フレッシュプリキュアで百合SS保管庫 @ ウィキ

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 イライライライライラ………!!
 あーもうっ!イライラするっ!!

「あ、あの…み、美希…ちゃん…?」
「…そこのフリ、違ってるってば!ブッキー!何度言えば分かるの!?」
「あ…ゴ、ゴメン…」
「…今のトコやり直し!いい?そういうのは意識してやらないと直らないんだからね!!」

 音楽を止めたあたしを、ブッキーは泣きそうな顔で見ている。
 …まったくもう、泣きたいのはこっちだっていうのよ!

 今日はミユキさんのダンスレッスンはお休みの日。モデルのお仕事もないし、本当なら一日ゆっくり家で好きな音楽でも聴いているか、出回り始めた秋物の新作の洋服でも見に行ってるはずだったのに。
 残念なことに、あたしが今いるのは、いつもの公園の練習場。その原因は、今目の前で振り付けを確認し直しているブッキー…山吹祈里だった。

 東せつながあたし達のダンスユニット・クローバーに入ってから十日が立つ。
 最初は、あたし達より後に練習し始めたという事と、ラビリンスにはダンスや音楽が無かったって聞いた事もあって、彼女は不安要素でもあった。
 ところが、流石というべきか、せつなの運動神経と勘の良さは際立っていて、今では早くも、ミユキさんですら一目置く存在となっている。
 これならあたし達のクローバーは順風満帆、何の心配も無いはずだったのだが…。

 イライライライライライラ………。

「…ブッキー……!!」
「あ~ん!ごめんなさい!美希ちゃ~ん!!」

 また同じところを間違えたブッキーに、あたしのイライラは更にエスカレートする。
 そう、せつなには何の問題も無かった。悔しいくらい完璧に。
 …せつなが加入した事で問題になっちゃったのはこの子・・・ブッキーだったのだ。

 もともとおっとりタイプのブッキーは、そんなに運動神経が発達している方ではない。…ううん、どう贔屓目に見たって、同年代の女の子と比較すると、中の下って所が精一杯。
 それでも彼女は、なんとか必死に頑張って、あたし達のダンスに付いて来ていた。
 …それが、せつなが加入した途端、だだ崩れになった。
 ダンスに、今までの集中力が感じられない。
 こんな風に、同じ振り付けを忘れて何度も間違えるなんて、今までの彼女なら無かった事だ。
 理由は……分かってる。

 東せつなだ。

 イライライライライライライラ……。



 ブッキーは、彼女に恋してしまったのだ。

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「……じゃあもう一度、アタマからやってみて」
「………ハイ…」

 肩を落としたブッキーは、また一からダンスし始める。

「ブッキー!背筋伸ばして!!」
「ハ、ハイ!!」

 厳しかったダンス合宿と、最近のプリキュアの忙しさを知っているミユキさんからの『久しぶりに練習を休もう』という提案に、唯一反対したのはあたしだった。
 理由はさっき説明した通り。ブッキーのダンスの遅れが甚だしかったからだ。
 このままではブッキーがクローバーの足を引っ張るかもしれない、と判断したあたしは、レッスンの終わった後、一人でミユキさんの所へ向かった。

「教えてもらっている身で言うのもなんですけど、今練習を休むべきじゃないと思います!」
「あら、美希ちゃん、お休み嬉しくないの?ここのとこ大変だったでしょ?」
「それはそうですけど、でもこのままじゃ…」
「……祈里ちゃん、ね?」
「……」

 …ブッキーとせつなの事をどう説明したらいいのか、言葉に詰まる。
 そんなあたしの気持ちには気付かないように、ミユキさんは続ける。

「……せつなちゃんが入った事で、祈里ちゃんがプレッシャーを感じるのも、当然だと思うの。経験のない同年代の女の子があそこまでやれるんだもの。自分に不安を持って当然だわ」
「……」
「でもね、だからって根を詰めて、練習練習って押し付けては、逆効果だと思うのよ。下手をしたら、祈里ちゃん、また身体を壊しちゃうかもしれない。…美希ちゃんは、それでもいい?」
「…ですけど…」
「休むのも、レッスンのうちだと思うわよ、……きっと。休むことで、なにか見えてくるかもしれないでしょ?」

 ミユキさんはニコッと微笑んだ。
 あたしは、どうしても……理解できない。

「……じゃあ、お休みの日にあたしがブッキ…祈里にダンスを教えるって言ったら、どうします?」
「…美希ちゃんも強情ねぇ。…いいわ、納得できないなら納得いくまでやるのも。……若さよねぇ~」
「茶化さないで下さい……あともう一つ、なにか見えてくるって、なんですか?」
「そうね……じゃあヒントだけ」

 ミユキさんは軽くウィンクして言った。


「……立っている場所、かな?」


 あたしはそれを、クローバーでのブッキーのダンスの順位だと考えた。
 彼女がそれを自覚する事が必要なのだと。

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 休みに自主練習をやろうってブッキーに告げた時、ラブとせつなも参加したがっていた。
 ブッキーは喜ぶだろうだけど、あたしはその申し出を断わった。…当然だ。せつながいるから集中できないでいるのに、その遅れを取り戻す場所に、彼女がいては意味が無い。

 もともと、ダンス合宿でブッキーとせつなが二人で踊ってたのを見た時から、何か違和感を感じてはいたのだ。それは幼馴染みだから分かる事なのだと思う。・・・まあラブが感じたかは知らないけど。
 あえて理由をつけるなら、昔の、いや、最近までのブッキーは、割と人見知りな部分のある子で、なにかあるときはいつもあたしの傍にいたから・・・まだ仲間になって間も無いせつなと、すぐに二人で打ち解けるなんて、考えられなかったからだ。
 でもその時は、同じプリキュアとしての連帯感が芽生えたのかな、くらいにしか思っていなかった。

 決定的だったのは、この前の、夏祭りの夜。
 ラブとせつなが、相変わらず人目もはばからずにイチャイチャとバカップルぶりを発揮してる時。
 呆れたあたしが、見てられなくて視線を逸らすと、その先にブッキーがいた。


 花火の光の舞い散る中、彼女は上を向いて震えていた。


 握り締められた手と、噛み締められた唇から、必死で泣きだしそうなのを堪えてるのが分かった。


 ハッキリ言って、理解できない。

 女の子同士で好きになるとか。

 親友の恋人を好きになるとか。

 そんなの、全然完璧じゃない。


 だから。
 理解できないから。


 あたしは、ブッキーへと走り出す事が出来なかった。



 それが、堪らなく―――…



「……美希ちゃ~ん……お願い……そろそろ休憩させて~……」

 あたしの思考は、ブッキーの弱々しい声で中断された。

 イライライライライライライライラ……。

「……あのね、ブッキー、あたしは今日、『心を鬼にした美希』なのよ。分かる?」
「……いじわる……」
「意地悪じゃないの!!ブッキーのためなんだからね!!」
「ふぇ~ん……」

 そうだ。あの時、駆け寄れなかった分、あたしはブッキーを、全力でフォローしようと決めたのだ。
 ダンスでも、プライベートでも。
 ……例え叶うはずのない恋、だとしても。
 それがきっと、あたしなりの贖罪なのだ。

「お~い!美希た~ん、ブッキ~、頑張ってる~!?」
「二人とも、そろそろお昼の時間よ。ひと休みしない?」

 ラブとせつなが、そんなのんきな声を上げながらやってきた。
 それぞれの手には、シフォンが眠るベビーバッグと、大きなバスケットを持っている。
 あのねぇ……ただでさえブッキーの練習がはかどってないっていうのに……。

「わ~い!……美希ちゃん、お昼なら…仕方ないよね?」

 子犬のような上目遣いで、あたしの顔を覗き見るブッキー。

 イライライライライライライライライライラ……。

(あたし完璧あたし完璧あたし完璧あたし完璧あたし完璧あたし完璧あたし……)

 あたしは心の中で、限度を越えそうなイライラを抑えるため、その言葉を呪文のように繰り返した。

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「はぁ~!食べた食べた~」

 そう言うと、ラブは敷いてあるレジャーシートの上に、ごろん、と横になった。
 少し離れたところで、せつなとブッキーが何か真面目な顔で話し込んでいる。

 イライライライライライライライライライライラ……。

「……何話してるのかしら?」
「さあ~。お昼ごはん美味しかったって話じゃない?……何しろあたし達が早起きして、腕によりをかけて
作ったんだから~」
「……ホントのんきなもんね、ラブは……気にならないの?」
「?何が~?」

 ……呆れる。
 普通、恋人が他の子と、しかもその子に片思いしてる子と二人で何か話してたら気になるでしょ。
 やっぱり、ブッキーの心にはあたししか気付いてないのかしら。
 そうじゃないとしたら……大した自信家だわ……この子。

「二人だけで話したい事があるから話してるんだよ、きっと。あたし達が口挟んでもしょうがないっしょ。
美希たんが気にしすぎなんだよ~」
「べ、別にそんな事ないわよ」
「ほんと~?」

 ラブは、にふふ、と何やら怪しい笑みを浮かべてあたしを見る。な、何よこの子……。


 休憩も終って、せっかく来たんだしという事で、ラブとせつなの前で、ブッキーの前半の練習の成果を
披露するってことになった。
 ……もっとも、成果なんて呼べるものは何ひとつ挙がってないのだけれど。


 でも、あたしの予想は大きく裏切られた。


 違うのだ、ブッキーの動きが。さっきまでと…いや、そうじゃない、今まで見てきた彼女のダンスと。
 ―――明らかに良くなっている。
 キレも、スピードも、リズム感も。
 問題だった、集中力も、だ。
 まるで、みにくいアヒルの子の童話の、最初と最後だけ読んだみたいな錯覚を覚える。

 「すご~い!!ブッキー、上手くなってるよ~!!」
 「よっぽど一生懸命練習したのね…。スゴイわブッキー!」

 感嘆の声を上げる二人とは逆に、あたしはただ唖然とするしかなかった。
 そして、一つの結論が頭に浮かんだ。

「……せつな、ブッキーにさっき、何かアドバイスしたでしょ?」

 あたしは横に立つせつなに、戸惑いつつも尋ねる。

「?いいえ、別に何もアドバイスなんてしてないわ」
「……ウソでしょ……?」

 有り得ない。何もなしに、これほど短時間で変わるわけはないのだ。

「じゃ、じゃあ、さっきお昼の後、何を話してたっていうの?」
「さっき?ああ…ブッキーがあたしに『せつなちゃんは、ダンス楽しい?』って聞くから…」



「『みんなと一つになるのは楽しいわ』って答えただけよ。」



 ――――それだけの事で。
 ブッキーはこれほど変わったって、言うの?

 けれど―――想像、できてしまった。
 ブッキーの気持ちが。

 彼女は、ダンスをすることで、せつなと一つになろうと決めたのだ。

 現実には不可能だけれど、クローバーというユニットの中でだけでもって、決めたのだ。


 あたしは、なぜか、胸が締め付けられるように感じた。


 イライライライライライライライライライライライライライライライライラ……。

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「……どうだった?せつなちゃん、ラブちゃん!」
「すごく素敵だったわよ、ブッキー」
「うんうん!これならデビューへの道も近いかもね!!」

 盛り上がる三人とは別に、あたしは引きつった笑いを浮かべるのが精一杯だった。
 今まで自分のやってきた事が、まったくの無駄だったって分かった脱力感。
 ブッキーをフォローしていくって決めたのに、何にもできなかった無力感。
 もうひとつ……それは……。

「―――――みーきタン!!」
「ちょっ!!重い!何よラブ!!」

 いきなりラブがあたしの背中に飛びついてきた。

「喜んでないの~?こんなにブッキー上達したのに~!!」
「……喜んでるわよ…」
「ホントに~?」

 そしてあたしの耳元で囁く。



「―――――悔しがってるようにしか見えないよ、美希たん」



「!!」
「……なんちゃって~。ブッキーもスランプ脱出したんだし、お祝いにカオルちゃんのドーナツ食べに
行こうよ~!!」
「ちょ、ちょっと、まだ食べるの?ラブ!?」
「わ~い!踊ったら喉渇いちゃったし、いいよね!美希ちゃん!」

 茫然としているあたしを他所に、三人は盛り上がっている。

(悔しい…、か…。)

 あたしが必死に教えるよりも、せつなの一言の方が、ブッキーには効果があったのだ。
 それが悔しい、のかもしれない。
 ミユキさんの言っていたことが頭をよぎる。

「―――立っている場所、ね。」

 クローバー。せつなと一つになれる、場所。
 ミユキさんは知っていたのだ。ブッキーの秘めた心を。
 だから、ブッキーがそのことに気付けば、っていうヒントをくれたのだろう。
 その意味を取り違えて、暴走したのはあたし……。

 イライライライライライライライライライライライライライライライライライライラ……。

 あたし、全然、完璧じゃなかった。
 なにひとつ、今まで、理解できてなかった。

 イライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライラ……。

 違う、理解できないって、目を逸らしていただけだ。
 彼女の……ブッキーの気持ちから。
 ブッキーの、せつなを想う恋心から。

 イライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライラ……。

 暗い顔を見られないように、あたしは皆の後を、一人遅れてついていった。

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 公園からの帰り道、ラブ達と別れたあたしとブッキーは、もう日の沈みかけた川沿いの土手を、お互い無言で歩いていた。
 もっとも、ショックから立ち上がれないあたしは、みんながワイワイ騒ぐ中、その中に入ることもでき
ずに、あれからずっと黙ったままだったのだけれど。

「……美希ちゃん、あ、あのね、今日は……ありがとう」

 長い沈黙を破ったのは、ブッキーだった。
 あたしも、自分の心を悟られないように、と重い口を開く。

「……大したことは、してないわよ」
「…!そんなことないよ!…美希ちゃん、わたしの為に、わざわざお休みつぶしてまで……。本当に
……ありがとうね…」

 ブッキーは、少し困ったような顔で、言葉を続ける。

「わたしね、最近、ダンスよりも気になる事ができちゃって…自分でも、その事に気を取られちゃ駄目って分かってるんだけど……止められなくて。だからね、今日美希ちゃんが一緒に練習しようって言ってくれた時……嬉しかったんだ……少しでも、忘れられるかな、って。……美希ちゃんと一緒なら、
考えないでいられるかなって……、そう、思って。……ちょっと、練習は、厳しかったけど…」

 そう言うとブッキーはクスッと笑った。……淋しそうな目で。
 知ってるわよ、そんなこと。
 でも、無理だったじゃない。あなたに彼女を忘れさせてあげられなかったじゃない。
 ブッキーを立ち直らせたのは結局―――――。

「……でもね、思ったんだ。…きっとわたしは逃げてるだけなんだって。忘れたり、考えないでいるより、きっと自分で納得できるまで突き詰めないと、先に進めないんだって……。そんな風に考えて、答えが……見つかったような気が、するの。それが分かったのは、美希ちゃんのおかげ……」
「…だからあたしは大したことしてないって―――」

溜息混じりに言うあたしの手を、ブッキーは両手で握り、自分の胸へ重ねる。

「ううん……美希ちゃんは、今日を、くれたよ。今日って日を…わたしにくれたの。……わたしが答えを出す事ができた、大切な日を。……だからね、」

 わたしを一直線に、真剣な目で見つめながら、彼女は言った。

「……ありがとう、美希ちゃん」

 その目を見たとき、初めて、全てが、理解できた。
 自分が、本当は、何から目を逸らしていたのかを。





 あたし、ブッキーが、好きなんだ……。





 きっと…ずっと、ずっと前から…あたしの中に眠っていた気持ち……。

 意識してしまった途端、胸が、苦しくなる。
 頬が紅潮するのが、自分で分かる。
 今すぐブッキーを抱きしめてしまいたいたい気持ちを、必死に押さえ込む。

「?美希ちゃん?どうしたの?」
「…なんでもない!」

 あたしは、無理やり、ブッキーの手を振りほどいた。
 そして乱れそうになる、呼吸と、心を、整える。

「……なんでも、ないの。ゴメンね、ブッキー。」
「…本当?」
「…ただ、自分の間違いに気付いただけ。すごく、大きな間違いにね。それに気付いたのも、今日って日があったからよ。……だから、ありがとうはお互い様だわ」

『―――――悔しがってるようにしか見えないよ、美希たん』

 ラブの言葉を思い出す。
 合宿の時も、お祭りの花火の時も、さっきブッキーが立ち直った時も。
 ずっとずっと、悔しかった。
 なんであたしじゃなくて、せつななのって。
 子供の時から、いつもブッキーの隣にいたのはあたしだったのに…。

『……立っている場所、かな?』

 ミユキさんの言葉。きっと、あたしに対しても向けられていた言葉。
 あたしは、ブッキーの一番でありたかった。
 そこが自分のいる場所だって、思っていたかった。
 でも、ブッキーの中の、あたしの立っている場所は―――。

「……わたし、美希ちゃんが友達で、本当に良かった!」



 最悪な答えを、彼女は最高の笑顔で口にした。



 あたしは――――――泣かなかった。



 代わりに、ブッキーの手を引き、走り出す。

「え!?きゅ、急にどうしたの!?美希ちゃん!?」
「―――ゆっくりしてたら、日が暮れちゃうでしょ!ホラ、急いで、ブッキー!!」

 ―――泣いてたまるもんですか。
 まだ勝負は始まったばかりなんだから。
 必ず、ブッキーの一番になってみせるんだから。

もう理解できないって言葉でごまかしたり、しない。

 女の子同士でも。

 違う人を好きでも。

 彼女が好き。 

 大好き。

 ブッキーを好きなあたしが、完璧なあたし―――。


 せつなの存在を追い越そうとするかのように、あたしは走るスピードを上げる。






 ドキドキドキドキドキドキ……。





 イライラは、いつの間にか、胸のときめきに変わっていた。




                                           了


2-427へ続く


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