680 咲で百合燃え① [sage] 2009/10/18(日) 02:01:58  ID:GM/KQZMp Be:

「 鳴 動 」

「圧勝!圧勝です!白糸台高校先鋒 宮永照!一体どこまで強いのか!!」実況アナウンサーが叫ぶ
全国高校麻雀大会 地区予選西東京大会団体戦決勝 宮永照は、2位以下に圧倒的な大差をつけて勝利した
最早この順位が入れ替わることはあるまい

…つまらない… 調整にもならない 

何もかもつまらない くだらない世の中 たかが麻雀…では他に価値あることなんてあるのか?価値って何だ?
どんなに恋焦がれたとしても望むものは得られない …つまらない、くだらない…

どうした、お前たち 有象無象のお前たちが何をそんなに悲しそうにしているのか 当然の結果を前にして
たかが麻雀だろう? たかが人生だろう? 苦しいのか? 悲しいのか? …救いを求めているのか?

ならば私は覇王となろウ この麻雀という世界を統べル覇王ニ そして麻雀トいうゲエムそのものヲ終わらせて
…涅槃の水底でお前たちの苦しみや悲しみト共に眠ロウ

…ドウダ、私ハ優シイダロウ?

* * *
8月に入った。今日の部活は休みだ。宮永咲は、自宅から少し離れた開けた川べりに来ていた。
水音を聞いていると気持ちが落ち着いてくる。咲は辛いことや悲しいことがあると、いつもこうして川面を眺める。
来週、いよいよ全国大会が始まる。「…お姉ちゃん…」

4校合宿の際、風越の福路美穂子から聞いた、姉による明確な拒絶。覚悟はしていたとはいえ、ショックだった。
全国で顔を合わせ、卓を囲むことができたなら、きっとまた心を通わせることができる。…そう信じて戦うしかないこと
はわかっている。しかし拭いがたい不安が咲を覆う。もし、もしまったく相手にされなかったら。
ぷるぷると顔を振る。自分の弱さが嫌いだ。全国に向け意気軒昂な他の部員たちの前で、こんな弱音は吐けない。
原村和の強さが心底うらやましい。ポケットのマスコットを握り締めた。

今は、考えるな、私。息を整え、ぼんやりと瀬の音に耳を傾ける。川面は陽光を照り返し、きらきらと光っている。
意味もなく以前読んだことのある詩の一節が口をついて出た。
「小諸なる古城のほとり…」

「…雲白く遊子悲しむ。ふむ、小娘が藤村とは意外だ!なかなか渋いな、嶺上使い」「!衣ちゃん…」
咲の一節を受けつつ、背後に天江衣が立っていた。腕を組み仁王立ちで不敵な笑みをたたえている。でも小さい。

「びっくりした、どうしたのこんなところで」
「ここは衣のお気に入りの場所のひとつだ。お前こそ、こんなところで何をしている?来週はもう全国だろう?」
「う、うん。今日は練習休み。ちょっと散歩してただけ」 「ふーん…なにやら悩んでいるようにも見えたがな」
「えっ…」 「透華に聞いたぞ。宮永照、姉のことか」 「!……」
「話してみるがいい、このお姉さんである衣に!」ぽんっと薄い胸を叩き、衣は踏ん反り返った。

こんな小さな子(本当は年上だが)にこんなこと、と思わないでもなかったが、
誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。衣の強引な催促もあって、咲は訥々と語りはじめた。
麻雀に勝って、また家族みんなで暮らすことが希望だった。でも姉の拒絶は予想を上回っていたようだ。
どうしてそれほどまでに憎まれてしまったのか…
両親の別居が決まったとき、咲は半分パニック状態だった。これまでの世界が崩壊していく感覚は、今思い出しても
背筋が凍る。実はそのときの記憶は、一部曖昧になっている。もしかしたらそのとき、
「私、何かひどいことを言ったのかもしれない…」
「ひどいこと、か…ふむ」
――
衣は事故で両親を亡くした。当然そのこと自体、筆舌に尽くし難く苦しいことであったのだが、もうひとつ衣を
苦しめていたことがあった。事故の直前、衣は駄々をこねた。両親に悪態をついた。「父君と母君のばかー」

それが最後にかけた言葉となった。やれやれと苦笑する両親の顔、それが最後に見た最愛の人たちの顔となった。
取り返しのつかないことをしてしまった。あやまりたい。己がどんなに愛しているか大切に思っているか伝えたい。
でも、もうそれはかなわない。時折その場面がフラッシュバックしては、衣を苦しめた。

衣を救ったのは透華たちだった。透華は注意深く衣を観察し、粘り強く接して衣の苦しみを聞きだすことに成功した。
衣の告白を受けて、透華は言った。 「なんだ、そんなこと」
衣は驚愕した。侮辱されたのかと思った。
憤慨して怒りをぶつけようとしたが、透華の顔は真剣だった。一瞬戸惑った。透華は続けて言った。

「天江のおじ様とおば様は、立派な本物の大人でした。ちょっと喧嘩したくらいのことで、絆が綻ぶとでも?
はっきり言ってありえませんわ!その程度のことで、悲嘆に暮れたりあなたのことを嫌いになんかなるものですか!」
「とーかの言うとおりだぜ、衣。父ちゃんと母ちゃん、なめんじゃねーよ」そう言いながら純が衣の頭をくしゃっとなでた。
透華に抱きしめられた。涙が次から次へとあふれてきた。涙と共につかえていた黒い塊が解けて流れていった。
…以来、両親のことを想うとき、思い出される顔はあのファミレスでの笑顔となった。
――

「…そういうことではなかろう。」
衣は咲を見やる。あの決勝で魔王のごときオーラをまとい、衣を倒した娘が見る影もなく萎縮している。
「そう、かな…」 衣はため息をついた。言うべきかどうか迷っていたことを、伝えることにした。
「宮永照 … あれは、もっとこう、何か…向こう側とでも言うか、そこに片足を突っ込んでいるように思える」
「向こう側?」衣は頷き、続けた。
「去年の全国、直接対決は叶わなかったが、そう感じた。あの頃の衣と同じだと。そう、勝負の最中の
高揚、悔恨、歓喜、悲嘆、そういった諸々を超えた、いや、捨てた境地とでも言うか。
卓の全てを掌握し時間をも超越したかのような感覚、空白の世界…お前にも覚えがあるのではないか?」
「わたしにも?」 確かに決勝オーラスのとき、配牌から咲は自分の勝利を確信していた。何故なのかはわからない。
しかし、何もかもが、やけに”静か”だったことは覚えている。

「全能無敵の感覚。事実、宮永照のここ最近の勝率は常軌を逸している。理想の境地のようだが、過ぎれば毒だ」
「毒?」
「戻ってこれなくなる。衣はそう感じた。人であることを捨てねば届かぬ境地だ。衣は自棄になった末のことだが、もし
宮永照がそうあることを望んでいるとしたら」

咲は青ざめた顔で言った「そ、それって、どうすればいいの?!私はどうすれば?!」
衣は冷然と答えた「勝て。もしそうなら、引き止めるにはそれしかない」
「!」…勝てるのか、あの姉に。
「衣には透華たちがいた。透華たちは決して衣のことを離そうとしなかった。おそらく踏み止まれたのはそのお陰だ。
お前の姉にもそのようなものが身近にいれば良いのだが」
咲は考え込むように押し黙ってしまった。
(…少し脅しすぎたか)

「ま、あくまでも仮定の話だ。…姉は息災なのだろう? 生きて、いるのだろう?」 「え?うん…」
「ならば大丈夫だ!生きてさえいれば和解のチャンスはいくらでもあろう!」
「あ…(そうだ確か)衣ちゃんのご両親…ご、ごめんなさい。私、自分のことばかりで」
「ん?衣の両親のことか?気にするな!同情されたくて言ったのではない、本心だ」 「で、でも」
「自分のことを気にかけるのは当然だ。誰にでも背負う何かはあるものだ。…この世に有象無象などいない。
そんな言葉でくくれるような人間は誰一人いないんだ。先の決勝で衣はそれを学んだ」くるりと咲に背を向ける。
「闘いに臨むにあたり大事なことがひとつある。忘れるな、嶺上使い。
お前と共にある仲間を。お前と闘ったライバルたちのことを。お前に負けた、我々の思いを」
そう言うと衣は、土手の上に向かって歩き出した。上に上がると、咲のほうを振り向いて、大きな声で言った。

「父君と母君にはいつか会えると信じている!透華がそう言うんだから絶対だ!衣がこの世を去るときかも知れぬな!
そのとき衣はこう言うんだ!概ね良い人生でした、思いっきり楽しみました、とな!」
「衣ちゃん…」

「お前が言ったんだぞ、みやながさき! もっと楽しめ!! 旗鼓の間に相見ゆ、それもまた楽しからずや、だ!」
そういうと衣は踵を返した。いつの間にか現れた執事が此方に深々と一礼し、衣の後を追って去っていった。

「私とともにある仲間、私と闘ったライバルたち…」
部長、染谷先輩、ゆーきちゃん、そして、のどかちゃん…マスコットをポケットから取り出し口付ける。
ありありと思い出す。決勝の卓の相手3人、名前は覚えていないけど1回戦からの対局者たち一人ひとり。
皆持っていた熱い思い、高みを目指す気高い意志。

沸々と力がみなぎる。お腹の底から熱い何かが湧き上がる。北方を見た。
北アルプスの蒼い峰々が見える。咲は幻視した。森林限界を超える高い山の上に咲く花から、一滴の光が地に落ちる。
大地にしみた小さな光は、徐々に大きくなりながら、地下水脈を流れ、清流を下り、川を流れ、今、咲のもとに到り、
足裏から体内に這い上がり、背骨に沿って天に向かって昇華する―… 一つ大きく震えると、東の空を見据えた。

もう迷わない。お姉ちゃん、私、行くよ。お姉ちゃんと闘うよ!…全身全霊で楽しんでみせる!!

* * *

同時刻、白糸台高校 ―― 

弘世菫は宮永照を探して、屋上まで来た。居た。ぼんやりと空を眺めている。「照…」

照は変わった。初めて逢った1年生の頃から無口ではあったが、もう少し感情の表出があったように思う。
クールを装いながらドジをして、赤くなりながらもあくまでもクールに振舞おうとする照が愛しくて、ふざけるふりをして
抱きしめたりもした。
半年も経ずに、照に恋をしている自分を自覚した。ただ、照には他に想い人がいるような気がして、言い出せなかった。
それに照の麻雀への入れ込み様は普通じゃなかった。勝利を重ねる度に、照は変わっていった。
そして益々強くなっていった。菫は時々この愛する親友が恐ろしくなる。(お前は何を、何処を目指しているんだ、照)

「照、時間だ。部室へ行こう」「…ああ」
歩き出そうとした瞬間、突然、照が大きく振り向き、西の空を凝視した。「?…照?」

  そうか 来るか 来るんだね、咲…

  咲、愛しい咲 …

  この世デ唯一  私ヲ殺セル牙ヲ持ツ者

  愛してる 愛していルヨ

  壊シテシマイタイホドニ


菫は照の横顔を覗き見た。笑っている、照が…。
照の周囲に闇がにじみ出た。「?!」暗闇を湛え凄惨な笑みを浮かべながら、西の空を凝視していた。
空は晴れ渡っている。しかし菫はそのとき確かに、遠く雷鳴が鳴り響くのを聞いた…。

* * *

同時刻、鹿児島 栄水女子高校

東の空を眺める巫女服姿の少女が一人

「…これは、なんという相…」

「神代部長、時間ですけ。部室へ」

「大会に向けて集中したい。これより物忌みに入ります。副部長にそう伝えて」 「え?、あ、はい…」

二つのケモノ、いや、魔神か … 正と負、陰と陽 …

「ヤマタノオロチかスサノオか」

いざ、荒ぶる御霊、鎮め奉らん ――

**********
以上 読了感謝

裏タイトル「麻雀妖怪大戦争 開戦前夜」
神代の高校の文字は適当

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最終更新:2009年10月23日 16:26