抽出 ID:0XX2wdUs (7回)

140 名前:名無しさん@ローカルルール変更議論中[sage] 投稿日:2009/06/11(木) 23:28:12 ID:0XX2wdUs
アニメの10話でモモが一言だけ話した記念にかじゅモモSS投下。
エロなし、非常に残念な文章なので、嫌いな方はスルー推奨でよろしくお願いします。
それでは、投下します。

141 名前:名無しさん@ローカルルール変更議論中[sage] 投稿日:2009/06/11(木) 23:28:54 ID:0XX2wdUs
『貴方の問いに答えたら』


誰もいない部室はとても静かだった。
自分が座っているパイプイスがきしむ音すら辺りに響き、目を閉じると外から吹いてくる風の音すら聞こえてくるようだった。
麻雀部の部室だというのに、牌を切る音すらしないのだから思わず失笑してしまう。
午後2時。ほとんどの学年が授業中なのだから、私のクラスのように自習でもなければ皆教室にいるだろう。
だから今、この部室が静かななのは当然といえば当然なのだが、ふと私は思ってしまう。
風越女子や龍門渕ならどうなのだろうと。

きっと部室は牌の切る音が途切れることがなく、そして部員で溢れかえっているのだろう。
こうして部員が少ないことに頭を悩ませることもなく、ネットなどにも頼らず、好きなときに卓を囲むことができるのではないか?

私はそこまで考えると、その考えを断ち切るかのように軽くため息をはいた。
結局のところ、今の考えはただの無いものねだりであって、今考えるべきことではない。
今考えるべきは、日に日に近づいている地区予選にどうやって勝つかではないのか。
私はそう考え直し、先ほどまで読んでいた資料を手に取り直した。
そして一から読み直そうと最初のページを開こうとしたその瞬間、私はなんだか妙な感覚を覚えた。
誰かにジッと見られているような、まるで近くに人がいるような、そんな感覚。
私は一旦資料から目を離し、軽く辺りを見渡してみた。
だが、そこに人の姿を見つけることは出来なかった。

きっと気のせいだろう。そう結論づけて意識を資料に戻そうとした時、私はある人物のことを思い出した。
そこにいたとしても気が付かない、もはや能力といってもいいほどの存在感のなさを持った少女の事を。

「モモ、居るのか?」
「ありゃ?気付かれちゃいましたか」

142 名前:名無しさん@ローカルルール変更議論中[sage] 投稿日:2009/06/11(木) 23:29:20 ID:0XX2wdUs
その言葉と同時に、私の手にはいつの間にかに誰かの手が重ねられていた。
見上げてみるとそこには黒髪の少女――東横桃子がそこに立っていた。

「よく分かりましたね。完全にステルスモードだったんすけど」
「なんとなく……な。だが、流石に場所までは分からなかった」

けれど初めてモモと会ったときは、その気配すらも分からなかった。
それを考えると、少しは進歩したのかもしれない。

「それでも凄いと思うっすよ。こうして気付かれたのって先輩が初めてっすから」
「そ、そうか……」

まるで私の心を読んでいたかのように、モモはニコリと笑った。
そんなモモを直視できなくて、私は気付かれない程度に目を背けながらそう呟いた。

「と、ところで、なんで部室にいる?まだ授業中ではないのか?」
「いやー、偶然廊下を歩いている先輩が見えまして、こっそり抜け出してきちゃいました」

『大丈夫っすよ。私影薄いから、どうせ気付いてないっす』と頭をかきながら話を続けるモモ。
先輩として授業を抜け出した事を怒るべきところなのだろうが、私は何故かそんな気持ちにはならなかった。
それは自分の能力をちゃっかり有効活用しているのを呆れたからか、それとも自分を見つけてくれたことの喜びからか、私にはよく分からなかった。
いや、きっと分かろうとしていないだけなのだろう。
分かろうとしてしまったら、きっと後戻りが出来なくなってしまうから。

「そういえば、さっきまで見てたんすか?」
「あっ、ああ……牌譜だ。風越と龍門渕のな。他にもいくつかあるが、この二校が一番興味深い」

そんな迷いを慌てて吹き飛ばし、私はモモの質問に答えた。
モモと出会ってから何度も繰り返した迷い。それが簡単に吹き飛ばせるはずもないのだが……

「風越と龍門渕……確か去年の県大会の2位と1位っすよね」
「ああ、流石にレベルが高い。まあ中には変な牌譜も混じってはいるのだが」
「強いんすか、やっぱり?」
「2位と1位だぞ、強くないわけがない」

私はそれを再確認するように、手に持っていた牌譜をパラパラとめくった。
見れば見るほど惚れ惚れするような牌譜の数々だった。自分では絶対に出来ないと思わせる和了りも一つや二つではない。
そしてその中で異彩を放つおかしな牌譜。それが去年の前年度MVPだというのだから、面白い。
天才の考えは凡人には理解出来ないということだろうか?

「この2校と当たるのは、早くて2回戦だ。出来れば決勝で当たりたいものだな」

決勝の舞台でこの2校と卓を囲み、そして戦う。
それが出来れば、どんなに素晴らしい事だろうと思う。そして優勝し、全国に行く事が出来れば……

143 名前:名無しさん@ローカルルール変更議論中[sage] 投稿日:2009/06/11(木) 23:31:00 ID:0XX2wdUs
「行けますかね、決勝?」
「そうだな……」

その質問に答えるか否か、私は悩んだ。
私がこの麻雀部の軸になっていることは、私がいくら否定しようとも拭いきれない事実。
そんな私が他の部員に、それも後輩に本音をもらしてもいいのだろうか。
だが、そう思ったのは一瞬の事。気が付いたら、私はモモに話をし始めていた。

「確かに妹尾が若干不安要素ではあるが、それでも10万近くの点数が半荘1回でトブことはないだろう」

希望的観測であることは分かりきっていた。
どんなことでもありえる、それが麻雀だと言うのに。
だが、そんなことを流石にこの場で言うつもりはない。
どんなことでもありえると言う事は、悪い事だけが起こる訳ではない。いい事だって起こりえると言う事だ。
そう結論付け、私は話を続けた。

「そして僅かでも点数が残っていれば、蒲原に私。それにモモ、お前がいる」
「私……っすか?」
「ああ。だから、可能性はゼロではない。といっても、団体戦にこうして出られるのだ。高望みはしてはいけないな」

その言葉に嘘などなかった。参加する事すら絶望的と思われた団体戦。
それにこうして参加する事が出来るのだ。初心者ながら了承してくれた妹尾、そしてモモには感謝しても仕切れない。

ふとモモの顔を見上げてみると、その表情がとても明るいことに気が付いた。
まるで名前を読んでくれた事が嬉しくてたまらない。そんな気持ちを表しているかのようだった。

「ねえ、先輩?」
「なんだ?」
「さっきの先輩の言い回しだと、私って期待されてるんすかね?その…先輩に」

まるで決まった答えを望んでいるような、そんなモモの言葉と声。
そしてその通り、答えなんて決まっていた。そしてそれを言わない理由なんてどこにもない。

「無論だ。期待している」

私がそう言うと、ただでさえ明るかったモモの表情が、さらに明るくなった。

「はい!先輩のために、私頑張るっすよ!なんせ先輩は、私を求めてくれましたから!!」

モモが私と出会ってから何度も何度も口にしたその言葉。
私はそれを聞くたびにフラッシュバックのように思い出す。
モモと始めて出会った時から、今に至るまでの気持ちの推移を。

ネット麻雀を打ったとき、私はモモの打ち筋と麻雀での性格に惹かれた。
そして初めて出会ったとき、私はモモの容姿に惹かれた。
数日たち、今度はその性格とその存在感故の儚さに惹かれた。
そして今でも、私はモモに引かれ続けている。

蒲原は私がモモの勧誘に成功した時、『岩戸をこじ開けた』と表現したが、なんてことはない。
私はただ……初めからモモに惹かれていただけなのだ。
その気持ちに、ただモモは答えてくれたにすぎない。
例えそれが『自分を見つけてくれた』という感謝に近い気持ちだとしても。

「先輩?」
「あ、ああ……頼むぞ、モモ。正直なところ、お前を一番頼りにしている」

144 名前:名無しさん@ローカルルール変更議論中[sage] 投稿日:2009/06/11(木) 23:32:14 ID:0XX2wdUs
モモの私を呼ぶ声に、思い出したかのように、けれど俯きながらそう答えた。
先ほどまで考えていたモモへの気持ち。それを彼女本人に伝えた事は今の一度もない。
最初に惹かれたのが『麻雀が強いから』という理由だけになおさら。

ただ団体戦に出たいという我侭の為にモモを利用しているのではないか。

そんな気持ちを拭い去る事が、私にはどうしてもできなかった。

「……モモ?」

ふと、モモが何も話してこないことに気が付いた。
俯けていた顔をモモの方に向けてみると、そこには嬉しくて堪らないといった表情をしたモモがいた。

「先輩っ!!」

そしてその言葉と同時に、感極まったかのようにモモは私に抱きついてきた。
そのあまりの勢いに、思わずイスから倒れ落ちそうになる。

「おっ、おいっ!!」
「やっぱり私、先輩が大好きっす!!」

嬉しそうに、そして幸せそうに、モモは私に頬を擦り付けてくる。
その度にモモの髪から放たれる香りが、私の鼻腔をくすぐり続ける。

「ああ、もうっ!! こういうところでは抱きつくなと何度も言っているだろう?」

これ以上何かされては、私が理性を失いかねない。
慌てて離れようとするが、予想外に強いモモの腕の強さに離れる事が出来ない。

「いい加減、離れ―――」
「………じゃあ、どこならいいんすか?」
「な、なに?」

抱きついていた腕の強さをほんの少しだけ緩めて、モモはそう言った。
予想外の言葉に、私の声が裏返る。今の私はそれほどまでに動転しきっていた。

「先輩いっつも言いますよね。ここではやめろって。じゃあ、どこならいいんすか?」
「モモ……」

動転していた気が自然とおさまっていく。
そしてモモの真剣な表情に目が離せなくなり、モモの言葉に聞き入っていく。

「私はどこだっていいっすよ。道端だって、部室だって。先輩は……どこならいいんすか?」

本当に……どこならいいのだろう?
いつも当たり前の様に発していたこの言葉。その意味をまったく考えていなかった自分に気付く。
そしてモモは、今その答えを聞こうとしている。

145 名前:名無しさん@ローカルルール変更議論中[sage] 投稿日:2009/06/11(木) 23:32:46 ID:0XX2wdUs
「……モモ」
「なんすか?」

迷いはあった。
この気持ちは本当なのかと、悩んだ事もあった。
だが、モモのその真剣な瞳を見ていると、なんだかその迷いも悩みも晴れそうで……

「今度、私の家に来い。そこでなら…私は構わない」

自然と、この言葉が浮かんでいた。

この答えが正解かどうか、私自身にも分からない。
いやそもそも私はこの想いを告げてもいないのだから、限りなく間違いに近いのかもしれない。
私は気持ちを落ち着かせるように唾を飲み込み、モモの言葉をじっと待った。

「……っすよ」
「モモ?すまない、よく聞こえなかった。何を言って―――」
「はいっ!もうすぐにでも、今日にでも行かせてもらうっすよ!!」

そう言ってモモは緩めた力の分、いやそれ以上に強く抱きついてきた。

「ああっ!だからこういう場所ではっ!!」

先ほどと同じように抱きついてきたモモを離そうと、腕を振り上げる。
だけど先ほどと違い、そのまま離そうとする気には何故かならなかった。

「まあ、いいか……」

どうせ私たち以外、誰もいないのだし。
そう考え、私は振り上げていた腕をそっと下ろした。
本当はモモと同じようにしてやればいいのだろうけど、そんなことが出来るわけがない。

私はそうやってモモに抱きつかれながら、気づかれないようにそっと時計を見た。
授業の終わりまであと20分。そしてその後には蒲原たちも部室にやってくるだろう。

それくらいなら……別に。

私は時が経つのを忘れるように、そっと目を閉じた。

今はただ、モモの温もりだけが感じる事ができるようにと。

146 名前:名無しさん@ローカルルール変更議論中[sage] 投稿日:2009/06/11(木) 23:34:13 ID:0XX2wdUs
以上です。お目汚し失礼しました。

それはそうと、かじゅ先輩の「ここではやめろ」発言の「ここでは」は永劫ネタにされ続けると思う…

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最終更新:2009年06月26日 02:00