カーテンを開けると、空には一面の青空が広がっていた。 「今日はいい天気だ・・・・どっか走ってこようかな」 「どこか行くの?マスター」 「あぁ、折角の天気だからな。サイクリングでも行こうかと。お前も一緒にどうだ?」 「え、でも・・・どうやって?マスターの自転車はカゴなんて付いてないのに」 蒼星石の言うとおり、俺の自転車にはカゴが付いていない。 「それ以前に、お前カゴに入れられるの嫌だろ?」 「う、うん・・・・」 「安心しろ、カゴなんか無くてもこの世には便利なアイテムがあるんだよ」 数分後、俺は近所の河川敷を自転車で颯爽と走っていた。 背負ったリュックからは、蒼星石がひょっこりと後ろ向きに顔をのぞかせている。 「わ、わ、速いよマスター!」 蒼星石がそんなことを言う傍ら、ちょっと意地悪してみようと、更にスピードを上げる。 「ま、マスター!スピード出しすぎ!怖いよ!」 俺の背中で声を張り上げる蒼星石。こういうときにこそ、後ろに目が欲しいものである。 足の力を抜く。やがて背中は静かになった。 「蒼星石」 「なに?」 「俺の頭乗っていいぞ」 ずっと後ろ向きでいてはつまらないだろう。俺のせめてもの気遣いだった。 背中がゴソゴソと動き、重みがリュックの中から、肩、頭へ移動してきた。 「わあ・・・・」 この川の水質はお世辞にも綺麗とは言えないが、日光が当たって水面がキラキラと輝いていた。 「マスターはいつも、この高さで世界を見てるんだね・・・」 「実際にはもう少し低いけどな」 「そういうこと言わないでよ、マスター」 恐らく蒼星石は、俺の頭の上で頬を膨らませているだろう。 「すまん」 苦笑いで答えた。 ゆっくりと、蒼星石と一緒に走る。 たまにはこういうのもいいかもしれない。 「・・・マスター」 俺の頭に手をついたままの蒼星石。 「どうした?」 「・・・・いや、呼んでみただけだよ」 エヘヘ、と蒼星石は笑った。 俺はハンドルから手を離し、頭の上の蒼星石を抱え上げた。 「ちょっ、マスター、危ないよ!」 「こんなの朝飯前だ」 俺は右手はハンドル、左腕で蒼星石を抱えるような体勢になる。 「・・・・マスターはあったかいなあ」 「そりゃ運動してるからな」 「・・・・・・マスター・・・・・・」 「すまない」 また余計なツッコミを入れる俺。 (でも、そこが好き) 「なんだって?」 俺が訊くと、蒼星石は満面の笑みで答える。 「ううん、なんでもない!」 春の心地よい風が吹いた。