フレッシュプリキュアで百合SS保管庫 @ ウィキ

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「せつなちゃん、そっちはどう!?」
「…ダメ,やっぱり見当たらないわ…」

 人ごみの中、赤い浴衣を着たせつなちゃんは、そう言って首を横に振る。
 今日はクローバーフェスティバル。年に一度の四ツ葉町のお祭りの日。
 でもそんな日に限って、次から次へとトラブルが起きる訳で…。 

「シフォンちゃん…どこに行っちゃったのかしら…」

 事の発端は、わたし達も参加した、漫才コンテスト。
 ひょんな事から知り合った、オードリーって人達の漫才に見入っていたわたし達は、シフォンちゃんがいつの間にかベビーバッグの中から消えていた事に気付かなくて。
 そして・・・もう日も沈んでいるというのに、まだ見つけられないでいた。

「大丈夫よ、ブッキー。ラブ達も探してるんだし、きっと見つかるわ」
「せつなちゃん…」

 わたしの不安を察して、せつなちゃんが声をかけてくれた。
 今、わたし達は二手に分かれてシフォンちゃんを探している。ラブちゃんと美希ちゃん、そしてここにいるせつなちゃんと…わたし。
 もしこんな状況じゃなかったら、もっと楽しい気分だったに違いない。せつなちゃんと二人だけになるなんて、滅多にある事じゃないのだし。そう、きっと今頃、ふたりでヨーヨー釣りや輪投げをやったり、おっきな綿飴を半分ずつ両側から食べたり・・・それからさりげなく手を繋いで・・・。

 ブンブンブンッ!!

 そんな不謹慎で邪な妄想を振り払うように大きく頭を振る。・・・わたしったら何考えてるのよ!今はシフォンちゃんを探す事に集中しなくちゃいけないのに!
 えへへ、と今の行動をごまかすように、せつなちゃんの方を見る。へ、変な子だって思われてないわよね!?

 その顔を見た瞬間、わたしの周りから彼女以外の景色が消えた。

 そこに浮かんでたのは、わたしを安心させようとしてた言葉とは裏腹に、わたし以上に心配そうで、真剣な表情。
 こんなせつなちゃんを見るのは、今日二度目の事だった。


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 ラブちゃんの勘違いで参加する事になってしまった漫才コンテスト。それでわたし達はそれぞれ、今みたいに二人ずつ二組に分かれて舞台に上がる事になって。
 組み合わせは、わたしとラブちゃん、美希ちゃんと・・・せつなちゃん。
 本当はせつなちゃんと組みたかった、なんてわたしの願望はともかく、順番は次々と回り、わたし達のあと、美希ちゃんとせつなちゃんがネタをすることになった。

 「ねえせつな、こないだ病院に行った時の話なんだけどね・・・」
 「・・・え!?体調悪いの!?大丈夫美希!?」

 ・・・目を奪われた。美希ちゃんのボケに対して、ツッコミも忘れて心配するその表情に。
 ただ純粋に、相手を案じている事が伝わる、その必死な表情に。
 そう、ラビリンスを出てからの彼女は、友達とか、仲間とかを心から大切にしている。
 それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・ラブちゃんが芽生えさせた感情で・・・・・・。

 その時も今も、こんな顔のせつなちゃんを見ると、わたしの心の中に黒い声が聞こえてくる。



 ワタシニナニカアッタナラ、アナタハソンナカオシテクレル?



 ・・・嫌な子だ、わたし。
 きっとわたしの中には、傲慢で、強欲で、哀れな子供が棲みついているんだ。

 海でナケワメーケと戦った時だって、わたしを助けたパッションは、きっと同じ表情だった筈なのだ。違う、同じ表情だった。それは間違いないことなのに。
 いくらそう考えても、その声を止める事は、出来ない。
 わたしは、このままで、山吹祈里というわたしのままで、彼女に心配して欲しいのかもしれない。
 プリキュアとか戦いとか、そんな事の関係無い、この姿で。東せつなという少女に。

「・・・ちょっとブッキー、大丈夫?」
「・・・え・・・あ、う、うん」
「そう?・・・なにか思いつめた顔してたけど・・・」

 心配そうにわたしの顔を覗き込むせつなちゃん。それにまたわたしの黒い部分が反応しそうになる。



 モットワタシニソノカオヲミセテ 



「だ、大丈夫!それよりシフォンちゃんを探さないと。さあ、行きましょう!」

 そんな黒い声を振り切るようにわたしは駆け出した。

「――!!ブッキー!前!!」

 ドンッ!! 

 次の瞬間、わたしは強い衝撃とともに、地面に倒れていた。



                    3

「―おいおい、お嬢ちゃん、気をつけないと危ねぇだろう?!」

 ああ、人にぶつかったんだ。って理解したのは少し間があってからだった。
 見上げると、そこには体格のいい、クローバータウンでは珍しい、柄の良くない人達がいた。
道行く人達が、何事だ、という風に視線を向ける。

「ご、ごめんなさい、急いでたもので・・・」
「気をつけろよ!!?あァ!?」
「怪我でもしたら、どう落とし前つけるつもりなんだよ!!」
「あ、あの、わ、わたし・・・」
「・・・おい、お前ら、もういい、行くぞ。せっかくの祭りなんだ。放っておけ」

 わたしのぶつかった、どうやらグループの中でもリーダーと思われる人は、仲間達のわたしに対する怒りの声を抑えると、向こうへ歩き去ろうとした。
 どうやら助かった・・・のかな?
 ふう、と緊張の切れた溜め息をもらすわたし。変な事ばかり考えてたバチが当たったのかな。

「――待って。・・・この子は謝ったけど、あなたはまだ謝ってないでしょう?」

 場が一瞬、凍りつく。
 気が付くと、せつなちゃんがわたしの横にしゃがんでいた。

「・・・俺に謝れっていうのか?お嬢ちゃん?」

 ゆっくりと振り向く、リーダー格の男の人。
 それに対して、彼女は少しも怯まず、言葉を続ける。

「確かにこの子の不注意でぶつかったのは事実だけど、それを避けたり受け止めたり出来なかったのなら、あなたにも非はあると思います」
「なんだとォ!?姉ちゃん!?」
「お前、この人を誰だと思ってるんだよ、コラッ!!」
「――大きな身体をしてる、男の人でしょう?」
「―――」
「・・・彼女は、小さな身体の女の子だわ」

 そう言うと、せつなちゃんはあたしの肩に手を回した。


「そして、あたしの大事な友達よ」

 今まで沈黙を守っていたリーダーは、ふーっと息を吐き出すと、ゆっくりと口を開いた。

「――すまなかったな、お嬢ちゃん。許してくれ」
「え!?あ、兄貴!?」
「そ、そんな!?それじゃ俺らのメンツが・・・」
「馬鹿野郎!ここで謝らない方が、よっぽどメンツが潰れるってもんだ!周り見てみろ!」

 リーダーの言葉に、仲間達だけではなく、わたしも周りを見回した。
 いつの間にか、わたし達の周りを、野次馬と思しき人達が取り囲んでいる。せつなちゃんに圧倒されてて、誰も気が付いてなかったみたい・・・。

「――まあ理由は、メンツだけじゃねぇけどな。・・・いい友達を持ったな、お嬢ちゃん」

 リーダーはわたしに少し微笑んでみせると、今度こそ人ごみをかきわけ、仲間達と一緒に歩み去って行った。

「せ、せつなちゃん凄かったね・・・わたしの為に迷惑かけてごめ・・・」
「怪我は・・・怪我はしてない!?ごめんねブッキー!!」

 彼女はわたしの両肩に手を置いて、頭を下げた。
 あれ?なんでせつなちゃんがわたしに謝るの?この場合、悪いのは全部わたしなのに・・・。

 せつなちゃんは少しだけ、わたしの肩の手に力を入れた。そして、俯けていた顔を上げる。




 そこにあったのは、わたしの中の黒い声が望んでいた、あの表情。




「・・・怪我は・・・うん、大丈夫みたい。浴衣も破けてないみたいだし・・・」
「・・・良かった・・・本当に良かった・・・」

 せつなちゃんは優しく手を引いて、わたしを起こしてくれた。

「・・・どうしてもあの人達が許せなかったから・・・。でも、あんな事言ったけど、あたし…友達失格だわ・・・。本当だったら、ブッキーが怪我してないか、それを先に確認するべきだったのに・・・」
「そんな・・・友達失格なんて事ある訳ないじゃない!・・・わたしの為にあんな怖い人達に向かって行ってくれたんだもん・・・」
「・・・許してくれるの?」
「許すも何もないわ。先に謝るのは、わたしの方・・・ごめんなさい、せつなちゃん!」
「ブッキー・・・」
「これでお互い様だね!・・・そ、そうだわ、早くシフォンちゃんを探しに行かないと!」

 今度は注意して、人ごみの中を縫うように急ぐわたし。その横を、同じようにしてせつなちゃんが進む。


「ねえ、ブッキー、本当にどこも怪我してないの?・・・なんか変なトコ打ったとか・・・」
「?せつなちゃん、心配しすぎよ。本当になんともないって!」
「そう・・・それならいいんだけど・・・」
「なんでそんなこと聞くの?」
「・・・だってブッキー、さっきからあなた―――」



「―――ずっと笑ってるじゃない」



 もう、黒い声は聞こえないだろうって、わたし信じてる。



                    4

 美希ちゃんからリンクルンに連絡があったのは、そのすぐ後の事だった。

『シフォンが見つかったのよ!無事なんだけど、無事じゃないの!あー、もう!とにかくすぐ来て!!』

 とても完璧とは言えない美希ちゃんの説明を受けて、わたしとせつなちゃんはカオルちゃんのドーナツ屋さんへと急いだ。
 人ごみを避けつつ、角を曲がり、ようやく着いたわたし達がそこで見たものは・・・。


「わーい!せつなー、ブッキー!こっこだよー」
「!!ラブちゃん・・・ど、どうしたの、その格好は…!?」
「・・・呆れるでしょ・・・。少し叱ってあげてたとこよ。・・・まあ効いてるとは思わないけど」

 わたし達を待っていたのは、全身バンソーコーだらけのラブちゃんの姿だった。・・・まあ本人が呑気にドーナツをパクついているところから判断して、それほど大きな怪我はないみたい。

「シフォンを見つけたのはいいんだけど、少し高い木の上で眠っちゃっててね。それを助けに行くって無理やりよじ登って、落ちて、この有り様よ。あれだけプリキュアに変身しろって言ったのに・・・」

「だってー!こんな人通り多いときなんだよ!誰かに見られたら大変じゃない!・・・それにシフォンがもし寝ぼけて落ちたらって思うとヒヤヒヤだったし…」

「そないなこと言うたかて、もし大怪我してたらどないしますのや!あんさんの身体は、あんさん一人だけのモンやおまへんのやで!・・・それに、ワイらがどんだけ心配したか・・・」

「まあまあ、皆抑えて抑えて。ケガあって困るのは坊主だけって言うでしょ、グハッ!・・・これくらいで済んだんだし、今回だけは許してあげれば?」

「プリプ~!」

 ・・・そういう事だったのね・・・ある意味で美希ちゃんの説明は正しかったんだわ・・・。
 とにかくシフォンもラブちゃんも無事?だったのが分かって、わたしの身体からドッと力が抜ける。

「・・・ま、まあ、とりあえず良かった・・・のかな。せつなちゃ・・・」

 苦笑いをしながら、傍らに立つせつなちゃんへと話しかける。


 わたしの、全てが、止まった。


 見たことの無い少女が、そこに、いたから。



 彼女は、下唇を噛み締め、眉を曇らせて、ボロボロと大粒の涙を流していた。
 ぶるぶると震えているのは、心がそのまま身体をゆすっているよう。


 それは、元ラビリンス幹部のイースでもなく、幸せの戦士キュアパッションでもなく、・・・いつも気丈に振舞おうとしている、東せつなでもなかった。


 ただ好きな人が傷ついてて、それを悲しんでる小さな女の子・・・。


 「バカァッ!!!」


 せつなちゃんは叫んだ。絶叫って言ってもいいかもしれない。
 そしてラブちゃんの元へと駆け寄り、その胸へ飛び込む。

「あ、あははは、やーゴメンゴメン。心配した?せつな?」
「バカバカバカ!!なんで、なんでいつも無茶ばっかりするのッ!!!」
「い、いやー、あたし的には無茶って思ってないんだけどねー、ははは」
「ラブが思ってなくたって、無茶は無茶よ!!バカバカバカ大バカ!!」

 泣きながらラブちゃんの胸を小さな拳で叩くせつなちゃん。その姿はまるで駄々をこねる幼児みたい。
 ラブちゃんはそんな彼女の肩にそっと手を回した。

「・・・あたしが無茶じゃないって思ったら、無茶じゃないよ、せつな。知ってるでしょ?」
「・・・知ってる・・・。でも、ラブだって、その度にあたしがどれだけ不安になってるか・・・知ってるでしょ・・・」
「…もちろん。・・・でも泣いてるせつなカワイイからね~、ついその顔が見たくて。はは」
「・・・ばか・・・」
「ごめん・・・でもせつな、そんなばかな子は、嫌いなの?」
「・・・・・・・・・ばか・・・」

 ラブちゃんの浴衣の襟をギュッと掴んで、せつなちゃんはそのまま胸に顔を埋めた。
そんなせつなちゃんを、ラブちゃんも愛おしげに抱きしめる。



ドーン!ドドーン!!

 轟音とともに、夏の夜空に光が咲いた。


 あ、花火だ。もうそんな時間なのね。

 そうだ、花火見なきゃ。花火は綺麗だもん。

 顔を上に向けないと見えないよね。

 そしたらラブちゃん達が見えなくなるけど、仕方ないよ。

 ・・・おかしいな。花火・・・なんか歪んで見える。

 まるで水たまりに映ってるのを見てるみたい。




 わたしの心に、花火の音にかき消される事もなく、黒い声が響く。





 ドウシタラセツナチャンノスベテヲ、ワタシヒトリノモノ二デキルノ?







                                             了

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