353 :部咲1:2009/11/01(日) 23:18:22 ID:KRYaBcAB
夕暮れの淡いオレンジがやんわりと暖める帰り道での分かれ道。
そっとどちらからともなく繋いだ手を離す。ほんの少しの名残惜しさと気恥ずかしさを残して。


いつしか私と咲は部活の後ときどき一緒に帰宅するようになっていた。本当にときどきなのだけれど。

互いに本好きだということもあり、会話に困ることなど無かった。元より最大の繋がりである麻雀の会話も持ち寄れば私たちの間に沈黙など訪れるはずもないのだ。

…とは言っても大体は私が麻雀や本の話題はもちろん、ついついそれ以外のあらゆることを喋っているのを笑顔でおとなしく聞いて、時々二言三言の質問や意見を投げ掛けてくる咲…という構図なのだけれど。

普段は部活が終わり次第、咲は和や優希たちと共に帰宅するのだけれど、たまに私と二人だけで帰り道を共にすることがある。

それは何だか二人だけの秘密を共有している気分になるから不思議だ。別に悪いことをしてるわけじゃないのにね。

それを何度かしている内にどちらともなくいつしか手を繋ぐようになっていた。
恐らく私からなのだろうけど初めて繋いだ時のことはあまり覚えていない。それくらい自然的なことだったのかもしくは緊張しすぎていたのか。


「じゃあまた明日ね」

「はい。また明日…あっ」
「ん?」

「あ、明日はその…和ちゃんと…」

何だか言い辛いそうにもじもじしてる。「また明日」って言ったのは明日も学校を休まない限りは部活で顔を合わすから言っただけで「明日も一緒に帰りましょう」とイコールというわけじゃないのよ。

「あら先約?残念だわ」

「ごっごめんなさい…」


私たちは約束をしない。その時のお互いの空気や気持ちを優先するから約束なんて未来を縛ることは必要ないのだ。
けど、少し意地悪っぽく残念がってみた。私はどうやらこの子をからかうのが好きみたいね。

「冗談よ。友達は大切にね」

「はい」


それでも少し、ほんの少しだけ浮き上がったもどかしい感情を私はどう扱えばいいのか分からなかった。

分からなかったからさっき離れたばかりの自分の手を強く握ってみた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年11月03日 14:16