銀「残り3分ですって!?」 マ「約だけどね。」 銀「冗談じゃないわよ!」 真紅が逃げ切れば自分にも不利益があるためか水銀燈も焦っている。 蒼「時間は少ないけれど、探すべき場所も少ない。こういう時こそ落ち着かないと。」 金「探すべき場所ってどこ?」 マ「薔薇水晶や雛苺の話から考えると・・・」 [証言1] 薔「私は・・・ずっとあそこに隠れていました。・・・そうです、廊下のあちら側・・・。 真紅は私に例の足止めの取引きを持ちかけ・・・あちらに。・・・はい、戻って来てはいません。 私はずっと箱の中に潜伏していましたが・・・真紅と別れて以降に来たのは・・・あなた達だけです・・・。」 雪「つまり、今居る部屋より向こう側に居るわけですね。」 マ「そう。それと・・・」 翠「あっちですね。」 金「きっと一番の奥に違いないわ!」 翠「ラスボスの掟ですからね。さあレッツゴーです!」 金「カナがまた大活躍しちゃうんだから!!」 雛「気をつけて行こうなのー。」 マ「あ、雛苺はちょっと待って。」 雛「うゆ?」 ダッシュする二人に後れて歩いていた雛苺を呼び止める。 マ「真紅はさ、雛苺と別れてこっちに残ってたんだよね?」 だとすれば、あの二人が探しに行った方には真紅は居ないものと考えられる。 もちろん断定は出来ないが、恐らくあの二人の頑張りは無駄足に終わるだろう。 雛「うーんとね・・・」 [証言2] 雛「あのね、真・・・」 金「キャー!!」 金糸雀の、戸を開けた次の瞬間の叫び声。 ここからでは何があったのかは見えないので、それが悲鳴か歓声かは分からなかった。 蒼「どうしたの?」 翠「このおバカがいきなりコケました。」 金「違うわよ!足元に異常事態発生だったの!!」 銀「時間が無いんだから言い訳してないで急ぎなさい。」 雛「そうよ、水溜りくらいでめげたら『めっ!』なの。」 蒼「水溜り?」 雪「屋内ですよ?」 翠「ほう、確かに当たりです。で、なんで分かったんですか?」 金「知ってたなら最初に教えてかしら!」 一同からの問い掛けに、雛苺が一瞬はっとして、気まずそうにする。 雛「それは・・・ここに戻る時に・・・ううん、そうじゃなくて・・・その・・・。」 銀「さっきは何も言わなかったし、それにどうにも不自然な態度ね。どういうこと?」 雛「え、えーと・・・ナイショなの♪」 銀「知っている事を言いなさい。」 いつの間にやら、水銀燈は剣を出していた。 雛「あ、あのね・・・ダメなの・・・。」 銀「言わないのなら、何も言えなくするわよ?」 水銀燈の剣が雛苺のあごを撫でる。 芝居なのかそうでないのか、目はマジだ。 雛「あう・・・真紅、ごめんなの。」 水銀燈の脅しに雛苺が観念した。 翠「おい、そんな所で寝ていたら邪魔ですよ。」 金「頭、頭が・・・。」 翠「悪いんですか?知ってますけど。」 金「ぶつけたのがまだ痛いの!」 一方、ちょいと離れた所。 行ってみると、金糸雀は未だに涙目で頭を押さえてうずくまったままだった。 翠「うずくまって泣いてても何も始まりませんよ。ちょっとはおつむも良くなったんじゃないですかね。」 蒼「昔のテレビじゃないんだから。」 金「うぅ・・・カナは乙女だし、そこまでタフじゃないのかしら。」 銀「さて、じゃあ知っている事を話しなさい。」 雛「あのね・・・」 金「誰か一人くらい心配してかしらー!!」 [証言2・3] 雛「あのね、ヒナは真紅に言われてあっちに行って、戻って来たら真紅はもう居なかったの。」 マ「すぐに?」 雛「んーと、玄関を開けようとベリーベルがしばらく頑張ってくれてたの。」 蒼「とりあえず、真紅は玄関へは向かっていないのか。」 マ「まあね。・・・雛苺の言う通りなら。」 雛「間違ってないの。」 翠「正直当てになりませんね。」 雪「確かに、手分けできるのですし、一応は調べるべきでしょうね。」 翠「じゃあ当初の通り私達が。」 金「こんな水浸しの所は嫌かしら。」 翠「大丈夫ですよ。」 金「えっ、どうして?」 翠「こうすれば・・・せいっ!」 翠星石が座り込んでいた金糸雀の背中を蹴飛ばした。 金「あーれー!!」 翠「頑張ってですぅ、金糸雀お・ね・え・さ・ま♪」 金糸雀は勢いよく滑っては、その体で床を拭いていく。 雪「まあ凄い。お姉様ったらまるでモーセの様・・・。」 金「ひぎゃん!!!」 金糸雀は壁にノンストップのまま突入してようやく止まった。 と言うか、金糸雀自身の動きも止まってしまった。 翠「おねんねとは役に立ちませんね。じゃあ代わりに来やがれです!」 雪「はーい。」 二人は特に足元を気にせず真紅の捜索を始めた。 ・・・憐れだ。 銀「話を戻すわよ。それとね、あなたが嘘ついてる可能性もあるしね。」 雛「ヒナそんな悪い子じゃないの!」 銀「どうだか?さっきの隠し事という前科もあるしね。まあ秘密とやらを早く言いなさい。」 雛「あのね、真紅がね、ヒナがお外に向かう前に言ったの。お手伝いしろって。」 真「ああそうだわ。雛苺、さっきのを恩に着せる訳じゃないけどちょっと手伝って欲しいの。」 雛「何を?」 真「床に水をまくの。」 雛「なんで?」 真「・・・まあ、罠なのだわ。」 雛「どんな効果があるの?」 真「えーと・・・滑って転んだりはしなくても、少しは歩きにくくなるんじゃないかしら。 一応よ、一応。そういう訳だからこの事は秘密よ。特に私が関与したという事はね。」 蒼「真紅も予想以上の効果を挙げたみたいだね。」 マ「一人リタイアだものね。」 銀「そんな事はどうでもいいのよぉ!真紅の手がかりは!?」 雛「知らないの。」 銀「何よそれ!最初に言いなさい!ただのタイムロスじゃない!!」 雛「あぅ・・・ヒナ悪くないもん・・・。」 薔「ただ、今の話・・・気になります。」 銀「何がよ?」 薔「真紅は意味も無く・・・そんな事をしない。殆ど無駄になる事なら・・・何故したのか?」 それは自分も気になっていた。 薔薇水晶の言葉にみんなが思考に耽る。 銀「ああもう、こうなったら・・・斬る!」 マ「え?」 銀「目に付くもの全てを斬ってやる!そうすればすぐに見つかるわよ!!」 速攻で考えるのをやめたのか水銀燈が手にした剣を振りつつ叫ぶ。 蒼「あのさ、真紅もばっさりやってしまうかも・・・。」 銀「・・・ある意味、好都合かもね。」 蒼「うわぁ、黒くなってる。」 銀「あなたこそ余裕かましてていいのかしらぁ?このままだとまだまだ真紅が居座るのよ?」 蒼「え、でも、そこまでして・・・。」 銀「誰かさんと二人っきりの時間も無いのよ?」 蒼「いや、別にマスターとは、その・・・。」 銀「挙句の果てには今以上に他の連中とばっかり・・・。」 マ「今以上って・・・。」 蒼「平気だってば!そうだとしても、その・・・最後には・・・」 マ「そこははっきり否定して下さい。」 蒼「それにさ、まだ時間もあるはずだし・・・」 マ「あと一分を切った。」 蒼「へ?」 銀「あらら、無駄話に花を咲かせ過ぎたわね。これは真紅が逃げ切りかしらぁ♪」 マ「いや、まだ・・・。」 蒼「・・・・・・。(スチャ)」 マ「無言で鋏を構えないで下さい。」 銀「そうよ、やってしまいましょう!」 マ「待ってよ、もっと穏便に・・・。」 恐らくは、まだ間に合う。 根拠は無いが、すぐ近くに真紅は潜んでいる気がする。 ただ、まだ何かが足りない。 銀「このままこうしてタイムアップ?くだらなぁい!いいじゃないの、壊したってどうせ直せるんだから。」 マ「・・・直す?」 銀「そうよ。真紅が協力するかは知らないけど、どうせ蒼星石でも金糸雀でも頼めばやってくれるでしょ。」 マ「雛苺、玄関に居た時に何かが壊れた音は聞かなかった!?近くで!」 自分は皆が隠れるのを待つ時にそれらしき音を聞いた。 あとはその正体が考えている通りか確認するだけだ。 雛「え?き、聞いたの!おっきくて怖かったからベリーベルと相談してから戻ったんだけど、真紅は・・・」 最後まで聞かずとも十分だった。 自分の中での答えは出た。 真紅はきっとあそこに隠れている。 銀「まさか窓をぶち破って外に?」 蒼「だとしたら、まず間に合わない・・・。」 薔「多分・・・それはありません。」 蒼「えっ、何故!?」 薔「そう言えば、私もそれらしき音を聞きました・・・。 少なくとも窓の方ではなかったのは確か・・・だからこそ意識していなかったのですが。」 銀「じゃあどこに・・・ああ、もう本当の本当に時間切れよ!!」 蒼「あれ、マスターは?」 マ「・・・ここ!」 大慌てで持ってきたそいつを床に下ろす。 マ「蒼星石、その鋏でこれを!ここから上を斬って!!」 蒼「え、それを?」 マ「時間が無いんだ!あと真紅はしゃがんだりして極力身を低く!」 時計を見る余裕すらないがもう制限時間は無いに等しいだろう。 蒼「・・・分かった!!」 一瞬で精神を集中させ、冷静さを取り戻した蒼星石が鋏を振り抜く。 ずっ・・・ しばしの静寂の後に花瓶にしてあった大きな壺の上部がずり落ちた。 マ「見つけた!!」 真「・・・ほんの一秒にも満たない差でも、勝利は勝利よね。ほんの刹那が、とてつもなく大きな差なのだわ。」 制限時間を示すためにセットしてあったアラームが鳴った。 真「残念だけどあなたの勝ちよ。これなら変に策を弄さず、素直に外に出てしまっていれば良かったかしら。」 壺の中からひょっこりと肩から上を出した真紅が静かに言った。 雛「真紅が出てきたの!」 銀「こんな近くに居たのね・・・。」 真「ええ、誰かさんの大騒ぎっぷりもしっかり聞こえていたわ。」 銀「くっ、うるさいわよ!」 真「取り乱しっぷりが滑稽だったわ。」 銀「・・・それをあなたの骨壷にしてあげようかしら?」 蒼「あ、まあまあ。それにしてもマスター、よく気付いたね。」 さっそく険悪なムードをかもす二人をなだめつつ、蒼星石が話をそらす。 マ「いささか痕跡を残し過ぎだったからね。」 薔「痕跡・・・?」 マ「花と水。」 雛「花ってヒナの?」 マ「そう。恐らくは、真紅にとってはああするのは計算外だったんだろうね。」 雛「なんでそう思うの?」 マ「花瓶から花がごっそり無くなっていたら目を引くもの。 雛苺が言われた通りに外に隠れたら、先にチェックされる可能性が高まるから尚更ね。」 雛「・・・・・・。」 雛苺が何事か考え始めた。 薔「水というのは・・・あれですか。」 マ「そう、金糸雀を完全に沈黙させたアレ。」 銀「あれがどうしたのよ。雛苺とまいたんでしょ?」 マ「まいたのもあるね。」 蒼「『も』?・・・そうか、花瓶の水。」 マ「隠れる為に、できれば普通に捨てたかったんだろうね。ただ、あの大きさの花瓶にあの量の水じゃ無理だった。 だからそのまま花瓶を落として割って、水は床にぶちまけてしまったんだ。」 薔「それが・・・雛苺と水をまいた真意・・・ですか。」 銀「なるほどね、それから破片だけ小分けして元の位置に運んで、自分が中に入るように直したと。」 マ「恐らくはね。どう?」 真「合っていようがいまいが、私が見つかった事に変わりないでしょう?」 銀「相変わらず小憎らしい返答ね。」 だが、否定しないところを見るとおおよそ正解ではあるのだろう。 マ「花を元通りにしていれば気付かなかったかもね。なんらかの方法もありそうだし危なかった。」 真「そうね。一例だけど、花の根元に紐でも結わえておいて、花瓶の中から引っ張るとかね。」 蒼「どうやら、いくつか案はあったんだ。」 雛「もしかして、真紅が見つかったのはヒナのせいなの?」 真「・・・さあね。ほんの気まぐれかもしれないのだわ。そんな考え、どうせ上手くいかないかもしれないし。」 雛「ごめんなさいなの・・・。」 真「困った子ね。あなたが結果的にかなりの時間を稼いだ事も知っているのよ?気に病む必要は無いわ。」 銀「まあどうでもいいわ。これであなたの思う様にはいかないんだからぁ♪」 真「今回はあなたに同意ね。もうそんな事を語ったところで何の意味も無いのだわ。」 真紅が真っ直ぐにこちらを見上げてきた。 真「抱っこして頂戴。」 マ「え?」 真「この高さじゃ、自分で出られないのよ。」 マ「ああ了解。」 こちらに両手を伸ばした真紅を抱き上げようと手を伸ばし・・・ふとやめる。 真「どうしたのかしら。私が出ようと無様にあがく姿でも見たいの?」 マ「いや別に。」 そう答えてから真紅の背後に回ってから抱き上げる。 マ「ただね、正面からだと八つ当たりで殴られるか蹴られるかしそうで。」 真「あら、ずいぶん勘が冴えてるのね。」 マ「やっぱり。」 真「ありがとう。さあ、下ろして頂戴。」 マ「・・・・・・まだ駄目。」 真「今度はどうしたのかしら。もしかして私の方が抱き心地が良かったとか?」 蒼「なっ!・・・そうなの?」 マ「茶化しても駄目。ここで下ろしたら床掃除をサボって逃げる気でしょ? きちんと床を濡らした責任は取ってもらうからね。このまま連行!」 真「まったく、本当に無駄に勘のいい人間ね・・・。」