128 部長×咲1 [sage] 2009/10/24(土) 22:30:49  ID:jjyhv0jg Be:

放課後。
県予選の優勝の余韻はほどほどに、次は全国大会に向けて気合いを入れ直した練習は本日も無事に終了し

「本棚の整理をしたいから」
なんて理由をつけて後輩たちを先に帰らせた私は一人、部室に居残っていた。


「合同合宿やら生徒会やらで色々あったからね」
なんて一人ごちてたそがれていた。

たまには一人で勝利の余韻をゆっくり噛み締めたかったのだ。この部室で。


「思えばこの部屋とも三年間の付き合いになるのね」

一年の時にはたった一人で打ち続けていたこの麻雀部。

二年の時にはまこと二人で。


そして今。
まさかこうなるとはさすがの私も予測がつくはずもなかった。高校生活の間には全国出場はおろか、大会出場さえも叶わない一抹の夢だろうと半ばあきらめていたのに。しかも団体戦。

もしもタイムマシンがあるのなら、あの頃たった一人でこの部室で麻雀を打ち続けていた私に教えてあげたい。

『今は最悪でも必ずそれには意味がある。その悪待ちは絶対オリちゃだめよ』――と。

二年も待ったが、たったの二年だ。たったの二年でたった一人だった私が夢の全国大会に出られる。

まこ、和、優希、須賀くん・・・そして




―――「咲」


「はい・・・?」

私以外誰もいないはずの部屋に別の声が響いた。そう彼女こそが私の夢への架け橋をつないでくれた最後の一人。宮永咲。


「和たちと帰ったんじゃなかったの?あ、忘れ物ね」

「あの・・・えっと途中まで帰ってたんですけど、今日は部長が「本棚の整理をする」って言ってたのを思い出して・・・」

「ああ。まだここに読んだことない本があったのね」

「はい。あと、私の名前を呼んだのが聞こえて」



―あら聞かれてたのね。ちょっと全国にいけるのが嬉しくて一人で後輩の名前を呟いてた・・・なんてなんだか気恥ずかしくて言えないじゃない。

「あの、部長」

「ん?」

「私を麻雀部に入れていただいてありがとうございました。私・・・和ちゃん京ちゃん優希ちゃん染谷先輩、それに部長。みんなのおかげで麻雀の楽しさを思い出させてもらいました」



「咲」

「はい?」

「ありがとう」

優しく、それでいてぎゅっと抱き締めてみた。私の腕にすっぽり収まる小さいこの身体は、対局時にあの奇跡のような闘牌を魅せる人物と一緒とは思いがたかった。

お礼を言うのはあなたじゃなくて私なのよ。あなたのおかげでこの三年間は無駄じゃなかったって思えた。


「ぶっ部長・・・?」

おどおどしながらも私を振り払うことなくされるがまま。ほんとかわいい後輩たちに恵まれたわね私は。


「私の悪待ちも捨てたものじゃなかったわね・・・本当に」

「え?」

「・・・咲」

「は、はい?」


「全国。頑張りましょう」
「・・・はい!」


綻ぶ花のように咲いた笑顔に私はもう一度彼女を抱き締めた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年10月25日 21:35