2-3-1 「バックラッシュ」の言説史 1997年~2002年

ここで一度、「バックラッシュ」として観察される現象の代表的な関連事例を簡単にまとめてみよう。


1997年1月

  • 「新しい歴史教科書を作る会」結成。

1997年5月

  • 「日本会議」結成。

1998年 1月1日

  • 『日本時事評論』、「男女混合名簿」を批判しつつ、「ジェンダーフリー」について言及

1998年11月

  • 東京都文京委員会にて、古賀俊昭委員が「ジェンダーフリーを読みますと、男だから泣くなとか、しっかりしろというのはいけないというふうになってますね。しかし、普通、私たち何かそういう気持ちをまだ持ってる国民、日本人の意識というのは、まだそれはとんでもないことだという意識になっているんでしょうか。行政というのは、余り先んじて物を進めるということは好ましくないと思うんですね、おくれてもいけないですけれども。ですから、この女性財団の今取り組んでいる男女平等の社会をつくる、もちろん大賛成ですし、対等な存在の女性、男性が──二つしかないわけですから、力を合わせて世の中を発展をさせていく、築いていくというのは、全く私も異論ないんですよ。しかし、こういう過度の、過激なフェミニズムというか、考え方で行政を進めていくというのは、お金をせっかく使うなら、もっと改めなければいけない分野というのはたくさんあるんじゃないかなという気がするんですね」と質問。

1999年8月

  • 林道義『フェミニズムの害毒』(草思社)出版。内容は、『諸君!』に連載されたものに加筆されたものが多く含まれている。男女雇用機会均等法の施行(4月)、男女共同参画基本法の採択(6月)もあり、この頃より、『正論』『諸君!』、そのほか保守系ローカルメディア(『日本の息吹』『日本時事評論』ほか)はフェミニズム批判を徐々に増やし始める。

2000年~

  • 各地で男女共同参画条例制定、バッシングも高まる。

2000年4月

  • アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ『話を聞かない男、地図が読めない女 男脳・女脳が「謎」を解く』(主婦の友社)出版。以後、保守系メディアによって「男女の性差は生育的」とする主張の際の参照項として繰り返し指示される。

2000年7月

  • 渡部昇一、林道義、八木秀次『国を売る人びと 日本人を不幸にしているのは誰か』(PHP研究所)出版。

2001年4月

  • 八木秀次『誰が教育を滅ぼしたか―学校、家族を蝕む怪しき思想』(PHP研究所)出版。

2001年6月

  • 八木秀次『反「人権」宣言』(ちくま新書)出版。

2001年8月

  • 新しい歴史教科書を作る会、採択で惨敗。運動の求心力を再構築するため、ジェンダー問題を視野に入れだす。

2001年9月

  • 日本会議、選択別夫婦別姓反対署名運動の開始。「家族の絆、日本人の美徳、国への誇りと愛情をとりもどすための世論づくり」を開始すると宣言する「日本女性の会」結成。役員には、クライン孝子、高市早苗、西川京子、長谷川三千子ら。

2001年10月

  • 山谷えり子、衆議院文部科学委員会にて性教育教科書について批判的に言及。

2001年11月

  • 日本会議大阪、女性部会を設立、「国や社会に尽くす女性の力を集める」「家庭・女性のあり方やフェミニズム思想の問題点を学ぶ研修会を開催する」などを目標に掲げる。

2001年12月

  • 台東区女性センターで、辛淑玉の講演が抗議により中止に。

2002年4月

  • 山谷えり子、2002年3月に日本女性学習財団から刊行された『未来を育てる基本のき――新子育て支援』を「私は、経済的あるいは社会慣習の面で障害がある部分は見直していく、あるいは、性による差別というのはあってはならないことだと思いますけれども、驚くほど一方的に、多様性といいながら、何かステレオタイプを押しつけて画一的な考え方の押しつけをつくっているようなことがあるような印象を受ける」と言及。

2002年4月

  • 『正論』に林道義「構造改革論議に潜む家族破壊の罠 八代尚宏氏の“人間を忘れた経済学”を批判する」(02年05月号)掲載。

2002年5月、

  • 母子衛星研究会編『思春期のためのラブ&ボディーBOOK』(配布は2001年より開始)に対し、三重県いのちを尊重する会が「フリーセックスの助長」として三重県教育委員会および三重県知事、母子衛生研究会、坂口力厚生労働大臣等に電話やFAXで抗議。産経新聞や朝日新聞などで取り上げられる。
  • 山谷えり子、『思春期のためのラブ&ボディーBOOK』に触れつつ、「ジェンダーフリー教育や、あるいは性や家族、多様性と自立ということを余りにも前面に出して、年齢による発達段階、成熟度合いを無視したような、ある種の文化破壊であったり、ある場合は生き方破壊」と言及。
  • 『諸君!』に高橋史郎「ファロスを嬌めて国立たず <家庭>という環境ホルモン ――桃から生まれたもも子ちゃんは鬼と共存?いいかげんにしろ、フェミニズムの腑抜けども」掲載(・2002年6月号)。
世界日報、ジェンダーフリー批判記事を掲載。この時期より以降、少なくとも・200以上にものぼるジェンダーフリー、「過激な性教育」批判記事を掲載。

2002年6月

  • 山梨県都留市、「夫婦別姓制導入反対に関する意見書」提出、「夫婦別姓反対決議」。
  • 山口県宇部市、男女共同参画推進条例に「男らしさ 女らしさを否定することなく男女の特性を認め合い」と記述。
  • 「行き過ぎたジェンダーフリー教育や性教育から子どもを守る」とし、民主党議員78人が「健全な教育を考える会」を結成。

2002年7月

  • 『週刊新潮』(新潮社)、『思春期のためのラブ&ボディーBOOK』について。「厚労省版中学生向けセックス小冊子は子供に見せられない」と特集。特集では山谷えり子が「日本の性教育はいまだにフリーセックス信仰から逃れられない。この冊子はその典型です」とコメント。
  • 『正論02年08月号』、「フェミニズム批判特集」を組む。高橋史郎「非常事態に陥った日本 自治体と教育現場で進行する文化大革命」、林道義「男女平等に隠された革命戦略 家族・道徳解体思想の背後に蠢くもの」などが掲載。
  • ウェブ掲示板「フェミナチを監視する掲示板」開設。徐々にアンチフェミニズム系サイトが相互リンク、相互言及を行いつつ言説フローを確立していく。

2002年8月

  • 『思春期のためのラブ&ボディーBOOK』絶版、既に配布されたものが回収される(強制ではないため、全てではない)。
  • 千葉県男女共同参画条例案、自民党県連が「自己決定による性教育」などの削除を求め、特性論の記述を要求、廃案。

2002年9月

  • 『正論』(02年10月号)に、エドワーズ博美「脱・家族崩壊社会への胎動 フェミニズムの害に目覚めたアメリカリポート」、岡本明子「目指すは全体主義国家!? 内閣府共同参画会議の恐るべき戦略」 、高市早苗・木村貴志「男らしさ・女らしさは否定されるべきなのか」、山口敏昭「快挙!社会良識を守る男女共同参画条例制定 「男・女らしさ」「家族尊重」を望んだ宇部市民の勝利」など掲載。

2002年10月

  • 自民党少子化問題委員会にて「性差を否定するような行き過ぎたジェンダーフリーの考え方が少子化に悪影響」と議論。
  • 日本女性の会、設立一周年記念集会でジェンダーフリー反対の方針が確認。
  • 日本時事評論社、男女共同参画、ジェンダーフリー批判冊子『湧泉』を発行。内容はこれまで『日本時事評論』に掲載された記事の主要なものをまとめたもの。
  • 日本会議の冊子『日本の息吹』にて、「男女共同参画」「ジェンダーフリー」批判の集中連載開始。

2002年11月

  • 衆議院内閣委員会において、亀井郁夫が『思春期のためのラブ&ボディーBOOK』、『未来を育てる基本のき――新子育て支援』を「非常に問題」と言及、千葉県の条例について「男女共同参画というのは、男女がお互いにお互いの違いを認め合いながら、生かし合いながらともに手を携えて頑張っていく」と前置きしつつ、「らしさ、男らしさという言葉を一方的に否定するのは行き過ぎではないかと」を発言。
  • 西村眞悟、内閣委員会にて「男女共同参画社会というのは何をするんやということがわからぬ。やり過ぎて男女の性差を機械的に消し去ってしまうということは弊害だというのはわかる。それじゃ国家は何をするんだということがイメージとしてわからぬ。ということは、各現場では混乱が起こっていると今おっしゃったけれども、おひな祭りは女の子の祭りだからしない、また、人形を壇の上に乗せて並べている、等級をつけておるので、差別につながるからしない。こいのぼりを上げるのは、ヒゴイにマゴイに池のコイ、大きい順になっているので男女の性差を強調しているんだ、だからこれをしない。大臣、現実にこういうことが起こっておるんですよ、ほんまに、各教育現場、保育園で。こういう原理主義的な運用の中にあって、それが漫然と、ジェンダーフリーだとか、私もつい最近その言葉を聞いたけれども、男女共同参画社会だとか言われている。これを言えばもうにしきの御旗だということですな」と言及。
  • 山谷えり子、衆議院青少年問題に関する特別委員会にて、『未来を育てる基本のき――新子育て支援』に触れつつ、「お母さんたちが、運動会で「慎吾ママのおはロック」のCDをかけて一緒にダンスをしたいと言ったらば、お母さんが朝御飯をつくるというフレーズがジェンダーフリーに反するからだめだと言われて、歌詞をなくしてカラオケだけでやった。それから、「桃太郎」の本を読もうとしたら、おじいさんがしば刈りに、おばあさんが川に洗濯に、これがジェンダーフリーにかかわるからだめだというふうに言われたということでございます。」「伝統行事を否定したり、このような絵本を書きかえたりという動きは、全国に保育の場で広がっております」 と質問。米田建三が「お話を伺っておりまして、ロシア革命直後のボルシェビキ政権におけるソビエト社会の混乱、あるいはポル・ポト支配下のカンボジアのさまざまな社会的混乱、あるいは中国の文化大革命下における混乱、それらを想起いたしました」と答弁。
  • 文部科学省、神奈川県相模原市の教育委員会が作成した性教育指導書『人間として、豊かに生きる性教育の手引き 改訂版』(02年3月配布)について「学習指導要領を逸脱している疑い」として調査(実際に修正指導はなし)。
  • 八木秀次編『教育黒書』(PHP研究所)出版。

2002年12月

  • 『正論』(03年01月号)に、山谷えり子・八木秀次「反フェミニズム対談 国家・社会規範・家族の解体に税金を使うな!」掲載。
  • 産経新聞、「米国で禁欲主義教育広がる」とする記事掲載し性教育批判。但し、『News Week』には本来なかった記事が米国の例として紹介されている。
  • 東京女性財団廃止。
  • 東京都教育庁指導部長、「学校における性教育の指導について」通知。「一部で児童・生徒の発達段階を十分に踏まえない内容の授業が行われている状況があります」としたうえ、「児童・生徒の発達段階に即した指導を行う」ことを指示。
  • 林道義『家族の復権』(中公新書)出版。







最終更新:2007年10月31日 22:04