1
「……どうしたの、お嬢ちゃん。なんか悩んでるみたいだけど?」
「え?……あれ?カオルちゃん、あたしこんなの頼んでないけど……」
「え?……あれ?カオルちゃん、あたしこんなの頼んでないけど……」
ジュースのコップを持ってきてくれたカオルちゃんに、あたしは聞き返した。
カオルちゃんは二カッと笑う。
カオルちゃんは二カッと笑う。
「サービス。夏向けにさ、新メニュー作ってみたんだ。試しに飲んでみてよ」
蝉の声も賑やかな、夏の日の午後。
今日はダンスレッスンも、読者モデルの仕事も無いあたしは、一人でドーナツカフェへとやって来ていた。
いつもならラブやせつな、……それにブッキーも誘うところだけど。
今日はダンスレッスンも、読者モデルの仕事も無いあたしは、一人でドーナツカフェへとやって来ていた。
いつもならラブやせつな、……それにブッキーも誘うところだけど。
「ありがとう。……ねぇ、カオルちゃん。あたし、悩んでるように見える?」
「悩んでないコは、オジサンの作ったドーナツ残したりしないよ。……って自信持ちすぎかな。グハッ」
「悩んでないコは、オジサンの作ったドーナツ残したりしないよ。……って自信持ちすぎかな。グハッ」
テーブルの上には、一口だけ齧ったドーナツが一つ。
「オジサンで良かったら、話聞くけど?口はよく開くけど、心にはちゃんと鍵ついてるから」
「―――ありがとう。カオルちゃん」
「―――ありがとう。カオルちゃん」
ちょっとだけ迷ってから、あたしは話し出した。
「――――もしも自分の知り合いが、隠し事したり、ウソついたりしたら、どうしたらいいのかしら?」
「うーん……相手が女の子だったら許しちゃうかな。オジサン、女の子のウソとワガママは無条件で許す事にしてるんだ」
「もう……フザケないで」
「うーん……相手が女の子だったら許しちゃうかな。オジサン、女の子のウソとワガママは無条件で許す事にしてるんだ」
「もう……フザケないで」
握り拳で叩く真似をするあたし。
「冗談冗談。いやホント。―――相手はお嬢ちゃんの大切な友達なのかな?そこまで悩むって事は」
「―――そう……そうね。何よりも大事な……友達よ」
「―――そう……そうね。何よりも大事な……友達よ」
ふむ、とカオルちゃんは顎に手をやり、いつになく真剣な表情。
「じゃあ、ウソも隠し事もしてないんじゃない?そのお友達は」
「え?」
「え?」
カオルちゃんは、白い歯を見せて笑ってみせて。
「そういうのは結局、お嬢ちゃんの考え方次第って事。分かっててもさ、大切な友達なら信じてあげればいいと思うよ。全部」
「でも―――」
「お嬢ちゃんだって、同じ立場になったら同じ事するかもしれないでしょ。お友達と」
「でも―――」
「お嬢ちゃんだって、同じ立場になったら同じ事するかもしれないでしょ。お友達と」
―――あたしだったら。
ううん、あたしだったら、そんな事絶対にしないわ。何があっても、彼女にウソや隠し事なんて。
ううん、あたしだったら、そんな事絶対にしないわ。何があっても、彼女にウソや隠し事なんて。
あたしの沈黙を不満のサインと取ったのか、カオルちゃんは続ける。
「ま、納得行かないなら突き詰めてみるのもアリかも。それも青春だよね。何かあったら、またここへ来ればいいさ」
軽く手を振ってワゴンへと戻るカオルちゃん。
その背中を見送りながら、あたしは大きく溜息をついた。
突き詰める、か。やっぱりそれしかないのかしら。
そう考えながら、カオルちゃんの持って来てくれたジュースを飲んで、苦笑い。
その背中を見送りながら、あたしは大きく溜息をついた。
突き詰める、か。やっぱりそれしかないのかしら。
そう考えながら、カオルちゃんの持って来てくれたジュースを飲んで、苦笑い。
「……分かっててやってるなら、スゴイわよね」
パインジュースを飲み干すと、あたしは彼女の元へ向かうため立ち上がった。
2
彼女と―――山吹祈里とは、しばらく会っていない。
レッスンは何回かあったんだけど、ブッキーの調子があまりにもひどくて……ミユキさんが夏合宿とプリキュアの活動の疲労が回復するまでは、ってお休みにしてしまったから。
レッスンは何回かあったんだけど、ブッキーの調子があまりにもひどくて……ミユキさんが夏合宿とプリキュアの活動の疲労が回復するまでは、ってお休みにしてしまったから。
「何か精神的なものもあるんだろうから、無理強いしても、ね?」
レッスンを休む事に唯一人反対したあたしに、ミユキさんはそう言ってウインクした。
あたしは、何も返せず言葉を飲み込んだ―――だけど。
不安、だった。
ブッキーに会えなくなる気がしたから。
あたしは、何も返せず言葉を飲み込んだ―――だけど。
不安、だった。
ブッキーに会えなくなる気がしたから。
嫌な予感ほど的中してしまうのだろうか。彼女はその後、あたしやラブ達の前に姿を現わさなくなった。
リンクルンに連絡しても、いつも、家のお手伝いが忙しくて、って返事ばかり。
リンクルンに連絡しても、いつも、家のお手伝いが忙しくて、って返事ばかり。
(―――ウソ、ついてるよね?)
その度に、あたしは答えの分かってる疑問を心の中で呟いた。
そうだ。答えは分かっている。
ブッキーは会いたくないのだ。あたし達―――いや、彼女達に。
そうだ。答えは分かっている。
ブッキーは会いたくないのだ。あたし達―――いや、彼女達に。
東せつな―――。
ブッキーは、彼女を、ラブの恋人であるせつなを……好きになってしまったから。
思えば、合宿の時から少し違和感を抱いてはいた。普段はどちらかというと人見知りで、大人しい印象のブッキーが、積極的にせつなに話しかけたり、練習着を作ってきたりしていたから。
でも、まだその時は、早くも仲間意識が芽生えたのかな、くらいにしか考えていなかった。
でも、まだその時は、早くも仲間意識が芽生えたのかな、くらいにしか考えていなかった。
(なんで気付いてあげられなかったんだろう……)
いつも彼女の隣で、彼女を見てきたはずのあたしが。
お祭りの夜まで、何も気付いてあげられなかった。
あの日が原因で、ブッキーはおかしくなってしまったのに。
お祭りの夜まで、何も気付いてあげられなかった。
あの日が原因で、ブッキーはおかしくなってしまったのに。
胸が、締め付けられるように苦しくなる。
(……どうして、話してくれなかったの?)
それも、答えは分かっている疑問。
きっとあたしには理解できないってブッキーは思ったんだ。女の子を、しかも友達の恋人を好きになるなんて、そんな歪んだ愛情を。
けど、あたしは―――話して欲しかった。
理解できなくても、例え間違ってるって思っても、あたしは―――彼女の支えになってあげたかった。
きっとあたしには理解できないってブッキーは思ったんだ。女の子を、しかも友達の恋人を好きになるなんて、そんな歪んだ愛情を。
けど、あたしは―――話して欲しかった。
理解できなくても、例え間違ってるって思っても、あたしは―――彼女の支えになってあげたかった。
(―――あなたの隣には、いつもあたしがいたじゃない……)
苦しさを押さえつけるように、着ているシャツの胸をギュッと握り締めると、あたしはブッキーの家へと向かった。
「あら美希ちゃん、いらっしゃい。祈里なら出かけてて、今いないわよ?」
動物病院のドアを開けると、尚子さんはあたしを見て言った。
「……そう……ですか……」
「どこへ行くかまでは聞いてないから……本人に連絡してみたらいいんじゃないかしら?」
「どこへ行くかまでは聞いてないから……本人に連絡してみたらいいんじゃないかしら?」
……それで彼女が、家の手伝いが、なんて言ったら……。
手を握り締めると、あたしは恐る恐る、尚子さんに確認する。
手を握り締めると、あたしは恐る恐る、尚子さんに確認する。
「分かりました……ところで最近、病院の方は忙しいんですか?ほ、ホラ夏だし……熱中症になっちゃう動物とかいたりして……」
「それがね、美希ちゃん。動物にとってはいい事なんだけど……。この間人と動物が入れ替わるおかしな事件があったでしょ?あれ以来、飼い主の方も動物の気持ちが分かったっていうのかしら。大切にしてるみたいで」
「それがね、美希ちゃん。動物にとってはいい事なんだけど……。この間人と動物が入れ替わるおかしな事件があったでしょ?あれ以来、飼い主の方も動物の気持ちが分かったっていうのかしら。大切にしてるみたいで」
尚子さんは、ふふ、と笑って。
「ここしばらくは開店休業みたいなものよ」
―――やっぱり。
動揺を悟られないよう、なんとかぎこちなく微笑んで、あたしは動物病院を後にした。
動揺を悟られないよう、なんとかぎこちなく微笑んで、あたしは動物病院を後にした。
3
ブッキーが―――ウソをついていた。
分かっていた事だったけど―――改めて知るその真実の衝撃は大きくて。
糸の切れた人形が倒れこむように、あたしは商店街のベンチに腰を下ろした。
分かっていた事だったけど―――改めて知るその真実の衝撃は大きくて。
糸の切れた人形が倒れこむように、あたしは商店街のベンチに腰を下ろした。
(どこにいるのよ、ブッキー……)
彼女に会って、話がしたかった。
ウソや隠し事を責めるのじゃなくて、ただ悩みを聞いてあげたかった。
泣きそうになったのなら、それを慰めてあげたかったのに。
ウソや隠し事を責めるのじゃなくて、ただ悩みを聞いてあげたかった。
泣きそうになったのなら、それを慰めてあげたかったのに。
(あんな悲しい顔なんて、もうさせたくないのよ……)
両手で顔を覆うあたしの脳裏に、あの花火の夜の光景が浮かぶ。
その途端、また胸が苦しくなりだして。
夜空に舞い散る光の中、一人、唇を噛み締め、涙を隠すように空を見上げていたブッキー。
そんな彼女を目にした時、あたしは―――――………。
そこまで考えて、慌てて頭を振る。
―――そんな事、あるワケないもの……。
―――そんな事、あるワケないもの……。
「美希ちゃん?何してるの、こんなところで?」
唐突にかけられたその声にハッとして、あたしは顔を上げた。
「……ブ…ッキー……?」
目の前には、不思議そうにあたしの顔を覗き込む、ブッキーの姿。
思わずあたしは立ち上がり、彼女の両肩を掴む。
思わずあたしは立ち上がり、彼女の両肩を掴む。
「ブッキー!!どこに行ってたの!?あたし、あなたの家まで―――」
「え?家まで来てくれたの?リンクルンに連絡してくれればよかったのに……」
「だってリンクルンじゃ―――」
「え?家まで来てくれたの?リンクルンに連絡してくれればよかったのに……」
「だってリンクルンじゃ―――」
そこまで言いかけて、あたしは言葉を飲んだ。
あまりにも、彼女の様子が普段と変わらなかったから。
……あたしの心配が、杞憂だったかのように。
あまりにも、彼女の様子が普段と変わらなかったから。
……あたしの心配が、杞憂だったかのように。
「?リンクルンじゃ……何?」
「……何でもないの。気にしなくていいわ」
「なんだか様子が変だけど……大丈夫?」
「……何でもないの。気にしなくていいわ」
「なんだか様子が変だけど……大丈夫?」
なんであたしが心配されてるのよ……。
はぐらかすように、彼女のきょとんとした顔から足元へ視線を落す。
その視界に、ブッキー以外の二対の足が入ってきて。
はぐらかすように、彼女のきょとんとした顔から足元へ視線を落す。
その視界に、ブッキー以外の二対の足が入ってきて。
「リンクルンじゃ言えないような、大切な用があったんじゃない?ね、美希たん」
「そうなの?―――美希、何かあったなら相談に乗るわよ?」
「そうなの?―――美希、何かあったなら相談に乗るわよ?」
ブッキーの横に並んだラブとせつなを、あたしは呆然と見つめた。
「それならちょうど良かった!今からラブちゃんの家に、美希ちゃんも誘って行こうって話してたの。何か用があったなら、そこでゆっくり聞くね!」
にっこりと微笑むブッキーと対象的に、あたしは唇の端を上げる事すら出来なかった。
ただ頭の中をグルグルと疑問だけが回り続けている。
ただ頭の中をグルグルと疑問だけが回り続けている。
(―――どうして、二人がブッキーと一緒にいるの?)
歩き出したせつなとブッキーの背中を、戸惑った顔で見送る。
そんなあたしの手を、ラブが両手で取って。
そんなあたしの手を、ラブが両手で取って。
「さ、早く行こ、美希たん」
「あ、で、でもあたし別に用なんか無いし―――」
「あ、で、でもあたし別に用なんか無いし―――」
一瞬躊躇ったあたしの耳元に、ラブはそっと口を近付けた。
「―――ウソつき」
あたしの心の中を読んだかのようなラブの囁きに、ギクッとする。
……でも、ウソなんかじゃないわ。ブッキーが立ち直ったなら、あたしはそれで―――。
動揺するあたしには構わず、ラブはあたしの手を引き、二人の後を追う。
……でも、ウソなんかじゃないわ。ブッキーが立ち直ったなら、あたしはそれで―――。
動揺するあたしには構わず、ラブはあたしの手を引き、二人の後を追う。
「……なんちゃってね。待ってよー、せつな、ブッキー!」
「遅いわよ、ラブ。ねえ、今ブッキーと話してたんだけど―――」
「行く前に、お菓子とか買って行きましょ?四人揃うのも久しぶりだし、色々話したいよね!」
「わはー、いいねー。確かアイスなら家にあった筈だから―――」
「遅いわよ、ラブ。ねえ、今ブッキーと話してたんだけど―――」
「行く前に、お菓子とか買って行きましょ?四人揃うのも久しぶりだし、色々話したいよね!」
「わはー、いいねー。確かアイスなら家にあった筈だから―――」
いつも通りの、取り止めの無い会話。
けど、あたしはその輪に入る事も出来ず、ただ無言で後ろを歩いていた。
けど、あたしはその輪に入る事も出来ず、ただ無言で後ろを歩いていた。
ブッキーは、せつなへの想いを断ち切ったんだわ。
それなら、何も今更話を蒸し返す事もないし―――。
あたしが彼女のために何もしてあげられなかったのは―――悲しいけど……。
それなら、何も今更話を蒸し返す事もないし―――。
あたしが彼女のために何もしてあげられなかったのは―――悲しいけど……。
「?美希ちゃん、聞いてる?」
ブッキーの声に、我に返る。
「あ、な、何?ブッキー?」
「お菓子、何がいいって話。……本当に大丈夫?いつもの美希ちゃんらしくないけど……」
「だ、大丈夫だってば」
「ならいいけど……」
「お菓子、何がいいって話。……本当に大丈夫?いつもの美希ちゃんらしくないけど……」
「だ、大丈夫だってば」
「ならいいけど……」
そう言って、ブッキーは楽しげに話しているラブとせつなをチラッと見ると、二人の会話に入っていく。
―――その目を見たとき、あたしには分かってしまった。
―――その目を見たとき、あたしには分かってしまった。
彼女は想いを断ち切ってなどいないという事に。
ブッキーは、ウソをつき続けているんだ――――――。
4
「すっかり遅くなっちゃったね、美希ちゃん」
ラブの家からの帰り道。ブッキーは明るい声であたしに話しかけてきた。
あたしはといえば、ラブの家でも考え込んだまま、ほとんど無言で。
そんなあたしの様子を意に介してないかのように、いつになく饒舌に彼女は続ける。
あたしはといえば、ラブの家でも考え込んだまま、ほとんど無言で。
そんなあたしの様子を意に介してないかのように、いつになく饒舌に彼女は続ける。
「でも面白かった!ずっとね、おウチのお手伝いばっかりしてたから、皆に会いたかったの!」
うーん、と背伸びをするブッキー。
でもあたしには分かってる。
でもあたしには分かってる。
「……そうね。ブッキー、しばらく忙しそうだったもの」
「そうなの!夏休みに入ってから、ずっとお客さんが途切れなくて――――――」
「そうなの!夏休みに入ってから、ずっとお客さんが途切れなくて――――――」
彼女が、必死でウソをついてるんだって事が。
病院の手伝いの事も、ラブの家で彼女達と楽しそうに笑いあっていた事も。
病院の手伝いの事も、ラブの家で彼女達と楽しそうに笑いあっていた事も。
「ふふっ、また来週からダンスのレッスン、頑張らなくちゃ。やっぱり皆と踊るのは、楽しいもの!」
その微笑みも、その言葉も。
全部、ウソだ。
全部、ウソだ。
「……レッスンね。随分調子悪かったみたいだけど、大丈夫なの?」
「うん!もう平気。……今日皆から元気を分けてもらったしね」
「うん!もう平気。……今日皆から元気を分けてもらったしね」
軽くステップを踏みながら、彼女はそう言った。
(じゃあ、ブッキー。さっきの目は何?)
ブッキーが、さっきラブとせつなの話に入る時、一瞬見せた、あの目。
あの目の中には、確かに嫉妬の光が宿っていた。
―――あたしは知らないうちに、自分のスカートを握り締めていて。
あの目の中には、確かに嫉妬の光が宿っていた。
―――あたしは知らないうちに、自分のスカートを握り締めていて。
「美希ちゃん、ここの振り付けって、これであってたよね?」
クルッ、とあたしを振り返るブッキー。
彼女は、にっこりと笑っていたけど。
彼女は、にっこりと笑っていたけど。
あたしには、今の彼女は花火の夜と同じにしか見えなくて。
悲しみを堪えてる姿にしか―――。
胸が、苦しくなる。
「……合ってるわよ、調子悪かった割には、ちゃんと踊れてるし。ま、あたしは信じてたけど」
「へへ……美希ちゃんがそう言ってくれるなら、わたし、完璧?」
「へへ……美希ちゃんがそう言ってくれるなら、わたし、完璧?」
ブッキーは、ウソをつき続けようと、決めたんだ。
せつなの傍に居れるだけで、同じ場所に立っているだけで、満足しようって。
ラブとせつながいつも一緒で、離れないと分かってて、それでも。
せつなの傍に居れるだけで、同じ場所に立っているだけで、満足しようって。
ラブとせつながいつも一緒で、離れないと分かってて、それでも。
――――――好き、だから。
だから、彼女は自分の心にさえ、ウソを――――……。
「美希ちゃん、どうかした?……やっぱりどこか調子悪いんじゃ……?」
そう言って、ブッキーはあたしの瞳を見つめてくる。
その顔を見た途端に、彼女だけじゃなく、全てがあの夜に重なって思えてきて………。
その顔を見た途端に、彼女だけじゃなく、全てがあの夜に重なって思えてきて………。
ドクン!
あの夜を思い出すたびに感じていた胸の苦しさが、消えた。
代わりに、鼓動が高鳴り出す。
―――あの夜、あたしは悲しみを堪えているブッキーを見て、なんて思った?
ラブの囁きが、耳元に蘇る。
代わりに、鼓動が高鳴り出す。
―――あの夜、あたしは悲しみを堪えているブッキーを見て、なんて思った?
ラブの囁きが、耳元に蘇る。
(―――ウソつき)
そうだ。あたし……あたしは………。
「か、考え事してただけよ。大丈夫だって!」
「本当?」
「本当?」
なおもあたしを見つめるブッキーから顔を逸らし、隠すように頬に手をやる。
やだ……熱くなってる。赤くなってるの、気付かれてないわよね?
やだ……熱くなってる。赤くなってるの、気付かれてないわよね?
あたしはあの時。
ブッキーを抱きしめたいって、思ったんだわ。
悲しい顔の彼女を、守ってあげたいって。
心の底から、愛しく感じて。
きっとこれは、ずっと前からあたしの中にあった感情。
あたし自身が自分にウソをついて、隠してきた思い。
心の底から、愛しく感じて。
きっとこれは、ずっと前からあたしの中にあった感情。
あたし自身が自分にウソをついて、隠してきた思い。
「……そうだ!ね、美希ちゃん。結局、リンクルンじゃ言えないような大切な用って……何?」
今の会話から思い出したのか、ブッキーが尋ねてきた。
あたしは乱れそうになる気持ちを押さえ込むのに必死で、言い訳なんか考えている余裕も無く。
あたしは乱れそうになる気持ちを押さえ込むのに必死で、言い訳なんか考えている余裕も無く。
「あ、あ、あれね。い、今考えたら、大した事じゃなかったわ」
「―――もう……やっぱり変だよ?今日の美希ちゃん―――」
「―――もう……やっぱり変だよ?今日の美希ちゃん―――」
少しだけ困ったように言うと、ブッキーは優しい声で続ける。
「……何かあったなら、相談してね?」
――――あなたが、好き。
思わず口にしてしまいそうになりながら、深呼吸。
そしてかろうじて微笑むと、彼女に言葉を―――返す。
そしてかろうじて微笑むと、彼女に言葉を―――返す。
「当たり前でしょ?……だって、あたしはブッキーが―――――」
5
「やぁ、いらっしゃい。今日も一人?―――どう?その後」
あたしは今日もドーナツカフェへとやって来ていた。
カオルちゃんの明るい声に、曖昧な笑顔で答えると、席につく。
カオルちゃんの明るい声に、曖昧な笑顔で答えると、席につく。
「まあ、それでもこの間よりマシみたいだね」
「………カオルちゃんには何でもお見通しみたいね」
「そうそう、俺、超能力あるから。おみ透視、なんてね。グハッ」
「………カオルちゃんには何でもお見通しみたいね」
「そうそう、俺、超能力あるから。おみ透視、なんてね。グハッ」
カオルちゃんのジョークに苦笑いして、少し考えたあと、話を切り出す。
「色々考えたんだけど、カオルちゃんの言うみたいに、信じてあげる事なんて出来ないみたい。でも、同じ立場になったら、同じ事するっていうのは……分かったわ」
ブッキーなら、「わたし、信じてる」って言ってくれるだろうか。
その前に、彼女はあたしのウソに気がついてもいないだろうけど。
その前に、彼女はあたしのウソに気がついてもいないだろうけど。
―――悲しい、ウソに。
「じゃあ少しはお友達の気持ちも分かったかい?」
その言葉に少し躊躇して、話を続ける。
「そう、ね。ウソをついたり、隠し事をするのは……辛いわ。一番大事な人に」
「きっと相手もそう思ってるさ」
「……それも分かるから―――今は何も突き詰められないわ。ただね、カオルちゃん」
「きっと相手もそう思ってるさ」
「……それも分かるから―――今は何も突き詰められないわ。ただね、カオルちゃん」
背筋を伸ばして、カオルちゃんのサングラスの奥を見つめる。
「自分にだけは、もうウソはつかないって、決めたの」
ブッキーは自分にすらウソをつく方法を選んだけど。
あたしは、あたしの心にだけは……ウソはつきたくない。
あたしは、あたしの心にだけは……ウソはつきたくない。
あたし―――蒼乃美希は、ブッキー、山吹祈里が、好き。
それが本当に、完璧なあたし。
だから、何があっても彼女の傍にいるわ。
あたしの言葉に、カオルちゃんはグッ!と親指を立てる。
「―――いいね。オジサン、そういう熱いの好きだよ。ちょっと待ってて」
ワゴンへと戻っていくカオルちゃんの背中を見ながら、あたしはもう一つ、心の中の決意に付け足す。
もしこの想いが……悲しい結末を迎えたとしても。
パインジュースの入った紙コップを二つ手にして、カオルちゃんが戻って来る。
「お待たせ。こないだはサービスだったけど、今日はおごり」
「何それ……どこが違うの?」
「何それ……どこが違うの?」
カオルちゃんの言葉に、コップを受け取りつつ、クスッと笑ってしまう。
「まあ細かい事はいいじゃない。それじゃ、お嬢ちゃんの誓いに―――」
自分のコップをあたしに傾けるカオルちゃん。
あたしはちょっと考えてから。
あたしはちょっと考えてから。
「いつの日か、あたし自身にだけじゃなく、彼女にもウソをつかなくていいように」
あたしはブッキーが大切な友達だと思ってる、なんて偽りの言葉じゃなくて。
大好き、って言えるように。
「乾杯」、とコップの縁を軽く合わせて、あたし達は互いに微笑んだ。
了
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