お熱い夜がお好き
- 小十郎×女幸村っていうより女幸村×小十郎
- タイトルは相変わらず映画のパロディだがまったく関係ない。
- 目隠し、69要素あり。
こんな感じで。
==========
けぶるような雨に構わず、幸村は槍を振るった。
「はっ! やっ!」
戦装束を身に着けると、気分が高揚する。稽古に出さずとも、と
女中が小言を言うが気にしない。
甲斐の虎、武田信玄より拝領した赤い装束は、幸村にとって肌の一部であり、
戦の象徴であり、己を鼓舞するものであり――とにかく、どこに嫁ごうと、
どこに身を置こうと、大切なものであった。
気分を高め、ゆるゆると降る雨を払うように槍を振るい、藁を縛った人形に突き立てる。
ふぅ、と細く息を吐く。体から湯気が吹いているように熱く、血が滾っているのが分かる。
もう少し、と幸村は槍を構え直した。
「奥方様」
女中の、毅然とした声。
屋敷のものは、幸村を名前で呼ばない。お方様、奥方様、と幸村を呼ぶ。
屋敷の主の妻なのだから当然だが、いつまで経っても慣れない。
「もう、日が暮れる時刻です。槍をおしまいください」
「まだ疲れておらぬ。何、日が暮れても奇襲があるのが戦だ」
「奥方様」
ぴしり、と鞭を打たれたような気がした。もちろん気のせいだが、幸村は
思わず目をつぶって肩を竦める。
幸村より年上の、幸村の夫と年を同じくするこの女中は、この屋敷の中でも
とびきり付き合いが長い。
口が堅く、武芸にも家事にも秀で、何より度胸が据わっている。たとえ主だろうと、
主の伴侶だろうと、遠慮はしない。
「ここは戦場ではありませぬ。日が暮れれば、今以上に冷えます。風邪でも
お召しになられたいのですか!」
びり、と空気が震えたような気がした。低い声は、声を張ると鞭を振るっているかのような迫力がある。
むぅ、と幸村は唇を尖らせた。頭を振って露を払うが払いきれない。二槍を
片手に持って髪をかき上げ、天を仰いだ。
霧のような雨の中ではよく分からないが、晴れていれば、西の空が見事な
朱に染まっている刻限だろう。
もうそんな時間か、とひさしの下に入り、槍を女中に預ける。かなり重い槍だが、
女中は苦もなく受け取っていつもの場所に片付ける。
「……冷えた」
「当たり前です」
ぴしゃりと言われ、幸村は呻いた。
手拭いを頭にかけられる。言葉は厳しいが、それは幸村の体を思えばこそ。
跡継ぎを、と言われて久しい。まだその兆しはないが、冷えればただでさえ
遠い兆しが更に遠のく。
「湯を沸かしてあります。早く体を温めてくださいまし」
「……小十郎殿は」
躊躇いがちに、夫の名を口にする。
女中は首を振った。今日は遅いと聞いています、と女中に言われ、ため息をついた。
女中が悪い訳ではないのだが、女中は幸村の頭を拭く手を止め、自分の頭を下げる。
「そなたが悪い訳ではない」
幸村は手拭いを首にかけた。雨を吸って重くなった戦装束を脱ぎ、衣桁にかける。
燃える炎の色を模した装束も、どこか暗く澱んで見えた。
けぶるような雨に構わず、幸村は槍を振るった。
「はっ! やっ!」
戦装束を身に着けると、気分が高揚する。稽古に出さずとも、と
女中が小言を言うが気にしない。
甲斐の虎、武田信玄より拝領した赤い装束は、幸村にとって肌の一部であり、
戦の象徴であり、己を鼓舞するものであり――とにかく、どこに嫁ごうと、
どこに身を置こうと、大切なものであった。
気分を高め、ゆるゆると降る雨を払うように槍を振るい、藁を縛った人形に突き立てる。
ふぅ、と細く息を吐く。体から湯気が吹いているように熱く、血が滾っているのが分かる。
もう少し、と幸村は槍を構え直した。
「奥方様」
女中の、毅然とした声。
屋敷のものは、幸村を名前で呼ばない。お方様、奥方様、と幸村を呼ぶ。
屋敷の主の妻なのだから当然だが、いつまで経っても慣れない。
「もう、日が暮れる時刻です。槍をおしまいください」
「まだ疲れておらぬ。何、日が暮れても奇襲があるのが戦だ」
「奥方様」
ぴしり、と鞭を打たれたような気がした。もちろん気のせいだが、幸村は
思わず目をつぶって肩を竦める。
幸村より年上の、幸村の夫と年を同じくするこの女中は、この屋敷の中でも
とびきり付き合いが長い。
口が堅く、武芸にも家事にも秀で、何より度胸が据わっている。たとえ主だろうと、
主の伴侶だろうと、遠慮はしない。
「ここは戦場ではありませぬ。日が暮れれば、今以上に冷えます。風邪でも
お召しになられたいのですか!」
びり、と空気が震えたような気がした。低い声は、声を張ると鞭を振るっているかのような迫力がある。
むぅ、と幸村は唇を尖らせた。頭を振って露を払うが払いきれない。二槍を
片手に持って髪をかき上げ、天を仰いだ。
霧のような雨の中ではよく分からないが、晴れていれば、西の空が見事な
朱に染まっている刻限だろう。
もうそんな時間か、とひさしの下に入り、槍を女中に預ける。かなり重い槍だが、
女中は苦もなく受け取っていつもの場所に片付ける。
「……冷えた」
「当たり前です」
ぴしゃりと言われ、幸村は呻いた。
手拭いを頭にかけられる。言葉は厳しいが、それは幸村の体を思えばこそ。
跡継ぎを、と言われて久しい。まだその兆しはないが、冷えればただでさえ
遠い兆しが更に遠のく。
「湯を沸かしてあります。早く体を温めてくださいまし」
「……小十郎殿は」
躊躇いがちに、夫の名を口にする。
女中は首を振った。今日は遅いと聞いています、と女中に言われ、ため息をついた。
女中が悪い訳ではないのだが、女中は幸村の頭を拭く手を止め、自分の頭を下げる。
「そなたが悪い訳ではない」
幸村は手拭いを首にかけた。雨を吸って重くなった戦装束を脱ぎ、衣桁にかける。
燃える炎の色を模した装束も、どこか暗く澱んで見えた。
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