容器包装リサイクル法の改正

作成:野瀬光弘(5月10日)


1.容器包装リサイクル法の経緯と概要

(1)法施行の経緯

 一般廃棄物処理のなかで容器包装は容積で約6割、重量で約2割を占めており、素材はリサイクル可能なものが多い。そのリサイクルを促進し、廃棄物の減量化を図ることを目的に、平成76月、容器包装リサイクル法(正式名は「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」、以下では容リ法)は制定された。まずは平成94月からガラスびん、ペットボトル、紙パックを対象として実施され、124月からは段ボール、紙パック以外の紙製容器包装、ペットボトル以外のプラスチック製容器包装も対象に全面施行された。


(2)制度の概要

 法律では、商品販売のために容器包装を利用する事業者(特定容器・包装利用事業者)と、容器を生産・輸入・販売した事業者(特定容器製造等事業者)を対象に、容器包装類に関する再商品化の義務を課している。事業者はこの容器包装を再商品化する責務を持っており、①リユース容器のように「自主回収するルート」、②市町村が回収した容器包装類を再商品化するルートを自ら用意し、主務大臣に認定してもらう「独自ルート」、③市町村が回収した容器包装類を「指定法人」である日本容器包装リサイクル協会(以下では「容リ協会とする」を通じて再商品化してその費用を負担するという3つのルートがある(1は省略)。大部分は③の指定法人ルートになっているが、市町村が回収して選別された容器包装類に対してのみ責任(費用負担)があり、市町村が回収しなかった分は責任を負わない。負担する費用は再商品化だけで、収集運搬は含まれていない。

 市町村は容器包装類の分別回収を行い、特定分別基準に適合する状態にまで選別を行うことが求められる。特定分別基準に達した商品は、容リ協会の受け入れ容量の範囲内で、再商品化のために無料で引き渡すことができる。

 市町村が回収した容器包装類は、指定法人が無償で引き取りリサイクルを行う。この費用は、容器包装の販売・利用事業者から徴収することになるが、その価格は容リ協会が毎年定めている。容リ協会は自治体からの容器包装類の引き取り契約を行う一方、再商品化事業者との間で入札を通じて再商品化委託契約を交わしている。入札を通じて決まった処理費用は、特定事業者から容器包装類の使用量に応じて委託料金の徴収を行っている。

 このように、本法は一般廃棄物の処理責任は地方自治体にあるという考え方から一歩踏み込んで「拡大生産者責任(EPR)」概念を導入した画期的な法律であった


(3)再商品化義務対象となる容器包装

 容リ法でいう「容器包装」 とは、商品を入れる「容器」および商品を包む「包装」であり、商品を消費したり商品と分離した場合に不要となるものである。なお、容器包装は「特定容器」と「特定包装」に分けられる。

 特定容器:容器包装のうち、商品の容器であるものとして主務省令で定められたもの

 特定包装:容器包装のうち、特定容器以外のもの

 容器包装に該当すると、基本的には、消費者が分別排出し、市町村が分別収集し、事業者がリサイクル(再商品化)を行う対象となる。

 法律上は「有償または無償で譲渡できることが明らかで再商品化する必要がないものとして主省令で定める物を除く」との例外規定が存在する。図2(省略に示したように、スチール缶、アルミ缶、段ボールなどの包装容器は除外されている。その理由は、これらの物は有価物として再生資源市場がすでに構築されており、そこで取引されるからである。なお、スチール缶とアルミ缶のリサイクル率(平成16年時点)はそれぞれ87.1%、86.1%となっている。


2.容器包装リサイクルの実績

 容器包装の回収量は法律が施行された平成9年から11年にかけては30万トン前後だったが、全面施行された12年には約67万トンと倍増し、その後14年に100万トンを超えるなど着実に増えていっている(3は省略)。内訳をみると、平成911年まではガラスびんが90%前後を占めていたが、12年に50%台に低下し、その後も少しずつ比率が下がっている。ペットボトルは、平成10年までは一桁だったが、13年と14年にそれぞれ20.5%、21.5%と増えた後、15年以降は次第に低下しつつある。代わりに、その他プラスチックは平成12年以降一貫して増えており、平成17年度には42.8%にまで拡大した。

 この効果として、一般廃棄物の排出量をみると、平成9年度の5,120万トンから平成15年の5,161万トンとほぼ横ばいで推移しているが、埋立処分量は同期間に1,201万トンから845万トンへと着実に減っている。この原因としては、容器包装の軽量化と容リ法に基づく再商品化による減量化をあげることができる。平成14年度時点の推計によると、前者は33万トン、後者は83万トンで合計116万トンとされている。容リ法実施前年度の平成8年度と14年度の最終処分量を比べると、407万トン減っていることから、容リ法の寄与率は29%となる。ただし、容リ法で再商品化される量237万トンは一般廃棄物排出量のうち約5%を占めており、家庭系ごみの中では約7%となる。容器包装廃棄物総量825万トンに占める比率は31%に過ぎず、残りは市区町村で一般廃棄物として処理されているという実態がある。

 しかし、容リ法はデータに表れない重要な意義があることも指摘されている。それは国民の意識と行動様式の変化に表れており、経済産業省のアンケート調査によると、容リ法施行以降に「容器包装リサイクルについて意識する機会が増えた」とする人は「時々意識する」人を合わせると94%にのぼっている。その契機としては、「紙製容器包装もしくはプラスチック容器包装の分別収集が始まった」(49.2%)、「ペットボトルの分別収集が始まった」(61.3%)があげられている。


3.容器包装リサイクル法の改正

(1)経緯

 容リ法の施行によって一定の成果は上がったといえるが、容器包装リサイクルシステム構築・運営にかけられている社会全体のコストと比較して妥当かどうかは必ずしも検証されていない。自治体の負担する収集・運搬コストは約4,000億円なのに対して、事業者の再商品化にかける費用は380億円と大きな差があることからが争点のひとつとなっている。また、同法が一般廃棄物の抑制につながっていない点も問題として指摘されている。

 こうした問題意識のもとで、産業構造審議会(経済産業省)と中央環境審議会(環境省)では容リ法の見直しに向けて議論が進められてきた。その中では現行制度の課題として、次の4点があげられている。

①社会的コストの抑制の必要性

 市町村による分別収集、特定事業者による再商品化とも費用負担感が増大しており、持続可能な制度とするためには、社会的費用全体の抑制をはかり、その費用対効果を向上させる。


②さらなる資源の有効利用の必要性

 容器包装に用いられている原料の使用の合理化や利用形態の工夫を一層進めるとともに、再商品化により製造される物の量の確保に加えてその質を一層向上させることによって、新規資源の投入量の低減に貢献する。


③最終処分場制約への対応

 法制定時からペットボトルなどの回収量の増加などを通じて最終処分量の低減に貢献しているが、引き続き分別収集及び再商品化を行い、最終処分場制約への対応を進める。


④国民の環境意識の一層の向上

 環境意識が必ずしも高くない国民や地域の意識の底上げをはかるなど、国民意識を一層向上させる。


(2)法改正の焦点

 法改正にあたって議論は、①自治体と特定事業者のリサイクル費用負担の見直し、②廃プラスチック再商品化手法の見直し、③レジ袋有料化、④ペットボトルの海外輸出の4項目に焦点が当てられた。以下ではそれぞれどのような議論が展開されているのか紹介する。

①リサイクル費用負担の見直し

 現行制度におけるリサイクル費用負担をみると、市町村の分別収集・選別保管は約3,000億円、特定事業者の再商品化は約400億円かかっている。審議会の中間とりまとめの段階では、拡大生産者責任の考え方に基づいて特定事業者の負担を拡大する方向で検討すべきとされた。この改正案に対して特定事業者は下記の反対意見を提示している。


a.
不透明な自治体の分別収集費用

 環境省の調査によると、ペットボトルを1kg収集するコストは、最も高い自治体の場合1,365円で、最も安い自治体の0.1円と大きな開きがある。自治体間の費用格差が大きいのは、自治体によって収集の効率性に差があるだけでなく、雇用対策など容器包装廃棄物の分別収集とは直接関係のない政策的経費も含めて費用を算定していることが考えられる。そこで特定事業者は、費用負担の見直しを検討する前に、まず自治体の分別収集にかかるコスト構造を明らかにし、現在の体制でコスト削減の余地はないかを確認すべきと主張している。


b.
再商品化委託費用の増大と製品価格転嫁の難しさ

 第二は、再商品化委託費用が今後プラスチック製容器包装を中心に増大すると予測されていることである。再商品化委託総額は平成12年度には約165億円だったが、17年度には616億円となっており、大手スーパーの中には経営に悪影響を及ぼすほどになっているという。今後の増え続けるとの予想もあることから、現行の市町村の費用の一部を追加的に負担させる改正案は受け入れがたいという主張である。

 第三は、増大する再商品化委託費用を製品価格に転嫁するのが難しい点である。上流の素材メーカーから下流の流通業者まで競争が激化している中で、追加的な負担を製品価格に転嫁することは難しい情勢となっている。また、消費者への価格転嫁に関しては容器包装の絶対額が小さいため、消費者による容器包装の選好を左右するまでには至らないとの指摘もある。


②プラスチック製容器包装の再商品化手法の問題

 その他プラスチック製容器包装(その他プラ)は現行の手法でリサイクルが進んでいないことが問題となっている。経済産業省の調査によれば、その他プラについては平成15年度の家庭における消費量が約304万トンに対し、分別収集実績量は約40万トンにとどまっている。

a.マテリアルリサイクル優先による再商品化委託単価の高止まり

 その他プラのリサイクルが進まない理由の一つは、再商品化委託単価が高いという問題である。現行の容リ法では、その他プラの再商品化を、「製品の原材料」へのリサイクルに限定しており、さらにマテリアルリサイクルをケミカルリサイクルに優先させるよう規定している。指定法人(日本容器包装リサイクル協会)の入札では、まずマテリアルリサイクル事業者から落札者を決定し、落札されなかった部分について、ケミカルリサイクル手法で応札している事業者に第一落札者以外のマテリアルリサイクル事業者を加えて落札者を決めている。

 その結果、ペットボトルや紙製容器の再商品化落札単価が下がっている一方で、プラスチック製容器包装の単価は1トン当たり810万円台で高止まりしている(4は省略)。今後とも同じ水準が続くと、その他プラにかかえる費用は全体の約9割を占めることになると予想されている。


b.
マテリアルリサイクルの収率の低さ

 その他プラのマテリアルリサイクルの課題には収率の低さがあげられる。その他プラのマテリアルリサイクルの収率は4551%と低く、4955%分の残渣は産業廃棄物として処理されている。容リ法がその他プラを燃料として用いる再商品化手法を認めていないために、それらの残渣は有効利用されずに最終処分に振り向けられている(5は省略)。


③発生抑制策としてのレジ袋有料化

 三点目はスーパー等の小売店で無料配布しているレジ袋の有料化である。レジ袋の年間消費量は約300置くまいと推定され、家庭から排出されるプラスチック廃棄物の約1割を占めている。現在、この大半がリサイクルされずに焼却あるいは埋立処分されている。そこで、小売店においてレジ袋の無料配布を禁止し、消費者に買い物袋の持参を促すことによってその他プラ廃棄物の発生を抑制することが提案されている。

 有料化によってレジ袋の使用量が減れば小売業界のリサイクル費用負担も軽くなるため、スーパーの業界団体は基本的に賛成している。有料化した後も抜け駆けして無料配布を続ける業者が現れないように、法律による有料化を要望している。一方、コンビニエンスストアの業界団体は、仕事や学校の帰りなどに立ち寄る顧客に買い物袋の持参を求めるのは、業態の特性上、困難であるとして有料化に反対している。


④ペットボトルの海外輸出

 四点目は、国内で排出されるペットボトルのうち20万トン近くが輸出され、ペットボトル再商品化事業者が原料不足に困っていることがある。PETボトルリサイクル推進協議会の調査は、平成16年度のペットボトル用樹脂生産量51.4万トンのうち、19.5万トンは香港や中国に輸出されたと推定している(6は省略)。特定事業者が指定法人に支払う再商品化委託単価は平成17年度の1トン当たり31,200円だったが、実際に落札した価格の平均は13,600円と半額以下に落ち込んだ。平成18年度はさらに再商品化委託単価と落札価格の低下が予想され、再商品化事業者にとってはさらに厳しい状況が待っている。

 資源循環の観点から考えると、現地で排出された廃棄物を現地で処理するという考え方が望ましい。特に、原油価格の高騰が深刻な問題となっており、石油資源を全面的に海外からの輸入に頼っている日本では、国内で排出された廃棄物は「循環資源」として国内で回す手法を選択すべきであろう。


(3)改正案の概要

 上記のような課題を受けて、容リ法の改正案が平成18310日に閣議決定され、第164回国会において425日に可決成立した。改正案の概要は以下の通りとなっており、改正に向けた議論を一部反映した内容となっている。

①容器包装廃棄物の排出抑制の促進

・消費者の意識向上や事業者との連携促進をはかるために、「容器包装廃棄物排出抑制推進員」の制度を創設。推進員は、排出の状況や排出抑制の取組の調査、消費者への指導・助言等を行う。

・一定量以上の容器包装を利用する小売業者などに対して、取組状況の報告を義務づけるために判断基準を定める(レジ袋の有料化など)。取り組みが著しく不十分な場合は勧告や氏名などの公表、措置命令を・命令を行う措置を導入する。


②事業者が市町村に資金を拠出する仕組みの創設

 市町村が分別収集などのコストダウンをはかることで再商品化の合理化に寄与すれば、その寄与の程度を勘案した資金について、事業者から市町村へ拠出する仕組みを創設する。


③その他の措置

・従来、再商品化の義務を果たさない「ただ乗り事業者」が問題化していたことを踏まえて、これら事業者への罰則を強化する。

・廃ペットボトルの国外への流出等にかんがみ、「再商品化のための円滑な引渡し等に係る事項」を基本方針に定める事項に追加して国の方針を明確にする。


<参考文献・ホームページ>
(1)織朱實(2005)容器包装リサイクル法改正に向けての考察.月刊廃棄物3836-13
(2)庄司元(2005)市町村の一般廃棄物処理責任と拡大生産者責任(前編).月刊廃棄物38036-47
(3)織朱實(2006)容器包装リサイクル法見直しについての議論と方向性.月刊廃棄物40513-17
(3)山本美紀子(2005)容器包装リサイクル法改正の焦点.みずほ政策インサイト,19p
(4)http://www.env.go.jp/council/03haiki/y030-27.html(中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会(第27回)議事要旨・資料「平成16年度 効果検証に関する評価事業調査中間報告」)
(5)循環経済新聞(平成1811日号)
最終更新:2006年08月28日 10:30