」 俺も1つ食べてみる。確かにうまい。でもいつもこの卵焼き食べてるから他の卵焼きというものがわからない。 楽しいお昼の時間も終わり午後の授業へと移行する。午後は数学の1時間だけだが数学と言う名前に重みを感じるのは 俺だけだろうか?とにかく俺は単に数学嫌いなだけだろうな。 不等式の証明?何それははは。そんな俺をよそに蒼星石は自分の手には合わないサイズのエンピツを握り締めてノートを まとめている。その不釣合いなのがまたいい。そうこう考えているうちに時は過ぎていくものだ。 終了時刻まであと1分を切る。俺は片付けモードに入った。わからない物をわかろうとするのは俺にはすることのできない 芸当だ。さりげなく蒼星石は理解しているようだから困る。これじゃ俺のしめしがつかんね。 聞きなれたチャイムが鳴り響く。これでたるい学校も終わりだ。 校門を急ぎ足に通り過ぎる。人間より体格が小さい蒼星石はタタタと走らなければならない。慣れないスカートで走るのが よほど辛いのかマスタ~、と助けを求めるような声で俺を呼ぶ。俺もそこまで鬼畜じゃないので止まるが。 そして一言詫びの言葉を言ってから手をつないだ。周りからするとかなり身長差のあるカップルとでも捉えられてたろうな。 そして俺はおもむろに――― 「もふぅ!?」 俺は顔の上に乗っかる何かモフモフしたものにより起こされた。どうやら俺は朝食を食べた後そのまま寝てしまったらしい。 今日は実によく眠れる日だ。それにしても見ていた夢のことだがかなり残念なところで終わった気がする。でも内容は 全て忘れてしまった。人が夢を見ると書いて儚い。夢とは儚いものなのだろう。俺は自分の中で結論を出すと時計に目をやる。 ジャスト12時。ちなみに今日は金曜日。 「あ・・・学校・・・」 俺は慌てて顔の上で惰眠をむさぼるクラウスを弾き飛ばして着替えに取り掛かる。蒼星石の姿が見えなかったが脳内パニック を起こしている俺には思考の片隅にも残らなかった。 行って来ます、と誰も居ない家にあいさつをし、いつもの通学路をとおり学校へ向かった。 俺が教室に入るともうそれは爆笑の渦だったさ。寝ぼけて昼過ぎに来る奴なんていないだろうしな。そんな中俺は急な転校で 去っていった奴が座っていた隣の自分の席に座る。 「遅かったじゃないか、マスター」 誰も座っていないはずの席から声がかかる。 「そうだ、そうだ。今日から一緒に勉強をすることになった――」 担任が説明を始めるがそんなものは必要なかった。そこにはいっつも一緒にいた蒼星石が微笑んでいた。俺はとっさに頬を 自分の出せる力の全てを使って抓る。正直に痛かった。俺は予知夢を見れるのか。信じる気にはならなかった。 ああ俺の人生に幸多からん事を。ついでにおまえらにも。