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亡きものの記録

「炎の微笑」「奥州の休日」の続き。
  • 愛姫男体化していて亡くなっているトンデモ
  • 政宗が未亡人
  • にょ元就が出るけどちょっとオチ的な使い方。不快な人がいたらごめんなさい。
  • タイトルは古い映画のパロディだが、相変わらずまったく関係ない。
  • 元親の年齢がよく分からんので、己の欲望のままに「三十路過ぎてもやんちゃなにーさん」でいかせてもらった。


文机に伏せ、政宗はため息をついた。
雨が降っている。空気がじっとりと重く、春特有の温さが肌にまとわりついてくる。
頭の芯に霞がかかり、妙な痛みを覚えた。
幼い頃、春は好きだった。雪から解放され、草木が芽吹き花が咲くのを愛でられる。
一年で一番楽しい季節だった。
風が吹き、大きな雨粒が戸を叩く。肩を竦めて戸を振り返った。灯りが揺らめいて
煙を出すが、政宗は視線を戸に固定する。ゆっくりと十を数え、ため息をついて目を伏せる。
既に夜は遅く、不寝番以外の者は眠りについただろう。政宗も眠っていることになっている。

闇に沈むのが怖い。
(――もう、三年。いや四年か)
女ながらに伊達の嫡子として認められ、家督を継いで二年。その間に父を失い、
奥州を統一し、天下に名乗りを上げるようになった。
家督を継ぐ前のことは、意外と諸国には知られていない。
手首で硬い音が鳴る。手首に絡めたそれを見て、ますます自虐の念を強める。
翡翠が数珠のように通され、金の十字架のついた首飾り――ロザリオである。
十字架部分には細かな彫刻が施されている。磔に処された人が彫られたものばかりではないらしい。
  ――……ほら、綺麗でしょう? 政宗殿に差し上げます。
春の夜は、眠るのが怖い。
  ――お傍におります。私が、あなたの目になります。
褥は冷えていて、独りだと実感する。
一度温もりを覚えると、一人寝が辛い。温かなものと寄り添う生き方を覚えると、
失った時、より一層辛くなる。
その温もりを己が手で殺めた事を、悔いなかった日はない。
夜になると、春を迎えると、現れないかと思いを馳せる。
……いや、怯えているのか。
  ――切支丹は、生涯一人の人を愛するのです。私も、生涯あなた一人を愛します。
「……生涯、か」
手首のロザリオを首にかける。
独りで生きていくと決めた。それがせめてもの償いだと、ロザリオを握り締める。
不意に、西海に棲む鬼を思い出した。首を振ってそれはないと拒み、褥に潜る。
眠れないと分かっていても、格好だけはつけておかねばならない。
  ――ごめんなさい……。
今わの際の言葉。何故、あんなことを。
目から光が消えた瞬間は、今も政宗の瞼に焼きついていた。