「密かに徒然/2007年04月28日/ある兄弟の日常」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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それは何気ない、たった一つの問いだった。
「ねえ、アス兄」
「なんだ?」
「アス兄の好きな女の子ってどんなタイプ?」
……平日の午後。麗らかな、と頭につけてもおかしくない様な昼下がり。
特に用も無く邪魔していたユインの自室にて。……不意に向けられたその問いに、アステールは思わず動きを止めた。
「…………いきなりなんだ」
読んでいた本から顔を上げ、年の変わらない義弟へと怪訝そうな視線を向ける。
「んー、いや。ほら、折角今は男二人だけなワケだし。……偶には、こういう年相応の会話ってのがあってもいいと思わない?」
しかし、弟の方はその視線を気にした風も無く。屈託無く笑うと、いけしゃーしゃーとそんなセリフを返した。
確かに、今は丁度家の主たる僧侶は買い物に出ていて、二人の父親たる男もまたこの場には居ない、けれど。
……少年の返答に、兄の視線が怪訝そうなものから呆れたようなものへとシフトする。
「欠片も思わん」
「えー。……つれないなぁ。何かあるでしょ? 胸のサイズがー、とか。胸の大きさがー、とか」
「……話を聞け。そして二つとも同じだろう、ソレ」
「うん、知ってる」
……はぁ、と。アステールの口から溜息が零れた。
普段は比較的大人しい……と言うより、落ち着いた感のある少年なのだけれど。この弟は、時折こんな風にしつこく絡んでくることがある。
尤も、僧侶の娘や父親に同じことをしているところは見たことが無いから、あるいはこれはその二人――つまりはユインにとっての両親に振り回されている反動なのかもしれないけれど。
もしかしたら、これがこの少年の甘えなのかもしれない。ふと、そんなことを思いながら。……さらに数秒の間の後、アステールは諦めたようにパタンと本を閉じ、ユインへと向き直る。
それから、考えるように数秒の間があり。
「容姿に関して特に好みは無いが。性交渉を持つなら、精神的・体力的・能力的に優れたものが好ましいな。性交渉に限定するならば特に体力だ」
「…………今、何か会話の階段が2,3段ぐらい飛ばされた気がするんだけど」
「気のせいだろう」
……今度は、ユインの側が半眼となる。視線の温度が、何だか生温い。
「……基本的に、異性の好み云々とはそういうことだろう? 最終的に好意の行き着く先は性交渉だ」
「ミもフタも無いなぁ……。いや、まぁ。実用本位の人ってのは知ってたけどさ? 何も、そんなトコまで割り切らなくたっていいんじゃない? もうちょっと、こう、浪漫みたいなのがさ」
「割り切りも何も、当然の認識だと思っていたんだが……。……理解出来んものを持ち出されてもな」
肩を竦め、ユインが両手を上げた。……お手上げ、ということらしい。
その反応に、兄の側はむ、と小さく声を上げると。再び、視線を弟へと向ける。
「……浪漫とやらを持ちすぎて。主のようになったら困るだろう」
ぴた、と。その言葉に、ユインの動きが止まった。……ぁー、と。しばし、呻くような声が上がり、次いでその顔に苦笑が浮かんで。
「…………いや、まぁ、それは確かに。ちょっとあそこまで行くのはどうかなー、と思うけどね、俺も」
同意の言葉が返された。それに、満足したようにアステールは頷く。
「だろう。……大体、人に文句ばかり言っておいて。お前の方はどうなんだ、ユイン」
「ん、俺? そりゃあるよ、勿論。アス兄と違ってちゃんとした好み」
待ってました、とばかり。即答するユイン。
何処か楽しげなその様子に、知らず、アステールの口元が僅かに緩む。
「ほう。どんなだ? ……胸は小さいほうが、などと言うつもりなら彼奴の同類と認識するが」
――口を突いたのは、そんな言葉だったけれど。先ほどの胸云々、といった言葉に引っ掛けたセリフだろうか。
そんなセリフを向けられたユインの側は、と言えば。……その言葉に一瞬顔を顰めると、冗談じゃない、とでも言うように手をパタパタと振って。
「あのね……。イーシンと一緒にしないでよ。――胸は大きい方が良いに決まってるだろ?」
……拳を握りながら、そんなことを口にした。
「貧乳、っていうか。ロリコンだなんて理解に苦しむね。……やっぱり女の子は胸だよ胸。こう、ぽよん、っていうか。ふわん、っていうか。歩くだけで揺れるあの動きが、っていうか。……まずは何を置いても巨乳だね、うん」
しかも。何か、妙に力の篭った調子で力説までし始めた。
……あからさまに生温くなるアステールの視線。
ああ、血は争えないものだなぁ……なんて、妙にしみじみとした感想が胸中に浮かび。……この家の今日の夕食は何だろう、邪魔をしてもいいのだろうか、なんて軽い現実逃避が入りはじめる。
まぁ、その間にも、いつの間にか身振り手振りまで交えはじめたユインの独演会は続いていくのだけれど。
曰く、手に張り付き指が沈み込むあの感触が堪らない。
曰く、横乳や下着に納まらずハみ出た乳房に愉悦を感じる。
曰く、張りがありカタチの良い巨乳には感動すら覚える。
……など等。
よくもまぁ、そこまでの文句が思いつくな、と。呆れを通り越してアステールがいっそ感心すら覚え始めた辺りで、ようやく満足したのかユインは語りを終え、一仕事終えた男の表情で兄を見遣る。
「……って、トコかな」
「とりあえず、お前が彼奴の同類だということは良く解ったが」
「って、えぇー?! な、なんでさ!」
自覚は無いらしい。
そのことに軽く頭痛を覚えながら、アステールは大きく溜息を吐く。
「……色々だ。しかし、意外と言えば意外ではあるな。……お前の好みは、どちらかと言えば僧侶殿のような女性だと思っていたんだが」
その言葉は、しかしユインにとっては幾らか予想外であったらしい。
「シュネー? ……あー、うん。そりゃ好きだよ。なんたって母親だし」
一瞬キョトン、とした後そう答えると、次いで少年は苦笑を浮かべる。
「ただまぁ。……なんていうか、そういう好きに繋がらないんだよね、あのタイプ。むしろ重ねちゃって逆に、っていうか」
「ふむ。……そんなものか」
「そんなもんだよ。……それにさ。好み云々以前に、ある意味トラウマって言うか」
ふぅ、と溜息一つ零してから。ユインは、ふっと遠い目をする。
……いつも思うことではあるが。この少年は、若いのに随分と苦労しているらしい。
まぁ、親が親だ。そこらへんは仕方の無いことなのかもしれないが……やはり、幾らかは同情できなくも無い。
先ほどから話題に上がっている僧侶に関しては、アステールの視点から見れば比較的マトモな部類に思えるのだが……やはり、近い関係であれば色々と見えてくるものもあるのだろう。
自分に話すことで幾らかでもそれが楽になるのであればいい、と。アステールは思う。
「ぶっちゃけ、両親揃ってゴーイングマイウェイ過ぎるっていうか。お前らもうちょっと子供の苦労ってものを考えろっていうか。時々どっちが子供か……」
……あまり長引くと。うっかり心が折れそうな気もしたが。
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「ねえ、アス兄」
「なんだ?」
「アス兄の好きな女の子ってどんなタイプ?」
……平日の午後。麗らかな、と頭につけてもおかしくない様な昼下がり。
特に用も無く邪魔していたユインの自室にて。……不意に向けられたその問いに、アステールは思わず動きを止めた。
「…………いきなりなんだ」
読んでいた本から顔を上げ、年の変わらない義弟へと怪訝そうな視線を向ける。
「んー、いや。ほら、折角今は男二人だけなワケだし。……偶には、こういう年相応の会話ってのがあってもいいと思わない?」
しかし、弟の方はその視線を気にした風も無く。屈託無く笑うと、いけしゃーしゃーとそんなセリフを返した。
確かに、今は丁度家のもう一人の住人たる娘は買い物に出ていて、二人の父親たる男もまたこの場には居ない、けれど。
……少年の返答に、兄の視線が怪訝そうなものから呆れたようなものへとシフトする。
「欠片も思わん」
「えー。……つれないなぁ。何かあるでしょ? 胸のサイズがー、とか。胸の大きさがー、とか」
「……話を聞け。そして二つとも同じだろう、ソレ」
「うん、知ってる」
……はぁ、と。アステールの口から溜息が零れた。
普段は比較的大人しい……と言うより、落ち着いた感のある少年なのだけれど。この弟は、時折こんな風にしつこく絡んでくることがある。
尤も、妹や父親に同じことをしているところは見たことが無いから、あるいはこれはその二人――つまりはユインにとっての直接の肉親に振り回されている反動なのかもしれないけれど。
もしかしたら、これがこの少年の甘えなのかもしれない。ふと、そんなことを思いながら。……さらに数秒の間の後、アステールは諦めたようにパタンと本を閉じ、ユインへと向き直る。
それから、考えるように数秒の間があり。
「容姿に関して特に好みは無いが。性交渉を持つなら、精神的・体力的・能力的に優れたものが好ましいな。性交渉に限定するならば特に体力だ」
「…………今、何か会話の階段が2,3段ぐらい飛ばされた気がするんだけど」
「気のせいだろう」
……今度は、ユインの側が半眼となる。視線の温度が、何だか生温い。
「……基本的に、異性の好み云々とはそういうことだろう? 最終的に好意の行き着く先は性交渉だ」
「ミもフタも無いなぁ……。いや、まぁ。実用本位の人ってのは知ってたけどさ? 何も、そんなトコまで割り切らなくたっていいんじゃない? もうちょっと、こう、浪漫みたいなのがさ」
「割り切りも何も、当然の認識だと思っていたんだが……。……理解出来んものを持ち出されてもな」
肩を竦め、ユインが両手を上げた。……お手上げ、ということらしい。
その反応に、兄の側はむ、と小さく声を上げると。再び、視線を弟へと向ける。
「……浪漫とやらを持ちすぎて。主のようになったら困るだろう」
ぴた、と。その言葉に、ユインの動きが止まった。……ぁー、と。しばし、呻くような声が上がり、次いでその顔に苦笑が浮かんで。
「…………いや、まぁ、それは確かに。ちょっとあそこまで行くのはどうかなー、と思うけどね、俺も」
同意の言葉が返された。それに、満足したようにアステールは頷く。
「だろう。……大体、人に文句ばかり言っておいて。お前の方はどうなんだ、ユイン」
「ん、俺? そりゃあるよ、勿論。アス兄と違ってちゃんとした好み」
待ってました、とばかり。即答するユイン。
何処か楽しげなその様子に、知らず、アステールの口元が僅かに緩む。
「ほう。どんなだ? ……胸は小さいほうが、などと言うつもりなら彼奴の同類と認識するが」
――口を突いたのは、そんな言葉だったけれど。先ほどの胸云々、といった言葉に引っ掛けたセリフだろうか。
そんなセリフを向けられたユインの側は、と言えば。……その言葉に一瞬顔を顰めると、冗談じゃない、とでも言うように手をパタパタと振って。
「あのね……。イーシンと一緒にしないでよ。――胸は大きい方が良いに決まってるだろ?」
……拳を握りながら、そんなことを口にした。
「貧乳、っていうか。ロリコンだなんて理解に苦しむね。……やっぱり女の子は胸だよ胸。こう、ぽよん、っていうか。ふわん、っていうか。歩くだけで揺れるあの動きが、っていうか。……まずは何を置いても巨乳だね、うん」
しかも。何か、妙に力の篭った調子で力説までし始めた。
……あからさまに生温くなるアステールの視線。
ああ、血は争えないものだなぁ……なんて、妙にしみじみとした感想が胸中に浮かび。……この家の今日の夕食は何だろう、邪魔をしてもいいのだろうか、なんて軽い現実逃避が入りはじめる。
まぁ、その間にも、いつの間にか身振り手振りまで交えはじめたユインの独演会は続いていくのだけれど。
曰く、手に張り付き指が沈み込むあの感触が堪らない。
曰く、横乳や下着に納まらずハみ出た乳房に愉悦を感じる。
曰く、張りがありカタチの良い巨乳には感動すら覚える。
……など等。
よくもまぁ、そこまでの文句が思いつくな、と。呆れを通り越してアステールがいっそ感心すら覚え始めた辺りで、ようやく満足したのかユインは語りを終え、一仕事終えた男の表情で兄を見遣る。
「……って、トコかな」
「とりあえず、お前が彼奴の同類だということは良く解ったが」
「って、えぇー?! な、なんでさ!」
自覚は無いらしい。
そのことに軽く頭痛を覚えながら、アステールは大きく溜息を吐く。
「……色々だ。しかし、意外と言えば意外ではあるな。……お前の好みは、どちらかと言えばシャオリールのような女性だと思っていたんだが」
その言葉は、しかしユインにとっては幾らか予想外であったらしい。
「シャル? ……あー、うん。そりゃ好きだよ。なんたって妹だし」
一瞬キョトン、とした後そう答えると、次いで少年は苦笑を浮かべる。
「ただまぁ。……なんていうか、そういう好きに繋がらないんだよね、あのタイプ。むしろ重ねちゃって逆に、っていうか」
「ふむ。……そんなものか」
「そんなもんだよ。……それにさ。好み云々以前に、ある意味トラウマって言うか」
ふぅ、と溜息一つ零してから。ユインは、ふっと遠い目をする。
……いつも思うことではあるが。この少年は、若いのに随分と苦労しているらしい。
まぁ、親が親だ。そこらへんは仕方の無いことなのかもしれないが……やはり、幾らかは同情できなくも無い。
先ほどから話題に上がっている二人の妹に関しても、アステールの視点から見れば比較的マトモな部類に思えるのだが……やはり、近い関係であれば色々と見えてくるものもあるのだろう。
自分に話すことで幾らかでもそれが楽になるのであればいい、と。アステールは思う。
「ぶっちゃけ、イーシンもシャルも揃ってゴーイングマイウェイ過ぎるっていうか。お前らもうちょっと僕の苦労ってものを考えろっていうか。イーシンなんて、時々どっちが子供か……」
……あまり長引くと。うっかり心が折れそうな気もしたが。
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