725 :名無しさん@秘密の花園:2013/03/09(土) 08:07:10.49 ID:40eCvwye
アコシズ
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お酒は二十歳になってから

726 :【アコシズ】 「新子邸にて・深夜」 (1/5):2013/03/09(土) 08:08:24.43 ID:40eCvwye
大学の飲み会なんてありふれてて、そこで酔いつぶれる人なんてのもありふれてる。
まぁ今回は友人宅での飲み会だけど。
ただ、横で絡んできている女性に関してはちょっと尋常ではなかった。

 「ねぇ~しず聞いてるぅ~?」

聞いてるよ、と返してしなだれかかってくるアコを押し戻す。
アコはけたたましく笑いながら、床に散乱した缶ビールを拾って、また飲み干す。
何杯目だろう?
どうしてこうなったんだかちょっとよく分からない。
っていうかアコはこういう場に慣れてると思ってただけにちょっと意外だ。
それ以前に初めてお酒を飲んでいるっていうのに、一向に酔いが回らない自分にもビックリだけど。

あのインハイからもう五年。
和とのやりとりはメールでまだ続いてる。
忙しいらしくて滅多に会えないけど、私はそれで十分だと思ってる。
あんな愛し合ってる人が傍にいるんだから。

だから私に必要なのは和ではない。
和に必要なのは私じゃない。

この五年、アコはずっと傍にいてくれた。

先生と鷺森さんが旅立って、アコのお姉さんも付いて行って、松実館も順調のようだ。
みんながそれぞれの人生を歩む中、アコとの付き合いは深くなっていった。
アコも吉野から旅立つチャンスは幾度もあった。
でもココに留まってくれた。
それまで先走りするのはいっつも私の方で、待ち受けるのも私の方だったんだけど。
この点に関しては立場が逆転した感じだ。

そしてこれまで。
うじうじしている私がアコに慰めてもらったことは一度や二度じゃない。
そんな事を何度か繰り返して、アコが私に対して抱いてる感情が、他のそれとちょっと違うことに何とか気づくことが出来た。
自意識過剰と思ったけども、どうやらそうじゃない。
うっすらとだけど。
アコのそれは、私が和に対して抱いてるそれと似ているようでちょっと違う。

…好意を持ってくれることは素直に嬉しい。
でもアコのそれが普通じゃないことは分かるし、受け入れるのに抵抗もある。
結局延ばし延ばしになって今日がある。

 「しずさぁ~小学校の頃言ってくれたじゃん?」

アコはなおも寄りかかる。
…小学校?

 「大好きだって…」

アコの目は既に焦点が合ってない。
正気でないことは傍目にも分かる。
酒に頼っているのも分かる。
普段ならこんなこと絶対にしない。 アコのプライドはそれくらいには高い。

 「しずぅ…」

そう言ってアコはソファーに座ってる私にまたがった。
アルコールの臭いが鼻を突く。
いや、それよりも。
アコのとてもいい匂いが鼻孔にこびりつく。
いいな…香水なに使ってるんだろう…。

 『アコは特定の相手なんて居ないのに着飾るの好きだよね』

前にそんな事を言った覚えがある。
アコの思いにまだ気がついてない頃。
いつものようにからかわれ返すんだと思ってたけど、アコは俯いたままなにも返さなかった。
今思うと残酷すぎることを言ったものだ。
知らなかった、ではすまされない。

…アコとはずっと友だちで居たいし、離れたくもない。
親友ってやつだと、初めて出会った時から思っていた。
でもそれとコレとはまた別だ。

アコは頭がいいから私の考えなんてお見通しだろう。
私はこの関係が終わることを恐れている。
アコも自身の思いを直接伝えたらこの関係が終わりを告げるだろうことは、理解しているはずだ。

そんな状態をもう何年も続けて、アコはもう疲れてしまったに違いない。
だから今、酒の力を借りて。
…誤算は私がまったく酔わなかったことだろうけど。

でも。
でもそれは。
そんなんじゃ。

 「しずぅ…。 馬鹿しず…。 ほんとに馬鹿…」

理性がアコの口を塞いでいた。
だが決壊が近いのは見て取れた。
そんなアコを見ながら、分かりながら。
なにもしないでアコの顔を見据え続ける私は、アコの言う通り馬鹿なのだろう。
…だろうではなく、馬鹿だ。

 「しず…今から言うことは私が酔ってるからだから。 酔った勢いだから」

なにを返したらいいのか分からない。
でも。

 「しず…わたしね…わたし…」

涙を目にいっぱいに貯めたアコの顔はとても綺麗で。
正面から見つめる私の頭の中で必至な言い訳が駆け巡った。

アコは酔っているんだ。
正気じゃないんだ。
だからこれからアコが言うことは本人の言う通り、酔った勢いの戯言だ。
それを聞いても私たちは友達でいられるし、これまでの関係が終わることもない。
アコがこんなセッティングまでして逃げ道をいくつも作ってくれたんだ。
アコの鬱憤や鬱屈した思いを、私は受け止めるべきだ。
そして聞いたらすぐ忘れる。
それで今までどおり。
二人で笑い合って、山を駆けまわり、河で遊び。
やがてはごく普通に恋をして、吉野を離れて、別々の人生を歩む。

そんなのは嫌だ。

アコとずっと一緒にいたい。
別れは必然だなんて、そんな常識や常套句は聞きたくないし、理解したくもない。
ずっと一緒にいたい。
アコとずっと一緒にいたいんだ!

衝動に突き動かされるがまま。
私はアコを抱きしめた。

 「アコ、私もね。 伝えたいことがいっぱいある。 でも酔った勢いで言うなんて、そんなのダメだよ」
 「しず…」
 「大事なことなんだから、酔った勢いでなんてダメだよ…」

だらりと下に伸びたアコの手が、今度は私の背中を抱きしめる。
アコの顔は見えない。
アコからしてみれば酒の力を借りての精一杯の告白。
それを私は潰してしまった。
女の子にとって告白が人生の一大事だってのは私にだってわかる。
それを私は潰してしまった。

 「ごめんね、アコ。 ごめんね」

胸の奥から何かがこみ上げる。
他に何か言うべきことはあるはずだ。
でもその何かが喉の奥でつっかえて、もう「ごめんね」としか口から出ない。
代わりに目から何かが流れた。

抱きしめる力も弱まって、アコは一旦私の腕の中から抜け出た。
そして真っ赤な顔で、私を見つめる。
その顔はアコが私に今までで見せた中で、一番、綺麗だった。


そこから先は、なにも覚えてない。

目が覚めて目に入ったのは床に散乱した缶ビールとジャージ。
それにブラウスとスカート。 あと丸まったティッシュの数々。
それらが朝日に照らされて淡い光を放ってる。
前後の記憶とすりあわせて。 納得した。

 「あぁ…、やっちゃった…」

自分でも無責任すぎる言葉だけど、まごうこと無く本心からのセリフだ。
…順番、逆だよね。 色々と。
軽く反省しながら頭を掻いていると、アコが入ってきた。
身にはYシャツ一枚、両手には湯気を立てるコーヒーカップ。

 「しず、私ね。 割りと夢だったんだ」
 「なにが?」

横に座ったアコからコーヒーを受け取り、きわめて平凡に聞き返す。

 「二人で飲む、夜明けのコーヒー」
 「ベタだなぁ…」
 「しずはどうなのよ」

ちょっと照れたように返されて、私はやや答えに窮して、でも本心を返した。

 「私も、だよ」

  • 了-

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最終更新:2013年03月11日 05:09