【メコン左岸にて-ラオス中南部の旅】
第8話)シンダー鍋
《ラオス旅行記|ビエンチャン|ヴァンビエン|ターケーク|サワナケート》
夕方メコン川沿いを散歩していると、翌週に控えた大会に備えて、若者たちがボートレースの練習をしていた。
桟橋の方ではボチャッ、ボチャッと水しぶきが上がる。子供が素っ裸で川に飛び込み泳いでいる。
メコン・スイミングスクール?
ここサワナケートではメコン川が人々の生活の中心だ。
夜、川岸のままごとレストランに行ってみた。ラオ人の中年夫婦がなにやらジンギスカン鍋みたいな料理を食べている。僕は夫婦の料理を指差し、タイ語で店員に尋ねた(タイ語とラオ語は兄弟言語なので、ラオス旅行はほぼタイ語で事足りる)。
「อาหารนี้ชื่ออะไร」(この料理は何というのですか?)
「ชิ้นดาดครับ」(シンダーです。)
このシンダーなる料理、日本人にはちと縁起の悪い名前であるが、最近ラオスで大流行している。ジンギスカン鍋風の上の方で肉を焼き、その肉汁は鍋の周囲に張られたダシ汁に混ざる。そのダシで野菜を煮込むという、鍋と焼肉を足して2で割ったような料理である。
やがてシンダーのセットが運ばれてきた。ここラオスにおいて火力はガスではなく、炭火である。しばしシンダーを突っついていると、意外な声がかかった。
「あなたは日本人ですか?」
声の主は、隣で先にシンダーを食べていたあのラオ人夫婦の男からだったが、3日ぶりに聞く日本語に僕は一瞬戸惑った。こんなところに日本語の分かるラオス人がいるなんて!
「ผมเป็นคนญี่ปุ่นครับ」(私は日本人です)
と、相手が理解しやすいようにとタイ語で答えたのだが反応がない。すると男は僕に向かって呼びかけた。
「私は日本人ですよ」
「え、日本人だったのですか?」
「ええ、こちらに住んでいます。あなたがお店の人とタイ語で話されていたので、
最初は日本人かどうか分からなかったのですが、こんなところに来る日本人は
初めて見ましたよ、アハハハ。」
こんなところで初めて見たなどと言われてしまったが、よーく考えたらあなたの方が僕より先じゃんと矛盾を感じつつも男性としばし話しを交わした。
「こちらで観光業のコンサルタントみたいな仕事をしています。もう、日本に帰る
ところを整理してしまったのですよ。」
ということは、ラオスでの永住を決意していると言うことか。なぜこの男性がこのような人生を選択したのか、僅かな会話から伺い知ることはできないが、恐らく何か深いわけがあったのだろう。
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最終更新:2016年08月27日 18:59